第2話 家族葬 / 賽は振られる

 この頃、母は入退院を繰り返すようになっていた。大学寮は家から遠いこともあり、優しく頼りになる兄が母の看病は任せてくれれば良いと言ってくれた。それでも週末にはなるべく帰るようにしていた。

 六月の蒸し暑い日の夜。兄から母が亡くなったからすぐ帰って来いと連絡があった。

 そして、それが兄と最後の会話になる。

 雨の中、慌てて家へ帰ると兄は死んでいた。葬儀屋と打ち合わせ中に急に苦しみだし、そのまま死んだという、まだ二十八歳だった。

 心臓発作だと父は言った。

 相次いで家族が亡くなり父はかなりやつれている。目のまわりは窪み、前よりいっそう痩せていた。

 俺が悪いんだとポツリと言った。

 父は気落ちして全く役に立たない。私はそんな父をおいて葬儀の手配を受け継いだ。六月とはいえ、この気温では腐敗が進んでしまう。結局、親戚の手配は後回しにして家族葬とした。

 父が行方不明になったのは葬儀が終わった直後である。いつ帰るか分からない父を放って置くわけにもいかず、大学寮を引き払い、実家に帰ってきた。片付けをする傍ら、父の親戚や友人に行方を聞いたが埒が明かず、いたずらに時間が過ぎていった。




「カエルのお化けに貰っただあ。嘘つくなよ」


 二つ上級生の剛だ。仲間の雅志と一雄もいる。いつも意地悪する嫌な奴だ。お父さんが海外の事故で死んでから三ヶ月経っていた。気持ちを紛らわせる為、雨石を磨いているのを見つかってしまったのだ。


「本当だよ。大事に扱えといわれたから、磨いていたんだよ」


「その汚い黒い石をか……ちょっと見せてみろよ」


「駄目だよ。他の人が触ると死んじゃうって、カエルのお化けが言ったし」


「いいから寄越せって。ほらっ、やっぱり嘘じゃないか。俺はピンピンしてるぜ」


 剛は強引に奪い取る。返してと言っても、届かないくらい高く上げて、せせら笑っている。


「でっかいサイコロみたいだな……面白れぇ。今日から俺のものだ。いいな」


「駄目だよ。返してよ」


 剛は仲間の雅志に放り投げる。


「本当だ。サイコロの形をしている。白いマジックで目を描けば完璧じゃん」


「雅志、俺にも見せてくれよ。本当だ。すげぇ、でっかいサイコロだ」


 剛たちは僕がしつこく取り返しに来るのをからかって、仲間同士で石を放り投げていた。最後に剛は僕を突き飛ばし、これは俺たちのものだと言い放ち、持ち去っていった。

 僕にはどうすることも出来なかった。

 翌日、学校にいくと、クラスがざわついている。剛たちの三人がそろって車に轢かれて死んだらしい。

 朝の会で先生が上級生の三人が車に轢かれて亡くなったことを告げた。車には気をつけるようにと、きつく注意していたが、僕は上の空だった。

 あれは本当だった。誰にも触らせてはいけなかったんだ。罪の意識もあったが石が無くなったことに、ほっとした気持ちもあった。

 だが、ランドセルを開けると、当たり前のように石はそこにあった。

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