立ち上がるものと、相棒の手助け

「……………! スー!聞こえてる!?スー!!!」

「…ヌ…ヌイ…」

「そうだよ!ヌイだよぉ!!!」



ヌイが、俺の体にふわりと覆いかぶさる。まるで、この世のすべてから守ってくれるような優しさが俺を包み込んだ。

それはとても固く、そしてやわらかく。

それは絶対に守るという意志で、絶対に傷つけないという誓いのようだった。


彼女の温もりは、冷え切った心を溶かしていく。彼女の息遣いが耳元でささやくたびに、俺の胸は暖かさで満たされていく。彼女の存在が、まるで希望の光となって俺を照らしてくれているのだ。


この瞬間だけは、どんな困難も恐れることはなかった。彼女の腕の中で、俺はようやく安らぎを感じることができた。彼女がそばにいる限り、どんな試練も乗り越えられる気がした。



「あいつは…」

「私がぶっ飛ばした!」



ああ…今わかった。

一度、俺はヌイに向かってとある言葉を言ったことがある。


俺たちは【運命共同体】だと。


その言葉を、今初めて心で理解した。



---


「縺ェ繧薙〒」

「…ちっ、あれまだ生きてたんだ。また殴りに」

「ヌイ」



あの化け物を殴りに行こうとするヌイを引き留める。

というか、ぶっ飛ばすとか殴るとか、割とバイオレンスだなぁ…。まあそのおかげでだいぶ安心したけど。


俺は深呼吸を一つして、立ち上がってみる。

よかった、ちゃんと力が入るし、視界もクリアだ。

体のだるさも、とりあえず今は無視できる。



「あれは、俺が倒すよ」



夢は、夢でしかない。

誰かが吹き飛ばしてくれも、自分でちゃんと飛ばされたかを確認しないと意味が無いだろ。


先程まであった未知への恐怖は今は無い。希望の光が俺の進む先を照らしてくれているし、何より。


相棒の前で、あんまりかっこ悪い姿見せられないもんな。





確かに、俺は昔。思い出したくもないことがたくさんあった。

いまだに引きずっている思い出もあるだろう。


だが…


今はホラー映画どころかスプラッタ映画も笑いながら見れるし、

怖い敵も経験値が良ければ眠い目をこすりながら狩り続けられる。



まやかしの恐怖に、足をすくませてはいけない。

偽りの敵に、手を止めてはいけない。




「…ぅし!やるか!」



一度顔をはたき、気合を入れる。腕から出ていた血が顔にかかる。だが、気にしない。

この世界はゲームであり、俺はこの世界の神なんだ。

であれば、何を恐れる必要がある。



「さっきは、創作のお話でしか聞いたことないような治療を行おうとした。だから失敗した」


「なら、俺がちゃんと理解しているものなら?現実で見たことあるものなら?」



俺は右腕を突き出した。そして、極限まで集中する。

今回はヌイが絡ませてくることもない。



「俺が神なんだったら、見たものの再現ぐらいはできるだろう。【出てこい、剣】」



目の前の空間に、徐々に形を成して剣が現れた。かつて博物館で見たそのままの姿。シンプルでありながらも、その存在感は圧倒的だった。手に取ると、冷たい金属の感触が指先に伝わってくる。本物の剣だ。重さも、バランスも、まさにあの時に見たものと同じだ。



「これなら何とかいけるな」

「縺セ縺」縺ヲ」

「うるせぇな…今介錯してやる」



手の中にある剣をクルクル回して使用感を確かめてみる。感覚としては木刀よりだいぶ重い気がするが、神パワーか何か知らないけど片手で振れるレベルだ。


ゆっくりと近づいてくる化け物に、同じようにゆっくりと近づく。


そして、お互いが一定の距離に近づいた時。



「縺翫°縺医j」

「…!」



その声に驚く暇もなく、俺は全力で走り出し、力任せに剣を振り下ろした。剣が空を切り裂き、次の瞬間、鋭い金属音が響き渡る。

手応えは確かだ。俺の一撃が化け物の肉に食い込んだ感触が、剣を通じて手に伝わってくる。

まずは腕の一本を取る。



「縺薙m縺輔↑縺?〒」



二本。三本。四本。そして全部。

その化け物は、ただうぞうぞ動く肉塊になってその場に崩れ落ちた。

とても、あっけない。こんなただの肉に何を悩んでいたのだろう。



「お前が…お前が何なのかは知らない。だけど…」

「繧?□」

「お前は、俺にとっての悪い夢なんだ、消えてくれ」



化け物の上に足を乗せ、剣を逆手に持って心臓のあたりを突き刺す。

一度びくりと震えたかと思うと、二度と動かなくなり、そのまま塵になって消える。


これで…終わりだ。



俺は深く、深く息を吐いて、その場に横になった。





「スー!?大丈夫?」

「お~…」



か細い声でヌイに返答する。正直、精神的な疲れのせいで本当に動く気力が無い。

ちょっといろいろありすぎた。楽しいはずの世界創生体験が、こんなにもつらいものだとは思わなかった。


ヌイが駆け寄ってきて、俺の体を優しく抱えてくれる。

ただ…横から抱えているせいで、軽いお姫様だっこみたいなことになってるのはどうしたものか。



「…なぁ、ヌイ」

「なぁに?」

「ほんと、助かったよ。俺一人じゃ何もできなかった。ありがとう」



ヌイははっとした表情を見せたかと思うと、笑顔を見せる。見せるが…その目からは涙があふれ出てきている。

どうにかして笑おうとしているが、あふれる感情が抑えられないようで。

まるで、やっと望みが叶えられた喜びが止まらないかのようだ。



「…こちらこそ…ありがとう…!!」



ヌイの声は震えていたが、その一言には無限の感謝と喜びが込められていた。


きっと、俺たちはいつまでも共に歩み続けるだろう。そして歩む中で、時々この時のことを思い出すだろう。

その時の感謝、喜び、そして涙。それらすべてが俺たちの心に深く刻まれ、これからの旅の中で何度もよみがえるだろう。困難に直面するたびに、この瞬間の記憶が俺たちの支えとなり、力を与えてくれるはずだ。



まぁ…一つ不満点を言えば。



今回は、反撃してこなくて、ただ歩いているだけの化け物を倒しただけ、というところだろうか。


…これだけ聞いたら、あんまり褒められた思い出じゃない気がしてきたな…






/*あとがき*/

今回は短めです。ごめんなさい。

というかそもそも前回と今回、こんなことになるはずじゃなかったんです…

もっと元気な話が見たい!という方は、気軽におっしゃってくださいね。

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