初めてのまともな戦闘と、相棒との連携

ドラゴンはまたもや毒火花を出そうとしてくる。予測だが、ドラゴンの攻撃で考えられるのはブレス系だ。なので完全に打たれたら広範囲に攻撃が来るだろう。ならばまず一度目の攻撃は。



「そぉい!!!」



持っていた剣をブン投げる。剣は回転しながらドラゴンの方向に向かうも、華麗な動きにより避けられる。が、もともと当たるとは思っていない。その隙を作ることが目的だ。



「ヌイ!」

「行くよォ!」



ヌイは全力で走ってラリアットをブチ当てに行く。どうでもいいけど素手なんだ…グラップラーすぎる。

素早い動きでドラゴンの首を穿つが、少し吹き飛んだだけでそこまでダメージは無い。


どうやらドラゴンは優先順位をヌイの方にしたらしく、実に不規則な動きでヌイの近くまで戻ってきて、爪によって攻撃をしてきた。



「クアァ!!」

「私には当たらないよ!!」



だがヌイは正確に動きを読み取って爪の攻撃を避けていく。しかし避けることに労力を使っているおかげで反撃ができていない。

そこで、俺の出番だ。

俺は手に新しく武器を生成する。しかし今度は剣ではなく、ばぁちゃん家にあったデカい金属の熊手を出す。



「後ろに下がれ!」

「うん!」



ヌイは俺の方に下がってくる。その隙を逃さないようにドラゴンが追ってくるのだが、その速度はやはり早い。

このままやらせるわけにはいかない。ヌイに到達する前に当てる!!



「くらえや!!妙に硬い熊手アタック!!」

「ク、ァア!!?」



俺が熊手をふるう直前、ヌイが屈んで当てやすくしてくれたおかげでクリーンヒット。息の合ったコンビネーションだ。水平に振ったおかげでそのまま横に飛んでいく。

熊手の先端のとがった部分がドラゴンの体中に突き刺さり、水かきの部分も負傷させた。これでうまく飛べなくなるはず。


そう思っていたが、ドラゴンは地面に追突することはなくまたもや空に浮いたままになった。どうやら飛べなくさせるにはもう少し負傷させる必要がありそうだ。



「クァァァァ!!!!」

「また毒火花!」

「クソ!あいつ逃げながらチャージしてるぞ!」



ドラゴンはホバリングして後ろに飛びながら、口を開けてチャージをする。このままだと打たれるが、防ぐ術が思いつかない。

自分ができる最善の行動はなんだろうか。何かいいものは無いか、と思考を巡らせていると。



「スー!多分だけど毒火花は風に弱い!!」

「理由は!?」

「さっき撃ち損ねてた奴がすぐ風に飛ばされてたから!」



俺とヌイはドラゴンを追いながら情報交換をする。ブレスの広範囲が風で飛ばさせるとしたら、今思いついたもので何とかなる…かもしれない。

出来なかったらできなかったで俺とヌイは一緒に毒を食らうことになる。それならそれでもうしょうがない。



「ヌイ!俺が毒花火を飛ばす!あとは頼んでいいか!」

「りょーかい!」



そういって俺はあるものを作りだして構える。ブレスまでもう一秒も無い。予測が当たっていれば俺が出した武器で何とかなる可能性がある。というかなってほしい…!



「クァァァァァァァァァ!!!!」



ドラゴンがブレスを発射する。それは予想通りビーム状の炎ではなく、毒と火花のフィールドを吐き出していくものだった。

最高だ。にやりと笑う顔が止まらない。ならばあとは俺の出したこいつを使うだけだ。




「みさらせ俺のフェスティバルスピリット!!!」



俺は全力で仰いだ。祭りで使う大うちわを。

多分だが現実で使っているうちわでは起こせる風は微々たるものだろう。しかしこれは神パワーで作ったもの。全力で風を起こすように作ったそれは、自然災害のごとく風を作り出し、ブレスを押し流した。


ドラゴンは目を見開いて驚く。が、ここからはもっと驚くだろう。なんせまだこっちにはターンを残している彼女がいるのだから。



「スーが守ってくれたこの一瞬を…無駄にはしないよ!!!」



そう言い放ったヌイの手には、実家で使っていた物干し竿。

それをやり投げ選手のように構えると、ジャイロ回転をかけつつドラゴンに全力で投げ放つ。


その速度は絶大で、本気で逃げるドラゴンすら逃げることはできないだろう。

それも、手負いのドラゴンだ。ぶち当たることは明白。



「ク゜ゥァ!!」



早すぎる物干し竿はドラゴンの腹を突き破った。それどころか突き抜けて遠くまで飛んでいく。

ドラゴンは力なくふらふらとその場に落ちていくと、一度びくっとした後動かなくなった。


俺とヌイはまだ何かあるかもしれないと思って様子を見るが、何も起きなかった。



何とか初戦は、お互いケガも無く完勝することができた。

その喜びをヌイと分かち合うことにしよう。


---


「いやー…何とか勝てたね…」

「わりと賭けだったな…特に俺のうちわとか」

「あはは、確かにあの状況で出すのがうちわだとは思わなかったよ」



けらけらと笑いあってこぶしをぶつけ合う。お互いにやり切った顔をしているのを見て、また笑った。


では、ここで先程倒したドラゴンを見てみることにしよう。

綺麗だった透明の羽はボロボロになり、鱗はところどころ剥げている。極めつけは物干し竿による腹のどでかい穴。これで死んでなかったら不死身を疑うレベルだ。



「んー…とりあえず手でも合わせておく?」

「しなくてもいいよ、この世界は弱肉強食なんだし。それよりこのドラゴンを解体した方がいいんじゃない?」

「辛辣だな…けどまあそうだよな。んじゃ、どっちが解体する?」



俺が普段使っている包丁を【クリエ】で呼び出すと、ヌイはどうぞどうぞといった感じに手を出してくる。

成程…そういう手段を使うわけねぇ…。なら俺はその手の上に包丁を乗せ、にっこりと笑顔を見せる。

ヌイは負けじとその包丁の刃の方を持つと、柄の部分を俺に差し出してきた。もちろん笑顔で。


そうやって攻防を見せること数分。お互いがお互いにしびれを切らして、同じセリフを放つ。



「「じゃんけんで決めよう」」



俺は一度包丁を消し、右手を隠した状態の前傾姿勢でヌイに挑む。彼女は逆に自然な立ち振る舞いのまま手を出そうとしてくる。

ふふ…その隙が命取りなのだ…。このじゃんけん…全力で挑ませてもらう!!!!



「じゃん、けん…!! 「あ、やっぱ私がやるよ」 ぽぉおおあああ!??」



俺が脳内でどの手でねじ伏せてやろうと考えていたのに、まさかの棄権である。この行き場のないおててはどこに持っていけば処分してもらえるのだろうか。ごみ処理場?

くだらないことを考えていると、ヌイは俺と同じように包丁を取り出してドラゴンに近づいていく。



「え、なんで?」

「んー…なんとなく。ほんとはスーに包丁を持ってもらってかっこよく解体してほしかったけど、包丁でケガするデメリットを考えたら…ね」

「アラ過保護…」



ここは不戦勝でも勝ったことに喜ぶべきだったが、全然喜べなかった。

むしろとても悪いことをしてしまった気分だ。


包丁ではうまく解体できなさそうなヌイを見て、無性に手伝いたくなってきた。



「…俺もやるよ」

「え?別にいいのに」

「頼むよ。手伝わせてくれ」

「…ふふ、いいよ」



ヌイは笑顔を浮かべ、手招きをする。まるで、こうすれば俺が動くとわかっていたかのように。

してやられたと思った俺は、顔を赤くしながらヌイの手伝いをするのだった。

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