戦闘に関する考察と、相棒のアイデアにいつも助けられる俺
「えへへ~、スーとデートだ」
「二人で行く試験をデートというのはヌイが初めてだろうね」
「…うれしくないの?」
「嬉しいに決まってるだろ」
「…んゅ…//」
ヌイのおふざけに、俺はまじめな回答で返す。
どうせ頭の中まで除かれてるんだ、ここで取り繕ってツンデレみたいなことをしてもただこのやり取りが加速するだけだと知っているので、本心で答えた。
「確かこっちの方だよね」
「ああ、シャルのマップを見る限りこっちであってる」
『まさかお試しで置いたものがこうなるとは思いませんでした』
俺たちは、村の近くにあるという【光の洞窟】と呼ばれている場所に向かっている。
同行者は無く、俺とヌイだけだ。
さて。なぜここに向かっているのかというと。
「ちゃんと傭兵としての力があるかを試すために、簡単な依頼を受けてもらうわ」
とのことで、近くにある光の洞窟の調査を依頼されたのだ。
像ができてからしばらく見に行くことができていなかったために俺らに白羽の矢が立ったわけだが、そんな危険な予感がする場所に新人二人で行かせていいものか?とヌイは抗議した。
だが、話を聞くとそこは逆に安全な場所として村の中では常識となっているようだ。なぜなら光の洞窟には何やら神聖な力があるらしく、魔物が近づかないらしい。
なのでそこに行って調査する、というのはこの村のギルドでは試験用の依頼として最適なのだそう。
迷わずに行けるか、納期に間に合うか、きちんと調査ができるか。きっとこの辺りが目的なのだろうと思う。
実は…この光の洞窟、シャルが作ったものらしい。
厳密には少し違うのだが、シャルが言うには『データ欠損してるけどなんか置けそうだったから置いた』とのこと。そんなことして腐海の発生源とか置いてたら大変なことになってたぞ。エルデンリングのリムグレイブみたいに!
しかしシャルが置いたものを調査することによりデータ修復がなされ、俺たちができることが増える。そう考えるとファインプレーであり、今回の依頼はうってつけのものだった。
そんなとき、見慣れた影が襲い掛かってきた。
「スー!フェアリードレイクだよ!」
「了解ィ!」
光の洞窟が安全と言っても、道中はその通りではない。
俺は100均で売っていたダーツの矢を手早く生成して投げつけた。
洞窟に行くまでの道のりですでに数回フェアリードレイクと戦闘している。どうやらこの辺りはこいつしかいないようなのでそれ以外と戦闘することはないのだが。
とにかく、何度か戦闘を繰り返すうちに最適解を見つけることができた。
最初は全力で追いかけて近接攻撃で倒していたが、「初手遠距離攻撃で落とせば楽なんじゃない?」という鶴の一声により遠距離攻撃が採用になった。なお投げるものは検証もかねていろいろなものを使用している。
しかし、俺の遠距離攻撃だけでは落とすことはできても、倒すことはできない。
なので、ここで相棒の出番というわけだ。
「私の今回の検証!ロイター板によるジャンプ攻撃は強いのか!」
ヌイがフェアリードレイクに向かって走る途中、足元にロイター板、いわゆる跳び箱で使う踏切板を出して踏み込む。
なおロイター板が加速をつけてくれるのは上になので、ヌイはそれを加味したうえで上空を飛んだ。
彼女が空を飛ぶ美しさは計り知れなくて、プロアスリートが美しい演技をしているかのように幻視した…のだが、高く飛びすぎて筋肉番付みたいになってる。金剛ちゃんかな?
「メテオストライク!」
「いやそれどこの片腕金属のおっさん」
平原をつんざく爆裂音を出しながらフェアリードレイクを殴った。
ズガン!だとかバゴン!という音を出して着地すると、砂埃が舞う。
そしてゆっくりと立ち上がり、フェアリードレイクの亡骸を眺めた。
「今回は失敗だね。ボロボロだよ」
「オーバーキルすぎる…」
叩きつけた地面の土はえぐれ、ヒビが周りに伸びている。跳び箱を飛ぶための力が地面に向けられるとこうなるの…?と不安になった。アスリートというのは火力が高い。
まぁそんなわけでいまのところ相手に何もさせずに勝っているので、最初よりかは成長しているはず。
不満があるとすれば…俺が生成できるもののラインナップか。
「うーん…しかし遠距離攻撃なら銃が使いたいんだけどな…」
「私たちの理解力じゃ豆鉄砲にしかならなかったねぇ」
「モデルガンと同威力しかないとは…」
俺としては安全な攻撃手段が欲しく、銃なら何とかなるかもと思っていたが、実際生成してみるとあまりにもお粗末な出来になってしまった。
一応、銃の簡単な構造は知っている。銃弾の尻の部分を叩くことにより、弾が発射、ライフリングにより回転を付けて遠距離まで飛ばす、という一連の流れ。
しかしこれを理解しているだけではまだ十分ではないようだ。本物を見たことが無いというのがデカい。車の時とは逆だわ。
見たものを模倣できるとのたまっていたことに関してシャルに問い詰めたが、『修復するためには十分なデータが必要ですよね?きちんと理解していること、もしくは私が解析をすることが前提なのです』とあっけらかんと言われた。きちんと勉強すればそのうちデータ修復が成されて本物の銃が使えるのでがんばってほしいとも。
なお、今回モデルガンに類似していたのは、実際に見たことがあってエアコッキング式の構造を理解しているからそちらに合わせたらしい。見た目詐欺じゃねえか、せめてガスガンにしろ。
「…勉強しないと力が使えない、か…」
『せめてその空っぽの脳みそを基礎知識でいっぱいにしてくださいね』
「辛辣!」
仕方ないな、一度どこかでログアウトして大学の図書館で使えそうな知識でも探そうかな、と思っていたところ、ヌイがある提案をする。
「…んー、修復に必要なデータって、使う人が理解してるか、シャルが解析すればいいんだよね?」
『そうです』
「で、現実の物はシャルがいないから解析できない、と」
『その通りです。なので主の脳みそで代用しようかと思っているのですがこれが難儀でして』
「何?俺を煽ろうキャンペーンでも開催してるの?」
「………それさ、逆に言えばシャルがいれば解析できるってことだよね?」
『…なるほど、一考の余地ありですね』
「…………………おお!そういうことか!ヌイお前天才か!?」
ヌイの考えが理解できた俺は、彼女を褒めちぎった。テンションが上がった俺たちはハンドジェスチャーで喜びを表現しあう。最後にハイタッチもしてご機嫌だ。
さて、ヌイが何を言いたいのか、というと。
『わかりました。では、私が入りやすいよう内部構造は考えますので、外見は主が出力してください』
ヌイの前例があるのだ。シャルには機械の体で出てきてもらおう、ということ。
これであれば俺が知識を詰め込む必要は無いし、シャルが直接解析できるなら精度も完璧だろう。
体に関してのデータはシャルが最適化してくれるらしいし、さらに体が物質化しているなら現実に持ち出せる。
ナイスアイディアだ。俺の仕事はシャルのデザインだけ。
一度落ち着いて、深く深呼吸する。
いいアイデアだとしても、それを支える基礎が無いと破綻する。そして今回の基礎は俺とシャルだ。
シャルはAIなので失敗しない…しないか?最初失敗してたけど、きっと反省して何とかしてくれるだろうという気持ちを持つことが重要。きっとそう。
だが俺は人だ。失敗なんぞ星の数ほどしている。今回も失敗するかもしれないと思うと、気も引き締まってくる。
ヌイには「長考に入るから周りの敵を倒してほしい」と伝えると「スーが頑張るんだもんね、私も仕事しなくちゃ」とにっこりと微笑んで受け入れた。優しすぎるぜ我が相棒よ。君の仕事はアイデア出しの時点で終わってるはずなんだぜ?
というわけで、フェアリードレイクが殺される音でも聞きながら考えてみよう。
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