ギルドと、相棒の行動の理由
キィと古くなっている扉を開けると、ギルドというよりかは西部劇に出てくるバーのような印象を受けるカウンターが目に入る。
店内は人が少なく、紙が貼ってあるボードを見てはため息をつく人が数人いる程度だ。
部屋の隅の方に置かれているいくつかのテーブルの上には、ガラスでできたジョッキが置かれており、まるで先程まで誰かがいたような感じがした。
天井からは謎の力で光っている玉が吊られており、部屋全体を淡く照らしている。
レイエスがずんずんと進んでいき、カウンターの方に進んでいく。
そこには憂鬱な顔でコップを拭いている女性が立っており、まるでバーテンダーのような雰囲気を感じさせる。
彼がその女性に近づくと、彼女は少しだけパァっとした顔を浮かべた後、レイエスに話しかけた。
「レイエスさん、先程の音はなんでした?」
「聞いてくれよソフィア、実はな…あの像破壊されたらしいぞ!!」
「本当ですか!?」
それを聞いたソフィアという女性はコップを落としかけるも、何とか保持した。
その後一度棚にコップを置き、レイエスに詳しく話を聞く体勢に入る。
レイエスとソフィアが事実確認をしている間、暇なのでシャルに話しかけてみることにした。
「シャル、さっきの像のことなんだが…この星であいつに該当する生物はいるか?」
『…検索中…該当しました、存在しています』
「…あいつって、やっぱり強いかな?」
『そうですね。今の主とヌイ様では返り討ちに遭う可能性が高いです』
「ふ~ん、ちなみに、そいつってどんな名前なのさ?」
『【灰の君主】です』
灰の君主、か。名前からして、灰を操るタイプらしい。物理攻撃が効くか微妙なところだ。
何故そんな君主さんが村に趣味の悪い像を置いて行ったのかはよくわからないが、人を閉じ込める、という力には少し興味というか、何か引っかかる。
「なぁシャル…なんであの像は「人を灰にする」んじゃなくて、「人を出られなくする」力があるんだろうな?」
『…どういうことですか?』
「いや…なんというかいまいち意図が読めなくてな。忘れてくれていい」
君主、ということは王様、と言っても過言ではない。これが単に灰を操れるから灰の王、というだけならいいのだが、それなら世界中のすべての物を灰にしてしまえばいい。それなら自分が操れるものが増えるわけだからな。
しかし、現状そうなってはいない。もしかしたらもっと時が進んだらそうなるのかもしれないが、どこにも灰の痕跡が見えない。
ここから考えられるのは、そもそも別の目的があるのか、灰の君主という名前だが、実際は別のことがメインなのかもしれない。
「スー?なにをかんがえてるの?」
「ん…その灰の君主とやらの目的」
「難しいこと考えてるねぇ」
どうやらヌイからしたらその辺の話はどうでもいいようだ。早々に話を切り上げたがっている。
のでおとなしくヌイと雑談して待つことにした。
「そういえば結局さ、なんで俺たちがやったって言わなかったんだ?」
「それはまぁいろいろあるけど…ここで英雄だって持ち上げられたら行動しづらいかなって」
「英雄扱いならいろんなことを斡旋してくれるんじゃないか?」
「その分の責務みたいなことも発生するんだよ。例えば村の付近の強敵の排除とかね」
ヌイは腰に手を当て、前傾体勢で指を立てる。あざとく感じるポーズだが、俺の背が低いせいで屈めざるを得ないらしく、少し申し訳なさを感じた。
だが目の前に垂れ下がる豊満な胸があるとそんな申し訳なさも吹き飛び、ちらちらと見てしまう。
そんな俺の行動に気づいたヌイは、少しどや顔をした後に元の姿勢に戻った。
「ま~、そんなわけで安全に強くなるためには順序が必要だと思ったので、言わなかった~というのが回答です!」
「いろいろ考えてくれて助かるよ」
「まぁほんとはスーが英雄扱いなんてされたらきっと言い寄る女が出てきてめんどくさいと思っただけだけどね」
「え??」
ヌイの狂気的な程の保護欲が顔を覗かせる。このようなセリフは小声で言うのがセオリーだと思っていたのだが、面と向かって言われてしまえば物語の主人公特有の難聴を発動させることもできない。
これは相棒として俺を守るという意気込みなのか、はたまた私を見てほしいという独占欲か。そんな彼女の言葉に動揺し、気の利いた言葉を一つも返せずに押し黙ってしまう。
それから数分後。
レイエスとソフィアと言われている女性はこっちに来てほしいといった手招きをしているのに気づき、カウンターの方に足を向けた。
近づいてみると、ソフィアは随分と高揚した顔で俺たちに話しかけてくる。
「あの像!!破壊されたって本当なんですね!!??」
「あ…ああ、本当だよ」
「うわーーー!!!!これでやっとバーテンダーの真似事をやめられるわ!!!やっほう!!!」
どうやら話を聞いている間にお酒を飲んでいたようで、テンションが上がりきっている。あんた仕事中じゃないのか。
そう思ってレイエスの方を見ると…レイエスも飲んでいた。なんだこいつ、俺たちを責任もって一人前にするんじゃなかったのかい。
「言ったろ~?本当なんだって!」
「いや~、レイエスの話は信じてたけど、流石に一人だけの話を鵜呑みにするわけにはいかないでしょ?」
けらけらと笑いながらソフィアが俺たちの前にコップを出して、酒を注ごうとする、が俺は飲めないので丁重にお断りさせていただいた。なお、ヌイは「スーが飲まないなら私も飲まないよ」と言っていたので、結局注ごうとしたお酒は自分のコップに注がれていた。まだ飲むんかい。
「んで~?あなたたちはそんなタイミングで偶然やってきた旅人ってわけね~?」
「そうですね、いや全くとても偶然なタイミングでビックリしました」
「ふ~~~ん??」
彼女は品定めするようにじろりと俺たち二人を見た。まるですべてに気づいているかのような目線を俺に向けるが、知らんぷりをする。
俺としてはレイエスが言ったんじゃないかという気持ちが強く、彼に目線を向けてみるが、彼は首をかしげるばかり。多分俺の意図が伝わっていないようだが、にやにやしているわけではないので多分無罪。
「…まぁいいわよ。私はソフィア。このルミナの村のギルドの受付嬢をやってるわ。宜しくね」
「俺はスーで、こっちがヌイ。宜しく」
「よろしくね~」
そういって俺たちは彼女を握手をする。しかし何気なくやっていたが、握手をする文化はこっちにもあるんだな。ランダムで作られた星とはいえこの辺りの常識とかそのあたりに関しては初期設定としてあったのだろうか。あとでシャルに聞いてみよう。
互いに挨拶が終わると、ソフィアは「じゃあ登録の準備でもしてくるわ」と言ってカウンターの裏の方に入っていった。きっとそっちには様々な書類でも置かれているのだろう。
俺たちはまた手持ち無沙汰になり、どうすっかなぁと思って今度はレイエスと雑談でもするかと思っていたのだが。
「はっ、こんなガキが傭兵になろうってのか?」
「ワハハ、まだ早えんじゃねぇのかい?」
部屋にまだ残っていた人々が口々に噂する。噂と言っても完全に揶揄しているが。
この状況は見たことがある。荒くれものが集まるこの場所で行われるそれは、いわゆる「新入社員歓迎会」というものだ。圧の強い上司からのありがたいお言葉を頂きながらキャパオーバーになるまで遊ばれる時間。
まさにテンプレ通り。もはや確定演出と言えるその言葉に、俺は怯む…ことは無かった。
楽しむと決めたのだ、むしろこの状況すらレア度の高い経験と言える。
さてどうやってこいつらの眼をひん剥いてやろうかと考えて気合を入れる。まるでテロリストが授業中に入ってきたときの対処法を考える小学生のごとく作戦を巡らしていると、ヌイが声を挙げた。
「…誰がガキだってぇ?」
「おぉすまんな、あんまりそう言われたくはないタイプか。だけどよ、ほんとにもう少し成長してからでもいいと思うぜ?」
「そうだぞ。俺が傭兵になったのだって割と最近だからな!」
「…あれぇ…?」
そういうと彼らは気前のよさそうな顔で笑った。「こいつは口が悪いんだ、すまんな」という言葉を俺たちにかけ、祝杯だと言って飲み物を進めてくる。どうせ酒だろそれ、飲まないぞ。
俺とヌイはぽかんと口を開け、拍子抜けだといった感じにカウンター席に座り込む。
「…逆テンプレ…」
「スー、私ちょっと帰りたくなったかも…」
テンプレ通りではない、逆テンプレ。
最近だとこの方向すらよく見かけるようになったなぁ、と考えることしかできなかった。
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