名前負け勇者、異世界に希望を見出して即悲観する
「魔法とか妄想力とかって言ってるけど、それが一回もできてないから弱っちいんでしょ」
委託所の裏口から都を抜けて、ほどほどに整備された道を進む。ちょっとした草原と、遠くには川。道沿いに歩くと林がある。今回の農耕地というのは、その林のなからしい。
人差し指の先を俺に向けながら、ラミアが愛想悪く言った。
「確かに魔法は、その人の持つイメージとか想像力が強さに直結する。でも、それを具現化させるための基本過程──魔力のコントロールができなきゃ意味がないから」
「でも、俺もそこさえなんとかすればいけるってことに……」
「……話の上はね」
適当な相槌でも、俺は内心でガッツポーズする。いけるビジョンしか見えない。
──自分のイメージ・想像をベースにして、そこに魔力を流し込む。その結果として具現化されるものが、この世界でいう魔法の成果だ。感覚、視覚情報、そういう感性が強ければ強いほど多才であるらしい。つまり、自分の思い通りの技とかが出せる、ってことだ。
さすがに俺だって基本のキができないわけじゃないし! ……とは言っても、その大いなる妄想力と引き換えに、魔力の扱いがクソほど下手。そこは認めざるを得ない。
「でも俺、いつでも妄想とかしてるタイプだから。素質はあるかも」
「五属性がどれだけ扱えるかも分からないのに、そういうこと言うのもおかしいし」
「風・火・土・雷・水か。個人差があるって言うけど、バランス型でも一点特化でもいいな」
「一つしかまともに使えなくて、しかも単体魔法で、あまり強くない一点特化とか嫌だから。何をどう頑張っても弱いふうにしかならないし。オムニアとか使えるなら許すけど」
「……オムニア?」
「伝承上の属性のこと。世界に存在するすべてのものをノンモーションで具現化できるの」
「えっなにそれ凄い──いやでも、伝承上か……おとぎ話ってことじゃん」
「まぁね。ふっるーい本に書かれてたんだけど、存在する証拠も見当たらないし。……でも、世界に存在するすべてを具現化できるって、羨ましい。物質もってことだし。無理だけど」
「……頑張ります」
ツリ目の鋭い視線に気圧されて怯む。可愛いけど、こういうところは少し怖い。
そんな俺を見て、ラミアは一瞬だけ目元をほころばせた。愉快そうだ。仕草は完全にお嬢様のそれなのに、見た目もかなり上品なのに……口調だけが、ちょっと刺々しい。
「自信満々なのに、しょげるのも早いのね」
「別に……」
気晴らしに空を見る。青かった。まるで彼女の瞳の色──あっ。
……いま笑ってたラミア、もしかしなくてもめちゃくちゃ可愛かったのでは? いつもツンツンしてて愛想が悪いけどそこで一瞬だけ見せる微笑の尊さ……! あんな言葉に意気消沈していた自分が馬鹿馬鹿しい。もっとしっかり拝んでおくべきだった。うかつだった。いやでも普通に可愛かったなあれ……。メンタルやられても思い出し回復できそう。
「……落ち込んでたのにいきなりニヤニヤするの、気持ち悪いからやめてほしい」
「あっ、ごめん──へへっ……」
割とガチでドン引きされてるし距離も取られてるけど、美少女のあの射抜くような冷徹な視線、クセになる。これは今度こそしっかりと拝んでおくべきだ。いつもされてるけど!
「……」
「……」
会話が消えた。二人の距離、ちょうど道幅ぶんの約三メートル。草原を吹き抜ける風が心地よい。ちなみに無言はいちばん気まずい。うつむいてるラミアも、可愛い。
金髪のロングヘアが風になびいて、少しだけ不機嫌そうに、胸の下で腕を組んで──
「いてっ! ……え、なに!?」
何もないのにいきなり頬を叩かれた。我に返って周りを見回すも、変なものは見当たらない。……と思っていたら、ラミアがそれとなく人差し指を俺の方に向ける。何かがまた同じように爆ぜた。手のひらで叩かれているような感覚が、二度、三度と続く。
「……あたしのこと、またジロジロ見てた」
「ジト目感謝──いてっ」
風属性、気弾のようなものだろうか。慣れてくると、だんだん気持ちよく感じてきた。そのくらいの強さに抑えてくれるあたり、もしや満更でもないってことだったりする?
「あんたって、元々いた世界でもそうだったの?」
「……何が?」
「その自信満々で変態的な性格してて、弱っちいの」
「……」
豪速球の悪口じゃん。
気分が沈むのを感じて、咄嗟にラミアの笑い顔を思い出す。気持ち悪い声が出そうになるのを溜息でごまかしながら、三メートル先の隣で歩く彼女を横目に見た。
「俺のいたところじゃ、戦いとかそういうのとは無縁だったから。ただ、あまり動かない人間で、勉強とか運動とかも取り柄がなくて、遊びに時間を使ってた。本を読んだり、絵を見たり……そんくらい。ただ昔から楽観的だから、謎に自信満々なところはあるかな」
「ずいぶん文化的で芸術的なのね」
「そんな偉そうなものじゃない。可愛い女の子が出てくるようなのしか興味がない」
「……見直して損した。あたしの感心を返しなさいよ」
「勝手に感心しててそれは酷くないか……」
でもまぁ、と俺は続ける。
「つまらない世界にいるより、こっちのほうが刺激的だから。珍しさもあるし、希望も持てるし、可愛い皇女様はいるし、なんか一気に華やいだような気はするけどさ!」
「一言だけ余分」
鋭い目つきで睨んでくる。怖いけどそれはそれでご褒美です。
ラミアは小さく溜息を吐くと、それから俺の目をじっと見た。
「……まぁ、頑張れば」
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