消えたサイトと、相棒の重要性
「はい!というわけで現在の時刻は午後1時なわけですけれども」
「夢では!ありませんでしたね!泣きそうです!」
時刻は俺が言った通り午後1時。
窓にかかっているカーテンはカーテンの意味を成さずにバリバリに光を通してくる。眩しくて眠気も吹き飛ぶようだ。
というか途中少し起きた。そして起きてヌイを見るたび、「やっぱり現実なのか!」とうれしくなり、俺の腕を見るたび「やっぱり現実なのか…」と落胆を繰り返していた。しばらくは腕の傷が隠れるような服を着ておこう。そうすれば誰からも何も言われないだろうし。
「…ん…んぁあ?スー?起きてたの?」
「いや?今ちょうど起きたとこ」
「そんなデートの待ち合わせみたいな…」
ヌイは寝ぼけているせいで口からよだれを垂らしていることにも気づいていない。
ういやつだなこいつはと思い、口元を指さしてみる。すると、びっくりしたように口元を拭くと、少し赤面した。
「…ちょっと顔洗ってくる…」
「いてら」
「スーも一緒にいかないの?」
「俺は…もうちょっとだけ朝日を浴びようかな。今日の陽の光はいつもより哀しげだから…」
「どうせ朝の生理現象でしょ。ほらいこ?」
「男の尊厳!!!これは男の尊厳を守るための戦いである!!!!!」
なんでそれ知っててよだれで赤面するんだ…と思ったが、そもそも同じ人間だったわけだし、まあ理解してて当然か。
そう考えたがほかのこともすべて知られていると考えると恐ろしくなってきた。なんで全部知ってるんだこいつ…?(記憶の混濁)
なお、一連の流れで結局俺の体は平常に戻った。
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「いつぐらいにまたあっちに行くの?」
「ん~…ちょっとだけ情報収集したらまたネクラに戻るよ」
顔を洗って歯を磨き、ご飯を食べた俺たちはパソコンの前の椅子に腰かけながら話している。
なお、ヌイはベッドに腰掛けているが、そんなに遠くはないので割と普通に会話できた。多分今後もこのスタイルが主流になるんだろうとかちょっと考えた。
「ちなみに何を調べるの?」
「ネクラのネットでの反応」
そう言って俺は手早くキーボードをカタカタと小気味いい音を立てつつ検索をする。まずは公式サイトを巡回でもしてみよう。
と思っていたのだが…サイトが見つからない。
調べ方が悪いのか?と思って別のワードで検索をしてみるが、またもや引っ掛からず。
では履歴を調べてみるのはどうかと思い履歴のURLを踏んでみるも、Notfoundが出るだけで見つからず。
「う~~~ん?」
「どうしたの?世間の評価はそんなに良くなかった?」
「いや…まずは公式サイトをって思ったんだが見つからねぇんだよ」
「へぇ?」
ヌイはおもむろに立ち上がって俺にしなだれながら画面を覗く。
いろんな検索方法を見せて、これだったらいけるかなど相談しつつ検索をするが引っ掛からず。
俺とヌイは顔を見合わせ、首を傾げた。
「やっぱりサイト消されてる…?」
「ぽいな…。なんでかは分からんが、公式からの話みたいのは無いっぽい」
「でも、ネットでの反応はあるんだよねぇ…?」
「そうなんだよなぁ…最初に見てた非公式wikiもいまだにあるっぽいし、存在しているのは確かなんだよな」
検索中、某掲示板にはこのゲームのことを書いている人がいた。
その人も俺と同じようにゲームの世界に飛ばされて世界を創って遊んできた的なことを言っている。
俺と違うのは、最初から最強の能力を使えたらしく、転生物みたいな修行パートがいらないみたいなことを言っていたことぐらいだろうか。
今からでも買いに行こうと調べた人が、サイトが見つからないと言って阿鼻叫喚になってるのはちょっと面白かった。
「…まぁ、それでもわかったことがあったからいいか」
「本来の神パワーはもっと最強ってこと?」
「一応それもあるけど…まあそれでいいや」
「え~?おしえてよ~」
ヌイが俺の椅子を左右に揺らす。ぐわんぐわんと視界が動くのでちょっと酔いかけた。
一番俺が知りたかったこととして、ほかの人もネクラで起こったことが現実に持ち越せるかというところだった。
だが…どんどん情報を探っていくうち、こんな言葉を目にした。
『このゲームで出会った女の子と結婚したかったけど、現実に持ち越せないかなぁ』
掲示板では「二次嫁乙」とか「妄想乙」とか言われてたが、俺からしたら一字千金だった。
つまり…ヌイはだいぶ特別な存在、ということになる。いまのところはだが。
「…まぁ、ヌイは特別な存在、ってことだよ」
「あ…うん、えへへ…///」
「照れてるとこ悪いけどゲームの話な」
ニンマリとした笑顔になったかと思うとすぐにガーンという効果音がつきそうな顔になる。表情が豊かだなこいつ…
ぐえーとわざとらしい声を出しながらベッドに横たわりに行くヌイは放っておいて、パソコンの画面に向き直る。
情報収集も結構だが、一応俺は学生だ。今後の予定とか事務的なことを少し消化しておこう。
ぽちぽちとめんどくさい作業をこなしていると、ヌイは暇になったようで、こちらに話しかけてくる。
「そろそろいく~?」
「君は今暇かもしれないけど俺はちょっとやることがあるんだ」
「学校の奴は別に明日でもいいでしょうにぃ…」
「…ああわかったよ!いくよ!というか俺だってネクラやりたくてしょうがないんだよ!」
「やったーー!」
そういってヌイはベッドから飛び起きると、俺の後ろに立ってゆっくりと覆いかぶさるように抱きしめてきた。
ヌイの吐息が近い。彼女の温かい呼吸が首筋に当たり、心地よい刺激を感じる。
「今度は、ちゃんと守るね…約束だよ?」
「っ…、ああ、わかったよ。だけどヌイもケガはしないでくれ」
ヌイの言葉には、やはり狂気が混じっているのを感じる。今俺が彼女から離れようとしても理解不能な力で抑え込まれてしまうだろう。そう感じるほどの思いを心で感じ取った。
いずれか、彼女のこの狂気すら感じる執着をどうにかしないといけない時が来るだろう。
だが…いまはこの狂気が心地よく、いつまでも浸っていたくなる。
「…じゃあ、今度こそ神話の創生をしますか」
「私も一緒にね?」
GenesisCraftを起動する。
今回はパソコンが震えることもなく、スムーズに視界が暗転していく。
俺は至極冷静にしていたが、ヌイは俺の前に回り込んで顔を近づけてくる。
最終的に何をしたのかは、完全に暗転した視界では理解ができなかった。
ただ、唇のあたりが少し湿ったかもしれない。そんな情報だけだった。
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