1つ目の星、セレーネ

あらたな星と、相棒の瞬発力

新たな星に向けての転移を終えた俺は、目を開けて周囲を見渡す。


先程まで居た部屋の痕跡はなくなり、一面には青い平原と、美しい花々が咲き乱れている。

木々は点々と立っており、青々とした葉からはしだれのようなものが垂れ下がっている。

空には太陽と思えるものは無く、代わりに月に思える白く大きい衛星が地上を照らしている。

その光量は地球ほどは明るくはなく、そこら中を飛んでいる光る蝶を幻想的にライトアップしているようだ。



『この星の名前は、【セレーネ】。前述の通り危険度はほぼありません』

「…きれいな星だねぇ…」

「ああ…すごいな」



思わず語彙力が無くなる。隣にいるヌイもこの光景に見とれているようだ。

確かに、今までこんな映像はネットで見ることができたが、実際に見るのとでは大違いだ。

画像を見るだけではこの星の穏やかな風を感じることはできないし、動画を見るだけでは目の前の蝶が俺の顔をくすぐることも無い。



「…なんか、ただいろんな星を探索するだけでもいい気がしてきたなぁ…」

「それだと低危険度の星しか回れないよ?」

「む…確かに…」



一瞬「それでもいいじゃん」と思いかけたが、別に俺は現状維持の平和主義者というわけではない。

できることなら危険な星にも赴いてみたい。そのためには力が必要なのだ。


この旅の目的を再認識し、気合を入れるために頬をパンと叩く。



「っし!シャル!俺が強くなるためにはまず何をすればいい?」

『強くなる目的を果たすためには強い敵に会い、その技を見て、覚えなければなりません』

「おう!んで?」

『ですが強い敵と戦うための力をつけるための雑魚狩りのための技術が必要です』

「めんどくせぇ言い回しだな…具体的には?」


『まずは町を目指してください。そして最終目的地は、この世界で一番栄えている国です』



シャルがそう告げると俺の目の前にマップが書かれたようなウィンドウが立ち上がる。

だが、そのウィンドウには町など書いてない。それどころか、大まかに形が分かる程度で、どこに何があるかも何もわからない。

一応コンパスと現在位置は乗っているようで、マップでいうところの右下あたりにいるようだ。



「いや行く国っつったってどこよ」

『それに関してですが…まずは現地の人を見つけてください。そしてその人から詳細な地図を貰うことが現在できることです』

「行き当たりばったりだな…」



もうすでにだいぶ雲行きが怪しい。こんな行き当たりばったりでいいのか。

またもや少し気落ちしていたせいでちょっと帰りたくなってくる。だが進まないことには何も始まらない。


幻想的な風景を楽しみつつ適当に歩き出してみるか…と一歩歩き出した時点で嫌なことに気づいた。

俺はこの世界をずっと歩きで行かないといけないのか…?

一応神パワー…いやもう名前つけるか。【クリエ】って名前にしよう。この【クリエ】で地球のものを作ることはできるが、いかんせん知識が足りない。

現代の一般的な移動手段としては車がある。が、俺は車の構造なんて知らない。

車の作成にかかわっている人、もしくは相当な車オタクでないと再現は難しいだろう。

だからといって自転車、というわけにもいかない。なぜなら地面は舗装なんてされてないもの。

そんな地面の上で細いタイヤの二輪の乗り物なんて乗ってみた日には、確実にスリップしてダメージを受けることだろう。

ならば頼るべきは。



「シャル…なんか移動が楽になる方法知らない…?」

『ありません』



もう帰ろうかな…


---


「そういえば、俺らが現実に戻る…あー、これからはログアウトって言うぞ。ログアウトするには何か条件とか必要?」

『いえ、特には。強いて言うなら、ログアウト時には周りに敵がいない方がいいですね』

「そっかー、次入るときにすぐに接敵するのは嫌だもんねぇ…。ログイン時の私たちの場所をずらすことは?」

『出来かねます』



そんな感じで質問しかねたことを聞きながら1時間ほど歩く。

いつの間にか履いていた靴はすでに土まみれになり、感動していたはずの景色は代わり映えしないのですでに飽きが来ている。


荷物を持っていないのにこれぐらい疲れるのは、慣れない環境に身を投じているせいだろう。

何故かって?隣にいるヌイは全然疲れてないからだ。俺だってアスリート並みの力があるはずなんだ。体力だってアスリートぐらい…



『そういえば主の体力は平均値より低いです。これは元の主の体の運動不足が影響していますね』

「え…大丈夫?私全然疲れ感じないから気づかなかったよ。少し休む?」



無かったし、ヌイからも心配されてしまった。直接言われると割とこっぱずかしく感じるというのを今学びました。…ログアウトしたら体力づくりするか…


そう考えていると、足元の背の高い茂みに何か隠れているのを見つける。

ちょうど足を止めたかったので、ガサガサと漁ってみると何かがいるのに気が付いた。



翡翠色の鱗を持ち、水かきの部分は透明になっている。くりくりとした爬虫類の目は、眠そうにこちらを見ている。

長いしっぽで器用に草に絡みついて寝ているそいつは、いわゆるドラゴンという奴かもしれない。



「ちぃちゃいドラゴンじゃん」

「かわいいねぇ…」



この世界について初めての生物だ。なお蝶はカウントしない。

なんかそんなに危険な感じしなかったので触ってみる。ドラゴンの眠そうな目は無視だ。

ごつごつとした鱗は、思った以上にざらざらしていた。もっとつるつるしているものかと思っていたのだが、実際はこんな感じなんだ、と興奮する。多分だが、このざらざらのおかげで光が反射して翡翠色に見えているのだろう。



「ヌイ!触ってみろよほら!」

「じゃあ私はしっぽを触ってみようかな?」



そういってヌイはしっぽの部分をなでる。付け根の部分をなでている時はざりざりと触っていたが、先端に行くにつれてつるつるとなでられるみたいだ。

そのつるつるの感覚が気に入ったようで、ヌイはしきりになで続けている。


だがさすがに撫ですぎたようで、キレたドラゴンは俺の方向を向いて口を大きく開けた。



「クァ!」



鳴き声を発した直後、口の中から緑色の火花が溜まり始めた。おそらくだが口から何か放たれる何かは、俺が避ける前に着弾してしまうだろう。

そう考え腕をクロスして守ろうとした直後。



「スーを傷つけるな!!」

「クァァ!?」



しっぽを掴んでいたヌイが、思いっきり引っ張って投げ飛ばした。

ドラゴンは吹き飛ばされながらも俺に技を放つが、口の中にあった火花が飛んでいく軌道に合わせて散っていくおかげで被弾せずに済んだ。


…どうやら彼を怒らせてしまったようだ。ちょっとだけ申し訳ない気持ちがあるが、いくらかわいい奴でも敵対してしまえば敵は敵。



「すまんヌイ助かった!シャル!アレ何かわかるか!?」

『多分ですが…あの緑は多分毒です。なので直接吹かれていたら毒状態になっていた可能性があります』

「俺はアレ使えたりする!?」

『残念ですが…完全に放たれたわけではないので、まだ使うことができません』

「じゃあここはスキル無しで切り抜けなくちゃいけないわけかい…!」



ヌイをちらりと見る。先程までかわいがっていた彼女はどこへやら、確実に敵を見る目をしている。

俺も手の中に剣を出現させる。その輝きは前に使った時より輝きを増しているように思えた。



「クァア…!」



ドラゴンも体勢を立て直したようで、ホバリングしながらこちらに対峙する。


さぁ、この星に来て最初の戦闘だ。気張っていこう。

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