未だに洞窟に入ってない俺らと、相棒とは別のヤツ
まず第一。
シャルを作る目的としては、データ収集だということ。
つまり、それ用の体ということは、さまざまな観測用機材を積まないといけないというのは前提だろう。
また、シャルが解析をしているところを見せてもらったが、実物をスキャンしているようだ。なのでシャルが自分で歩いて行かないといけない限り、俺が持ち運ぶ必要があるってわけだ。
そして第二。
体があるということは、今までのように傍観はできない、ということ。
これまでは俺とヌイだけが戦っていたが、今度からはシャルも戦う必要があるだろう。現実の時だけ実体化してゲームの中じゃいつも通りですなんてのは許されない。というか俺が許さん。
なので自分でも戦闘力を持ってもらうことにしよう。
俺が思いついた重要な点としてはこの二つだ。ほかにもいろいろ対策やらすることはあるだろうが、一応この二つを加味したうえで考えてみる。
全体的な形としては、最初は人型がいいかなと思ったのだが、いろいろ問題が出てくる。
戦闘面であれば問題は無い。むしろ人型であれば自由に動けるし、指示を出さずとも判断してサポートもできるだろう。
しかし現実の地球では浮くこと間違い無しだ。データ収集用の機材を持ち、ひたすら周囲の物をスキャンし続けるシャルを想像すると、確実に警察のお世話になるところが予想される。
機材をコンパクト化し、人の体に組み込んだとしてもそれはもうロボット人間になってしまい、それはそれで別の人達に連れてかれる。そうなると俺たちに守る術はない。現実では俺も【クリエ】を使えないし。
あと人の形にするとしたらきっと女性にしてしまうだろう。男の子のサガというものだ。だがそうするとヌイからの目線が怖い。現に今ちょっと考えただけでも背筋が凍ったもん。なので却下。
では別の形。
人ではなく、自分を守れる姿…
動物の類だろうか。
例えば、鳥。
鳥であればどこにでも飛んでいけるし、上空からスキャンをすることだって可能だろう。
しかしそれでは戦闘力が不安だが、そもそも上空にいるなら問題はない、のか?
例えば、犬。
犬であれば外に出ても散歩のふりができるし、人と触れ合っても問題なくて、戦闘力もある。
あとやっぱモフることができる。これに尽きる。
こうしていろいろ考えていくうちに、少し奇抜なアイデアを思いつく。
「…手軽に持ち運べて…ずっと身に着けていられる……………服?」
服。そう服だ。
シャルを服の形にして、俺が羽織る。
そうすることで見た目の問題をクリアし、機材系統はコンパクトな物にする予定だから重量も問題ない。しかも俺の防御力が上がり、戦闘中に補助を受けることだってできる!
変形機構で別の形に変形できればなお良し。変形ができるなら今後の拡張性に関しても広く、何より男のロマンだ。これは取り入れるしかない。
服の形状ではサポート、別の形状では単独行動ができる…!素晴らしいプランだ!!
「決まったな…俺の完璧なプランが…!」
「スー、ずいぶんと考えてたね?もう洞窟の前だよ?」
「そんなに」
どうやら俺が考え込んでいる間に目的地についていたようで、目の前に洞窟…洞窟?がある。
いや…これ洞窟じゃないだろ。完全に地下室だ。
ここのまわりだけ妙に石造りだし、下に行くのに階段が続いてる。どうせこの先に宝箱があって、その周りにメッセージでも出ているのだろう。おそらくエルデンリング。
…まぁ傍からの見た目は置いておくとして、ここが目的の場所でいいようだ。シャルの地図からして間違いはない。
少しだけ覗いてみると、中で何かが光っているのがわかる。今のところそれしか情報が無いので、早く中に入ってみたいとうずうずしてしまう。
だがそんなことはどうでもいい!今はシャルの体を作ることが先決!!
「シャル!今からお前の体を作るぞ!」
『…このタイミングでですか?本当にちゃんと考えました?』
「考えたわ!ほれお前も準備しろぃ!」
シャルはあきれたような言葉遣いを残し、演算に入る。なんだかんだで俺の言うことには素直に従ってくれるあたりいいAIなんだよな。まぁ俺の思いつきに振り回されてるだけかもしれないけど。
ヌイはすでに階段のところに腰掛けて、俺が何を作るのかを楽しみに待つことに決めたらしい。こっちはすでに慣れてるあたり、流石だぜと言いたくなる。
「オラッ!生成!」
『…なんですかその掛け声は』
俺がシャルを生成し始めると、淡い光の粒子が宙を舞う。
そして目の前に集まりはじめ…だんだんと形状を作り始める。
俺が考えた服の形状…それは、羽織るタイプの服の中で一番好きなトレンチコートだ。
素材に関しては高耐久性ナノファイバー(構造は知らないのでシャルにお任せ)を使用して、色は黒基調でシックに。
後は適当にこんな変形したらいいなとかをどんどんと作っていく。
光の粒子はめちゃくちゃ困惑したようにグニャグニャと変形を続け…出来上がったのは作り始めてから約30分後だった。
「………っしゃぁ!!やっとできたぁ!」
「長かったねぇ」
俺が作っている最中、暇になったのか俺の隣に来ていたヌイがそう喋りかけた。実際めちゃ長かったし、そういうのも仕方ないことではあるが。
大きめの満足感を感じつつ、出来上がったシャルをもう一度ちゃんと見てみよう。
形は先ほど言った通り黒基調のトレンチコートだが、至る所に機械的な部分が盛り込まれている。
見た目の材質は普通のコートと変わらないが、実際触ってみると手触りが良いのに硬い。着心地は変わらないだろうが、防御性能としては破格だろう。
背中には大きくリアクターが設置されており、白と黒が入り混じるエネルギーが傍から見ることができる。なお、ここは変形して隠すことが可能だ。
腕の部分には柔軟性の高いタッチスクリーンが内臓されており、様々な操作を行うことができる。こちらも隠すことが可能。
そして真骨頂ともいえる部分のスキャン機材や武器などは、すべてポケットの中に隠すことにした。
また、それらの道具はポケット内に設置されているアームによって取り出すことができる。これのおかげで戦闘中にサポートができるというわけだ。
なお排熱に関してはエアーを裾の部分から出すことにしている。これで風が無いところで服をたなびかせることもできるぞ!
「我ながら完璧だ…何度でも言える…完璧だ…」
「……主…」
あ、後一応発声機能も付けておいた。今までずっとウィンドウで会話してたの割と面倒だったし。
このおかげで文字だけでも呆れが伝わってきていたのに、さらにも増して感情の発露が見て取れる。もっと素直になっていいんだぜ?
「おおー、スー、すごいのを作ったねぇ」
「だろ?いやぁ時間かけたかいがあったなぁ!ははは!」
「あー、まあそうだねぇ…」
んあれ?ヌイからの評価が芳しくないな。割と適当に流されてる気が…。
もしかして…俺あんまりデザイン能力が無いのか…?俺が一人で盛り上がってただけか…!
みんなのなぁなぁな反応を見て恥ずかしくなる。本来の目的を忘れて俺は何をしていたのだろう。冷静になって考えてみたら光の洞窟の調査をこなしたあとでもよかっただろう。どうせここは安全地帯なんだし。
「…ごめん、早く調査しよう」
「え!?なんで急に落ち込むの!?」
「…主が抱いている感情としては、「グループ内の内輪ノリで楽しんでると思ったら笑っていたのは自分だけだった」というものに近いと思われます」
「そんな詳細に言わなくてもよくない!?」
「す、スー?大丈夫だよ?私はスーといられて幸せだからね?」
「それって結局のところ今回の件は楽しめてないってことじゃないすかねぇ…?」
シャルの傷口に塩を塗り込むような言葉につられて、ヌイの優しい言葉すら傷口を撫でて痛い。
これが…罪の痛みか…。
俺はとても複雑な表情を浮かべながら、シャルを着込むことにした。あ、結構あったかいな。
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