第4話 火燈の双子
煙突からは黒煙が立ちのぼり、空を黒く覆い隠していた。大きな機械は金属音を響かせ、あちらこちらで鉄の焼ける匂いがする。
4つの国の1つ、火燈《ヒトボシ》。
貧しく荒んだこの国は、鉄とエネルギーと機械の街として、かつては世界で1番力のある国と呼ばれていた。先代の国王が病に倒れ亡くなると、後継者である双子の息子、石蕗《ツワブキ》と、棕櫚《シュロ》が国務を継いだ。
生まれて30年経っても双子はとても仲が良く、いつもお互いが同じような事を考えて行動をした。相談してもしなくても、始まり方が違っても、双子がもたらす結果はお互いの顔のようにそっくりだった。
そして、周りが区別を付けられないくらいに似ている事を、本人たちは自慢に思っていた。
先代の国王は、亡くなる間際、2人の息子に言い聞かせた。
「よいかお前たち。この国を守ってゆくのだぞ。代々受け継がれしこの国は、どこよりも鉄鉱石が豊富に取れる。民は皆、先代より技術を受け継ぎ、腕の良い職人も多い。これがこの火燈の財産となり、武器となる。お前たちは2人で力を合わせて、この火燈を大切に守り抜かなければならぬ。周りの国と交易を保ち、民を大切にし、必ず2人で良き国を作るのだぞ」
双子は父からの言葉を聞き終わると、静かに部屋を出た。そして同時に大きなあくびをした。
「退屈だったね」「寝ちゃうかと思ったよ」
「国を大事にするなら領土をもっと大きくしなきゃね」「大きくするなら戦争しなきゃね」
2人はお互いの顔を見ながら、嬉しそうに囁き合った。
先代の国王が逝去して半年後、国の財政が厳しくなり始めると、火燈を出るにも入るにも、その都度沢山の税をかけた。もっと武器を作れと無茶を言い、もっと税を取れと無茶を通した。次第に商いと称して国を出たまま戻らない民が増え、国の人口は1年で半分になった。
「国民が半分減ったそうだよ」「なら、使わなくなった土地が増えたね」「なら、もっと工場を作れるね」「もっと武器が作れるね」「これで、戦争しても絶対に勝つね」
「ツワブキは賢いな!」「シュロは賢いな!」
ある日、双子は火燈の城の中にある円卓で、大きな世界地図を広げてみた。周りには、双子が新たに選び直した家臣が顔を揃える。
「とりあえず、姉さんたちを水恵から取り返さないと」「とりあえず、水恵と戦争がしたいね」
「俺たちなら出来るよね!シュロ」「俺たちじゃないと出来ないよ!ツワブキ」
意気揚々と話す双子に対して、家臣たちがけしかける。
「そうです!戦争を始めましょう」「この世界を火燈の物といたしましょう!」
戦争で富を得る者たちが、自分の保身のみを考える者たちが、口をそろえて双子の後押しをする。
「お待ちください!戦争などしている場合ではありません!無謀な生産数と税に民は疲弊し、一般兵を募ることもままならないのですから!」勇敢な一人の男が声を上げた。彼は先代の王に使え国を守ってきた軍隊の元帥だった。
「えー。反対するなら牢屋に入れるよ?」
「そうだよ。僕たちに意見をするなら牢屋へ入れるよ?」
「おまえは、牢屋へ入っちゃえ!」「いいって言うまで、入っちゃえ!」
こうして元帥は、その日のうちに日の当たらない地下牢へと投獄された。
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