第2話 遠すぎる先祖。
「無事か?」
背後から声がして再び振り返ると、そこには緑色の髪をした少し変わった服装の青年がいた。
「こ、これやったのってアンタ………?」
俺は恐竜の身体を指差して、恐る恐るそう尋ねる。
すると青年は無言で腕を前に出し、手のひらから何か気弾の様な物を放った。
シュィィュンッ!!!
気弾は俺の頬をかすめ、途轍もない速度で恐竜の方へと向かっていく。
ドボァアアアアアアアアアアン!!!!!
べぢゃべぢゃべぢゃべぢゃ…………。
…………生暖かい肉片が降り注いだ。
「この通り、私がやった。」
青年が言う。
俺はもう訳が分からなくなった。
「えっと…、その、貴方は………、何者なんですか………?」
「私に名前は無い………、が、仲間からは『シリス』と呼ばれている。因みに、一応はお前の直系の先祖に当たるな。」
先祖………?
何言ってんだコイツ、絶対嘘だろ。
俺は生粋の日本人だ。
一度遺伝子検査キットという物で調べてみた事があるが、結果は純度100の日本人だった。
でもコイツはどっからどう見てもアジア人顔じゃないし、キットで分からないくらい昔の時代の人間だったら髪を染める技術なんて無いはずだから緑髪なのはおかしい。
ていうかここが天国だからって平然と流してたけどよく考えたら人間があんな巨大生物を武器も無しに首チョンパ出来る事自体おかしいぞ。
もしかしてコイツ人間を騙す悪い神様とか、そういうのなのか…………?
「ああ、そうそう。まだ見せていなかったな、私の本当の姿を。」
シリスとやらが唐突に胸に手を当て、目を瞑って何かを念じ始めた。
この隙に逃げてやろうかとも思ったが、あの恐竜と同じ運命を辿ってしまう様な気がしたので諦めた。
「ハッ………!」
シリスが声を上げ、突然姿が見えなくなった。
逃げたのか?と思いつつ、ふと足元を見下ろすと………。
そこには、小さなトカゲがいた…。
「これが私だ。鳥は疎か、翼竜が空を飛び出した時代よりもずっとずっと昔の………、!?」
俺はシリスを踏み潰そうと足を出した。
我ながら英断だ、こんなバケモン早い内にぶっ殺してしまおう。
ドゴォォォン!
俺は当然の如くぶっ飛ばされた。
まあ、なんとなく分かってはいたさ………。
「ふざけんなよ貴様!ミンチにしてやろうか!?!?」
「黙れこの人外のバケモンがッ!」
「んだとぉぉぉぉぉ!?!?」
シリスがふわりと宙に浮かび上がり、俺に向かって迫って来る。
…………こんな状況だが、トカゲが足をパタパタしながら浮遊している様子は思ったよりシュールで面白かった。
「何ニヤニヤしてやがる………。もういい、殺す気も失せた。貴様、付いて来い。」
シリスが再び人間の様な姿に変身して言った。
俺はそろそろガチで命(?)が危ないような気がしたので、仕方無く付いて行く事にした。
――――――――――
しばらく歩くと地面が不自然に盛り上がっている変わった地形の場所までたどり着いた。
「これが私達の基地だ。」
シリスはそう言うと、またもや胸に手を当て目を瞑って何かを念じ始める。
なんか気持ち悪いんだよなコイツ………、中2臭いというかなんというか…………。
口調も何だよ、明らかに男なのに一人称『私』でタメ口だし。
あとなんかこう、穏やかじゃないんだよな。
そもそもさっきの恐竜だって別に身体もバラバラにする必要は無かった訳で………。
…………、なんて風に頭の中で文句を言っていると、いつの間にか地形に人が通れる程の穴が開いていた。
「行くぞ。」
シリスが穴の中に入っていく。
俺もそれに続いて中へ足を進めた。
……………。
………中は薄暗く、ジメッとした空気が立ち込めている。
機械のコードとも植物のツタとも取れる様な謎の紐状の物体にそこら中に巻き付いており、どことなく不気味で居心地が悪い。
天国にもこんな………、ってかそうじゃん!改めて実感したけどここ天国じゃん…!。
なんで天国に来てまでこんな面倒くさい事に付き合わされなきゃいけないんだよ。
マジで意味が分かんない。
ていうか良く考えたらそもそもあんな恐竜が襲って来る時点でおかしいよ。
天国なんだからもうちょっと平和でも良いだろ、なんでいるんだよあんなの。
…………、いや、一おかしいのはやっぱりコイツだな、シリス。
あり得ないだろあんなトカゲが俺の先祖とか。
いやマジで、恐竜の首チョンパとか緑色の髪とかは一旦置いておくとして、あれが一番あり得ない。
『それがあり得るんだよね…。』
いや、これに関してはどう考えてもあり得る訳が………、って、ん…………?
………、今、誰かに否定された…………?
でもシリスの声では無かった………。
じゃあ誰に…?
ていうかそもそも俺声に出してたか今の………?
『出してなかったよ。』
そうだよな、出してなかったよな…、うん。
…………、ってまた…!
誰だ…、っていうかそもそもなんなんだこれ………。
天国だからなんでもありなのか…………?
「ある程度は割とホントにそうだよ。」
まただ………、って違う…!?
今度のは耳から聞こえた…………!
どこだ………!
「後ろだよ。」
俺は即座に後ろを振り返る。
そこには一人の女がいた。
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