【短編完結】妄想力には自信がある名前負け勇者、防衛本能が働いた時のみ最強格の魔法属性を扱えることが判明。
水無月彩椰@BWW書籍販売中
名前負け勇者、保護者(皇女)同伴でクエスト受注する
これから対峙する事態への興奮と緊張冷めやらぬなか、隣に立つ少女が、乱暴に俺の腕を引き寄せてくる。それから耳元に口を近づけると、声を抑えた囁き声で言った。
「いい? あたしはあくまでも付き添い。あんたが期待以上に使えないから、クエストを受けさせるだけ。これは慣らし。異世界からの期待の星がこんな弱っちいのじゃ困るでしょ」
抑えていても分かるキンキン声がムズ痒い。なのに無性にクセになる。少女──ラミアは突き放すように俺を放ると、そのまま大きな胸の下で堂々と腕を組んだ。
「魔法の素質を買われて召喚される異世界からの切り札がこれって……。ほんと、嫌になる」
リアル王族美少女。というか、皇女。長ったらしいフルネームは忘れたが、ラミアという可憐な名前だけは覚えている。青空のような瞳で俺を見るその目は、呆れたような表情には似合わないくらい澄んでいた。腰まで伸びた金髪のロングヘアとも釣り合いが取れている。
「鹿王寺忠輝、とか名前だけは大層なのに。完全に名前負けしてるわね」
クラシカルなゴシック調のドレスで、胸元が強調されていて……。もっと強く腕を掴んでくれてたら、あの豊満な巨乳にも合法的に触れられたかもしれないのに……残念だ……。
胸の下で腕を組むとかいうポージングが余計にその魅力を引き立たせている。こんなスケベな仕草をする王女がこの世にいていいのだろうか。いや、よくない──
「──ねぇ、聞いてるわけ!?」
「いてて痛い痛い痛いっ!」
「あんた、いまどこ見てた? かんっぜんにあたしの胸とか見てた! やらしい目で!」
「みっ、見てない! 見てないから耳引っ張らないで!」
ジンジンと痛む耳をさすりながら、俺は今までの妄想を離れて我に返る。ラミアが声を上げたからか、ここ、クエスト委託所の人たちの視線で釘づけだ。一国の皇女が異郷の人間と下町に出ている物珍しさもあって、入口付近には野次馬がたむろしている。
周りから注目されることに慣れていない俺は、気まずさでここから逃げ出したかった。
「今日、何しに来たか分かってるわけ?」
「えっと、あの……あれだ。俺のクエスト。ラミアは付き添い。そんで、段階を踏んで強くなって……いずれはラミアの相棒になって、大魔王の侵略勢力に対抗できるようにする」
「……分かってるならいいけど。でもいい加減、あたしのことをジロジロ見るの、やめてほしい。話は聞いてなさそうだし、気になっちゃうし、何より目つきがやらしい。こんな変態に国家存亡の命運とか託せないし。あたしのパートナーどころか駄馬そのものだし」
「いや、俺だって本気で頑張ればできるから! 前の世界じゃ何やっても上手くいかなかったけど、あんなつまらない世界よりこっちのほうが希望とか持てるから!」
「うん。あまり期待してない」
必死の弁明も聞かずに、ラミアは目の前にある掲示板に視線を向けた。つっけんどんな態度に内心ムカつきながらも、それを言えるほどの勇気はないので黙っている。
「これ」
「……なにが?」
「あんたに受けてもらうクエスト」
ラミアの細い指が、掲示板に留まっている紙を示す。「ん」とだけ言って横目で俺を見るその横顔が可愛らしくて、一瞬だけドキッとした。女の子に耐性なさすぎでは、俺。
上ずった声で答えながら、平静を装って紙面の内容を読む。
「耕作地を荒らす害獣の駆除……。まぁいけるか。このランクDってなに? 他のやつだと……うわ、これ凄いな。これなんかランクAじゃん、スラム出身の盗賊の逮捕とか」
「ランクなんてEからSまで六段階あるんだから感覚的に分かるでしょ。割り振られた難易度のこと。それよりも、あんたが謎に余裕しゃくしゃくなのがすっごい鼻につくんだけど」
「いやでも、ラミアが言ったんじゃん! この世界の魔法って、妄想力のあるやつの方が強いんだって。それなら俺にもその可能性が秘められててもおかしくないはず!」
「……お馬鹿さん」
心底呆れたような顔で溜息を吐かれた。美少女のいろんな表情が見れてラッキー。
というかオタクに可能性のある世界って最高すぎでは?
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