寝不足と、相棒の添い寝

「今思った…俺結局世界創成してねぇじゃんかよ!!!!」



ガタン!!と大きな音を立てて椅子から飛び起きる。

時刻は午前4時30分。夏に入り始めぐらいの季節なので、だんだんと太陽の光が出てき始めるぐらいの時間か。

Gクラ…いやもうひどい目にあったからネクラと呼んでやろう。ネクラをやり始めたときに部屋の電気はつけてなかったから暗いままだが、あともう少ししたら明るくなってくるだろう。



「確かに、結局バグってたからまともにプレイできなかったってのはあるけど…それでも異世界の冒険とかしてみたかったなぁ…」

「また次行ったときにはシャルが修正してくれてるんじゃない?」

「そうだといいけ…ど…?」



ヌイの言葉にいつも通り返答する。が、何かすごい違和感がある…

例えるなら、物語の設定ミスを見つけたときのような、何か変な違和感が。

うむむと顔を傾けて悩む。もう少し、もう少しでわかる気がするぞ。



「どうしたの?」

「んん…ッッッッ!!!!」



傾けていた頭の角度が180°逆に回転し、首からすごい音が鳴り、激痛が走る。

その痛みが夢ではないことを伝えてくれている。そう、現実のはずなのに。



「ヌイ…なんでそこに……??」

「言ったよね…?私、ちゃんと守るって。だから…」


「傍で見守るだけが守ることじゃないから、出てきちゃった♡」



背筋がぞわりと震える。

まさか。いやそんなはずは。だってヌイは俺の…

そう思って、ゆっくりと部屋の電気をつけた。



「これからもずっと一緒だねぇ♡」



腕に傷がついたヌイが、目の前にいた。



「あ…?なん、ちょ、うぇえ?」

「あはは、驚きすぎでしょ」

「いや驚かないはずが…」

「これ見たらもっと驚くよ?」



そういって俺の腕を掴む。そして…



「にょわぁぁぁ…???」



この世界が現実であればついているはずのない傷が、体に刻まれていた。


---


「         モㇲ   !  」

「…脳みそが理解を拒んでる?」



わからない。どういうことなんだ…。全部ゲームの話じゃなかったのか?

一旦整理して理解をしなおしてみよう。そう思ってベッドによろよろと座った。

まずヌイに関しての情報からだ。

彼女は俺のイマジナリーフレンドだったはず。イマジナリーフレンドはその名前の通り、架空の友達だ。存在しない。

設定も俺が作って、俺が会話のレパートリーを増やしてあげて…そうやってできたのがヌイだったはずだが。

なのに、目の前にヌイがいる。

俺が顔を上げると、彼女はにっこりと笑顔でこちらを見てくる。あとナチュラルに俺の隣に座ってるのも混乱を加速させる。


仮定としてだが…まさかネクラ内でしばらくヌイを見てたから、俺の想像力が上がった?そのおかげで本当はいないのに見えているのか?

しかし、この仮定には穴がある。それは、さっきヌイが俺の腕を掴んでいたこと。

本当にイマジナリーなら触れることはできない。現実に存在してないんだ、できるはずがなかろう。


あ~~~~でも触れてたしさっきからいい匂いもするし胸があたってるしでもこれも俺の幻覚なのかそうなのか俺の人生始まってから女の子に触れられたことないしこんなに近寄られたことないから無駄に想像力使ってこんな夢見せてくれてるのかいやでもここは現実のはずないんだあわかったぞこれ夢なんださっきからなんかめちゃくそ眠いしなんか体もよく動かんしヌイめちゃかわよ………



「 掘ることに特化したゴリラ、マイニングゴリラ 」

「なんて???」



もうだめだ…何もわからない…。なんか今変なこと言った気がするし、もうどうしようもない。

このまま寝てしまおう。確か今日は講義が無かった日だ。朝のこの時間帯ぐらいは寝てても問題ない…と思う。


座った状態から寝ようとして、目を瞑ってそのまま後ろに倒れる。ベッドは部屋の隅に置いてあるため、壁に頭をぶつけて「んげっ」と声をこぼす。そのままスススと体を動かしてちゃんと横になろうとするが、途中で何かやわらかいものが引っかかってそれ以上動けなくなる。


何度動こうとしてもボヨンと跳ね返るため、バネかよと思い恐る恐る目を開けると…そこにあったのはとてもたわわな胸。

視界いっぱいに広がるその胸を持つその彼女は、俺が目を開けたことを確認すると思いっきり抱きしめてきた。



「ふぁ…もぐッ!?」

「つかまえた~♡」



ヌイの声は甘く、耳に心地よい響きで溢れていたが、その抱きしめる力には恐ろしいほどの強さがあった。息が詰まるほどの圧迫感に、もがきたい気持ちが湧き上がるが、彼女の腕の中で逃れられない。


言葉にならない声が喉から漏れる。ヌイはそんな俺の反応を楽しむかのように、さらに抱きしめる力を強めた。



「ふふ、かわいいねぇ…」



甘く優しい囁きでありながら、その裏には恐ろしい執着が隠れていた。ヌイの顔が近づき、その瞳は狂気に満ちていた。俺の心臓が早鐘のように打ち始め、逃れたい一心で体を動かすが、彼女の腕からは逃れられない。



「ちょ…力つよ…」

「ああ…ごめんね。ちょっとだけ力強かったみたいだね?」



そう言うと腕の力が抜け、少し動けるようになった。

だが、ここから逃れようとする動きは許してはくれない。そんな狂気を感じたし、実際動けなかった。

今の彼女がまた暴走しているのは確かだ。とりあえず流れに身を任せてみることにしよう。



「これだけ触れるってことは…空想でも幻覚でもない、てことか」

「うん、そうだねぇ」



はぁ、と少しため息をついた。

いまだに解決していないことは多い。


一番の問題点から上げよう。



そもそも「GenesisCraft」とは何か?



まず前提として、これがただのゲームだということは分かっている。

しかし、自分が実際に中に入れるゲームなど聞いたことが無い。こんな未来の技術を数段階すっ飛ばした超未来的技術のものが普通話題に上がらないはずがないのだ。

俺は確かにそこまでニュースを見ることに熱心なわけではない。スマホにハッカドールも入れてないし。

だが、流石に検索エンジンを使用する際のニュース欄は見る。ほとんどは猫か犬か炎上かのどれかしかないが、最近超技術の話が上がったことはない。

つまり、もしかしたらこの「GenesisCraft」が一番最初のお披露目なのかもしれない、というのがいまのところ考察できるところの一段階だ。

ここで成功してしまえばあとは楽だろう。なんせ技術の成功例としてデカい看板を出せるわけだ。最高のスタートダッシュと言える。

しかし、だからと言ってポンとこの計画を実行できないだろう。

俺が考えられる理由としては、資金の話。

こんな激ヤバ技術、個人費用で開発できるわけがない。確実にどこかから出資、もしくはクラウドファンディングなどで募らないといけないのだが…


とここまで考えたが、このゲームが「どう」作られたかではなく、「どんな技術で」作られたかの方が重要だろう。


しかし、ここに関してはもう想像のしようがない。なんせ完全に初めて見た技術であり、俺が生きているうちには開発されないだろうなと思っていたほどの技術だ。そりゃ脳みそが悲鳴を上げてホットプレートみたいに肉焼けるほど熱くなるほど考えても答えが出ませんわ。


仕方ない。


とりあえずここが現実で、今目の前で恍惚の表情をしながら俺を抱きしめているヌイも本物だ。しかし、寝不足から正常な思考ができておらず、いまだに自分に都合の良すぎる夢を見ているだけなのかもしれない。



「とりあえず一旦寝ていい?」

「じゃあ私もねる」



俺を抱いたまま寝るつもりのようで、すぐに寝息を立てて寝始めた。疲れていたのはお互い様というところか。

腕の拘束が緩んだので動けるようになったが、なんとなくこのままがいいと思って俺も目をつむることにした。


彼女の寝息が聞こえるたび、本当に現実なのだという実感が今更湧いてくる。

現実感というのは一人で考えた後からやってくるものなんだ、ということを初めて知ったと同時に…。



「…寝れるわけなくねぇか?」



また今更ではあるがこの状況はつまり、長年俺が理想としていたキャラに抱きしめられているという状況である。

冷静に考えようとしても興奮が冷めやらぬ俺は、結局また夜更かししてしまうのだろう。


そう思っていたが数分後には寝てた。俺、疲れすぎである。

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