対魔無双で勇者召喚!

スーザン

第1話 勇者召喚

 俺の名前は中野暁。

 高校卒業後、家庭の事情で就職したが、社会の荒波に飲まれてしまい、無職になってしまった新社会人?である。


 高卒で正社員として採用されて、それなりに給料も良い職場だったが、人間関係が最悪過ぎてメンタルもやられてしまった俺だが、働かないわけにはお金もないわけで、現在職業公共安所に来ていた。


 職安専用のPCで自分にもできそうな求人はあるか漁っていると、不意に足元にオレンジ色の魔方陣のようなものが現れた。


「な、なんじゃこりゃ!?」


 その魔方陣らしきものは明らかに俺を対象にしているようで、驚いて椅子から立ち上がって逃げ回っても追いかけてくる。

 しかも、どこからか……いや、頭の中に直接何かが聞こえる。

 まるで呪文のような、念仏のような声が数秒続いたかと思えば聞こえなくなり、直後魔方陣らしきものが眩く輝き始めた。


「うわっ!?」


 あまりの眩しさに両腕で目をガードするも、まだ眩しいので目も閉じる。

 それからまた数秒が経ち、やっと発光している感覚が消えると両腕を下ろして目を開ける。


「おぉっ!今度こそ勇者召喚に成功したかもしれない!」

「さすが陛下です!」

「これで人類は救われる……」


 周りに立つ人たちが口々に訳の分からないことを言う。

 彼らの見た目は日本人とは異なり、西洋風の骨格と肌色髪色をしている。

 もしかして俺はどこかにワープしてしまったのかもしれないと思っていると、一人の女性がこちらに歩いてくる。

 女性は大きめの姿鏡を両手に抱えており、鏡面をこちらに向けた。

 その鏡面には文字や数字が映し出されている。

 見たことの無い文字と数字だったが、何故か普段から見慣れている文字のように読めるのは謎だ。


「レベル1、ステータスは一般人並みですね」


 鏡を覗き見た女性が言う。

 すると、王様のような恰好をした初老男性が落胆するような表情を浮かべた。


「そうか、ではまた勇者召喚は失敗だった、と……」

「大変申し上げにくいですが……ん、お待ちください!スキルが対魔必勝と記載されています!しかも説明には、魔王、魔族、魔物との戦闘の際、無敵状態に突入しステータスも大幅上昇する、と書かれています!!」


 最初残念そうにしていた女性だったが、鏡面に映し出されているスキル文言に目を止めるとその部分の説明を目を輝かせてし始める。

 それから女性が説明を終えると、その場にどよめきが生じる。


「な、なんて最強なスキルだ!」

「これで我々は救われる!」

「勇者様……真の勇者様だー!!」


 それからおもむろに『勇者様』コールが始まったかと思えば、その場の全員がこちらを見てコールする。

 中には、涙を流している人や両手を上げて万歳する人までいる始末だ。

 そんなコールを遮るように俺は口を開く。


「ち、ちょっと待った!色々分からないことだらけだ!誰かこの状況を説明してくれ!!」

「それはあなたがこの世界を救うべく、勇者召喚されたということなのです」


 相変わらず鏡を覗き見ている女性が、鏡越しににっこりと笑みを浮かべながら説明をした。

 そしてこうも続ける。


「この世界は魔王率いる魔王軍の支配下に置かれようとしています。窮地に立たされた人類は、最終手段として勇者召喚を行いました。幾度も召喚に失敗しましたが、今回のあなたの召喚で成功を収めたという形になります!」

「……ふむ」


 ――じゃあ、つまりここって異世界……?でもって俺は異世界にチートとして召喚されたってことか?


「あっ、でも少しお待ちください。他にもスキルがあるみたいです……えっと、対人必敗……人族と戦闘になった際はステータスが全て1になり、魔法やスキルも使えなくなる……らしいです」

「……ほう、それは特に気にしないでも良いだろう」


 女性の説明を聞いてそういう王様ぽい初老男性だったが、その笑みは何かを含んでいるようなものに見えた。

 だがそれは一瞬のことあったので、もしかしたら気のせいかもしれない。


「ところで勇者様のお名前は?」

「俺か、俺の名前は暁……中野暁だ!魔王の脅威などこの俺様に任せておけー!!」


 そしてまた勇者様コールが始まるのであった。


☆☆☆☆☆☆


 それから、夜に俺の歓迎会があるから、それまでは王宮に用意した部屋で待機しておいてくれ、と王様ぽい初老男性に言われたので、俺は豪華で広い部屋に待機しているわけだ。


 にしても、ニート同然だった俺が異世界にいきなり召喚されて、勇者として優遇されることになるとは……人生分からないものだ。

 それより、夜まで暇だな。何して時間を潰そうか……


 そんなことを考えていると、部屋の扉がコンコンッと2回ノックされた。


「はーい!」

「わたくし、第一王女のシェルと言いますの。入ってもよろしくて?」


 ほう、この世界の王女か。さぞかし可愛いんだろうな。声を聴いただけでもおしとやかで可愛い系だし。


「どうぞー!」


 ノブが下ろされ、そのまま扉が開く。

 そこから姿を現したのは、想像した以上の美少女だった。

 美人系に整った顔に、上品さの象徴と言わんばかりの縦巻きロールの金髪、服装にこれまた高価そうなネックレスや指輪と贅の限りを尽くしている感バリバリ漂うような美少女がそこにはいた。

 その美少女ことシェル王女はティーセットの乗ったお盆を両手に持っている。


「せっかくですの。わたくしの暇つぶしに付き合ってくれませんこと?」


 暇つぶしって、王族って思いの外暇なのか?


「は、はあ……良いですけど」

「感謝しますわ」


 そう言ってにこっと笑みを浮かべるとシェル王女は、近くのテーブルにティーセットを置いて、茶を淹れ始めた。

 それからものの数分でティーの香り高い匂いが部屋中に立ち込めたかと思うと、シェル王女がこちらに紅茶の入ったカップを差し出す。


「ありがとうございます……」


 にしてもこの王女、紅茶とは違って無駄に良い匂いがするな。

 もしかして香水でもつけているのだろうか。

 フローラルで甘い香りが鼻をくすぐってくる。

 王女&美少女って良い匂いがするんだなぁ……


 などと変な思考をしながら紅茶をすする。

 紅茶独特の渋みと、この世界の紅茶あるあるなのか薬のような変な味も僅かに感じるが不味いというわけではなかった。


「いかがですか?」

「結構なおて……ま……」


 結構なお手前で、と正解かは分からない誉め言葉を口にしようとしたところで急にフラッと体がふらついて、思考が散漫になりだした。

 いや、思考が落ち着かないというか思考することができないような異常な状態である。

 足にも力が入らず、俺はたまらず床に倒れた。


「うふふっ、さすが即効性の麻薬ですね」


 不気味に笑うシェル王女。

 まとまらない思考の中、俺は彼女に一服盛られたことを悟る。


「麻……薬…だと…?」

「うふふふふふっ!パパ、もう入っても大丈夫ですわよ」


 シェル王女が言うと、部屋の扉が開き、そこから先ほど召喚の間で合った王様が姿を現した。

 彼は右手に鋼鉄製の首輪のようなものを持っており、こちらへと歩いてくると、それを俺の首にガチャリと嵌めるのだった。


 そしてこう言う。


「勇者アカツキよ、貴様はこれから我が王国のために奴隷として生涯魔王軍と戦い続けるのだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

対魔無双で勇者召喚! スーザン @Su-zan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ