第3話 一人旅
新幹線を降りて特急に乗り、かれこれ二時間近く。そこから田舎の電車に乗り換えて、最寄り駅にようやく着いた。長かったなー。
サイトから宿に予約するのはスグだったのに、こんな落とし穴がるなんてね。でもサイトの主も言ってたけど、旅の醍醐味の異世界を経験するなら、これぐらいしないといけないか。
それにしても本当に田舎。これじゃ宿までのタクシーも無理。
バスもないし、そりゃ宿に電話したら迎えに上がりますって注意書きの意味も理解できるわ。
宿の名前は「どぐま」だったな。とりあえず、電話しよ。
宿に電話したら、十五分ぐらいで迎えに来るらしい。でも、ここで何をして時間潰せば良いの。スマホは繋がるから、これで時間を潰そっかな。カズキには家出る時にLINE送ったけど、既読にならない。そりゃ、エースといる時には既読にも出来ないよね。
そういえばサイトの主が書いてたけど、昔は女性の一人旅って難しかったらしい。何か、自殺目的じゃないかって疑われてたかららしいけど、そこに行くまでに疲れて、自殺どころじゃないでしょ。
あ、車が来たみたい。送迎車は軽のバン。田舎だなー。
迎えに来たのは六十歳ぐらいのオバちゃん。夫婦で宿をやってるらしいんだけど、本職は農家だって。サイトでは宿は綺麗に映ってたけど、実際はどうなんだろ。だいたい当てにはならないんだよね。
田んぼばかりの一本道を走って、十分ほどで宿に着いた。
結構立派な建物。昔の庄屋ってやつの家なのかな。中も改装されていて、古民家の小奇麗な宿って感じ。サイトの主がおすすめの理由も、だんだん分かってきた。
チェックインをして、泊まる部屋も見た。
雰囲気があって、でも現代的な清潔さで良いじゃない。
これなら快適そう。期待できないって思って、ごめん。
この宿に決めて正解だわ。
LINEをみたら、まだ既読にはなってない。
温泉じゃないから、すぐにお風呂って感じでもないし、ごはんまでに時間があるから、宿のオバちゃんに相談したら、近くの神社を案内された。
最初はえーって思ったけど、でも開運のご利益があるらしいから行ってみることにした。
鳥居までは五分もあれば着くけど、そこからの階段が長い。
仕事柄、体力には自信があるけど、あんまり嬉しくない。
せっかく旅に来たのに。
そんなことを考えてたら、ようやく境内に出た。
結構広くてびっくり。ていうか、予想外。境内が広いっていうか、お堂が大きすぎ。土地の八割ぐらいがこのお堂じゃん。目の前にお堂が迫ってるし。境内なんて都会の庭かよって程度の狭さ。設計間違えてるでしょ。
でも、こんなものが階段の上にあるなんて、下からは全然想像できなかったな。
とりあえず拝んどかないと。
三段ほど上がった広い正面に賽銭箱があって、左側には昔ながらの引き戸。神主の家の玄関なのかな。
お賽銭を入れて、あれ、この太い綱は振っていいんだっけ。
分かんないけど、どうせ誰もいないから振っちゃった。
振ると、綱の上に付いてるドラえもんの鈴みたいのが、ジャラジャラジャラジャラと、って思ったら、あれ、鈴じゃない。鐘?
先が丸くて細長い、あれって鐘だよね。
振ってみたら、チリーンチリーンて鳴った。
チリーン、チリーン。そして、チリーン、チリーン。
お堂の奥からも、鈴の音が反響して聞こえる。
本当に予想外。
とりあえず、カズキとの二人の将来の幸せを拝んどいた。
LINEをみたら、既読になってた。笑顔のリアクションもついてる。早速ご利益あったかな。
賽銭箱の格子からお堂の中を覗いたら、二十人ぐらいは入れる畳敷きが広がってた。奥行は、思ってたよりもないみたい。薄暗くてよく見えないけど、その奥には、祭壇?
あんまり見たことない形だし、丸い鏡が置いてあるから祭壇なんだろうけど。でもその丸い鏡、おかしい。
丸い鏡、異常に大きい。直径2メートル近くありそう。
これもお堂と同じく、設計ミスでしょ。
本当に想定外。
お参りも終えたし、次何しようと思ったら、脇の玄関から中年小太りのオッサンが出てきた。恰好から、神主みたい。
私を見て少し驚いてたけど、笑顔で声をかけてきた。
「これは、これは。ようこそお参り下さいました。地の人ではなさそうですが、こちらは初めてで?」
正直面倒臭いと思ったけど、とりあえず笑顔で返しといた。
「はい。今日から近くの宿に泊まってて。宿の人から、この神社を案内されてきました」
「そうですか、そうですか。ところで、いかがでしたか」
「そうですね、お堂が大きくてビックリしちゃいました。普通はもっと境内が広いイメージだったので」
「そうでしょう、そうでしょう。それが私たちの特徴でしてね。他の神社とはちょっと違うんです」
だから何?正直、どうだっていい。早く帰りたいと思ったけど、今宿に帰ってもやることないし、時間潰しに会話を続けよう。
「ここって何の・・・。あれ、チリーン、チリーン聞こえる。ここは鐘の音がずっと響くんですね」
「チリーン、チリーン。鐘の音ですか」
「ほら、あの賽銭箱の上にある鐘。あれの音がちっちゃく聞こえますよ。チリーン、チリーン。チリーン、チリーン。そういえばあの鐘も不思議ですね。よく鈴は見るけど」
「そうです、そうです。あれも神様なんですよ」
「へー、そうなんだ。ところで何の神様をまつってるんですか?」
「ええ、ええ。ここは水神様をお祀りしております。それと、人柱になった十五の娘と」
えっ、ヒトバシラ?この人今、人柱っていったよね。
「ヒトバシラって、あの人間の人柱?」
「その通り、その通り。川が洪水にならないよう、堤防に埋められた、人柱の少女ですよ」
「へー、それはすごいですね・・・」
あれっ、でも、そんな大きな川、この辺で見たっけな。
「この辺りって、そんな大きな川がありましたっけ?」
「いやいや、いやいや。この辺りにはありませんよ。この辺は田んぼが多いんで水神様を祀ってるんですが、ここは分社なんですよ。会社で言ったら、支社みたいなものです。水神様がいらっしゃる本宮は、遠い別の場所にあるんです。そこは、大きな川が流れていますよ」
「そうだったんですか。ふーん・・・」
会話が完全に終わっちゃった。どうしよう。
「そうですね、そうですね。もし時間があったら、さっきの人柱になった少女の言い伝え、お教えしましょうか。十五の森っていう民話なんですが」
「ぜひぜひ。お願いします。」
「では、では。十五の森の言い伝えです」
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