第4話 十五の森

それでは、それでは。

話は明応三年のこと。と言ってもピンとはきませんよね。今から五百年前ぐらいの話だと思ってください。


水神様の住まわれる一帯には、それはそれは大きな川が流れていて、その川の近くでは、その水を使って盛んに稲作が行われ、辺り一面に田んぼが広がっていたそうな。


ただ梅雨の時期、大雨が降ると毎年のように堤防が壊れて川の水が溢れ出し、近くの村々で多くの被害を出していたそうな。


そんなある年のこと。梅雨が目前とせまったその日、村人達が水神様の境内に集まって、それはそれは深刻な面持ちで相談しておったところ、一人の修験者、まあ今でいう占い師みたいなものかの、その修験者が通りかかったそうな。


そこで困り果てていた村人たちはその修験者に助けを乞うたところ、修験者は何やら御祈祷を始めたのち、こういったそうじゃ。

「お前らは川の水を奪い良い思いをしておきながら、水神様に対してはまったく何も奉納しない。感謝もしない。それじゃ、水神様がお怒りになるのはもっともじゃ。

もしこのお怒りを鎮めたければ、そうじゃ、水神様に十五歳となる少女を人柱として捧げればええ。そうすれば水神様の怒りはおさまるだろう。

分かったか、十五歳になる娘を一人、人柱として堤防に埋めよ」

と強く言い放ち、立ち去って行ったそうな。


そのお告げを聞いた村人たちは、急ぎ慌てて人柱にする娘を決めるべく、くじ引きを行ったそうな。

そこで、十五歳の娘をもつ村人がくじを引いたところ、庄屋さんがそのくじを引いてしまった。

これは村の取り決め事、庄屋さん親子は泣く泣くこれを承諾し、梅雨時に堤防に埋められることになったそうな。


人柱になる日、庄屋さまの娘は白い浴衣を着せられ、白木の箱に入れられて、川の堤防に埋められたとな。

その間も庄屋さんは、「堪忍してくれ、堪忍してくれ」と泣き通しじゃったそうな。


娘の入った箱は埋められて、息するために箱に差し込まれた竹筒が、地面からにょっきり出ておった。

その竹筒から、娘が鳴らす鐘の音が、寂しく響いておったそうな。チリーン、チリーンと、響いておったそうな。


チリーン、チリーン。チリーン、チリーン。

そして七日目、音は消えたそうな。

おしまい。

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