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 少し元気になったカヨは、起きてきてみんなに手を突いて謝った。自分の我が儘でこんなことになるなんて、と心から反省しているようだった。

「橘さんと律さんには、ほんとうに申し訳ないことをしました」

 涙ながらに頭を垂れるカヨに同情を禁じ得ない。だが、僕はさっきからずっと引っ掛かっていた。カヨは僕には一度も謝らないのだ。律と思い込み、恋心を募らせた上に、橘に会おうとした。もしかするとあの時、刺されていたのは僕かもしれなかったのだ。

 そのことにまったく触れようとしないのはどういう訳だ。

 僕は初めて律を見た時に彼女に恋をした。そのあとよく似たカヨに出会い、本人がそう言うものだから律と信じた。今だから言うが、思っていた感じと少し違うな、と頭をよぎりはした。だが見違えるように元気になったのだから、違って見えるのだろうと無理に自分を納得させたのだ。

 この件に関しては、僕はまったくの道化であった。カヨという女性は不思議と人に憎まれない性質のようだ。これほどのことがあったのに、僕はカヨに対して少しも怒る気にもなれなかった。

 カヨはこれから両親と一緒に橘の見舞いに行くという。

「許してもらえないかもしれませんが、誠心誠意お詫びするつもりです。それから律さんのところにも行って……。私はなんてことをしてしまったのでしょう。仲良しだったのに、きっと嫌われてしまいますね」

 しおらしく涙を流すカヨに、僕はあやうくもらい泣きをするところだった。

 だが、ちょっとくらい僕に謝ってくれてもいいのに、と拗ねる気持ちは消えなかった。

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