第3話
ピエールのオフィスから出た香織と涼介は、街の喧騒から一歩離れた静かなカフェで作戦会議を開くことにした。パリの街並みは、朝の陽光に照らされて輝いている。エッフェル塔が遠くにそびえ立ち、セーヌ川の水面がキラキラと光っていた。
「香織、ここで少し休憩を取りながら、次の手がかりを整理しよう。」涼介がカフェのテラス席に座り、香織にメニューを手渡した。
「そうね。私たちには時間が限られているけれど、焦ってはダメ。冷静に状況を分析しましょう。」香織は涼介の提案に頷き、カフェ・オ・レを注文した。涼介はエスプレッソを頼んだ。
「この鍵がどのロッカーのものかを調べるには、まずオリンピック・キッチンの周辺から手がかりを探す必要があるわね。」香織は鍵を手に取り、じっくりと観察した。「番号が刻まれているけれど、特定の施設に属するものではなさそうね。」
「ピエールの行動範囲を絞り込む必要がある。彼が普段訪れる場所、関係者の証言が重要だ。」涼介はノートを広げ、ピエールの人間関係と行動範囲を整理し始めた。
「まずは、ピエールの友人や同僚に話を聞いてみましょう。彼の行動に不審な点がなかったか、何か変わった様子がなかったかを確認する必要があるわ。」香織はカフェの周囲を見渡しながら、これからの行動計画を練った。
その時、香織の携帯電話が鳴った。画面にはマルセルの名前が表示されていた。香織はすぐに電話を取った。「もしもし、マルセルさん。」
「三田村さん、急いで来てください。新しい手がかりが見つかりました。」マルセルの声は緊張していた。
「わかりました。すぐに向かいます。」香織は電話を切り、涼介に説明した。「マルセルさんから新しい手がかりが見つかったそうよ。」
「それなら早速戻ろう。」涼介はコーヒーを飲み干し、立ち上がった。
再びオリンピック・キッチンに戻った二人をマルセルが出迎えた。「これを見てください。」彼は香織に小さな封筒を手渡した。
香織は封筒を開け、中に入っていた手紙を広げた。「これは…ピエールの筆跡ね。」
手紙には次のように書かれていた。
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**親愛なる友人へ**
私の命が危険に晒されています。ビーフ・ブルギニョンのレシピを守るため、私は重大な決断をしました。この鍵が手がかりになるでしょう。どうか、私の意思を継いでください。
ピエール
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「この手紙の内容から、ピエールは何かを隠していたことが確実ね。」香織は手紙をじっくりと読みながら言った。「そして、この鍵が重要な手がかりだと強調しているわ。」
「ピエールが信頼していた人に送ろうとした手紙でしょうか?」涼介が尋ねた。
「おそらくそうね。彼が最も信頼していたのはマルセルさんか、あるいは私たちがまだ知らない人物かもしれない。」香織は鍵を見つめながら考え込んだ。
「香織、ピエールが最近頻繁に訪れていた場所や会っていた人々のリストを作りましょう。」涼介が提案した。
「そうね。それに加えて、ピエールが最後に見られた場所の周辺を詳しく調査する必要があるわ。」香織はノートを取り出し、調査計画をまとめ始めた。
「まずはオリンピック・キッチンのスタッフに話を聞いてみましょう。彼が普段通りの様子だったか、それとも何か変わった点があったかを確認する必要があるわ。」涼介が言った。
香織は深く頷き、決意を新たにした。「私たちの任務はフランス料理の誇りを守ること。ピエールを見つけ出し、彼のレシピを取り戻すために全力を尽くしましょう。」
二人はオリンピック・キッチンのスタッフに話を聞き、ピエールの行動についての情報を集め始めた。スタッフの一人、ジュリアンが思い出したように言った。「そういえば、ピエールさんは最近、よくオリンピック・ビレッジの図書館に行っていました。」
「図書館ですか?」香織は興味深そうに尋ねた。
「ええ、特定の本を探していると言っていました。何の本かはわかりませんが…」ジュリアンが答えた。
「図書館が手がかりになりそうですね。行ってみましょう、涼介。」香織はジュリアンに礼を言い、涼介と共に図書館へと向かった。
図書館に到着すると、香織と涼介は受付の司書にピエールのことを尋ねた。「最近、ピエール・デュボワという人物がここを訪れていましたか?」
司書はコンピュータで調べ、頷いた。「はい、確かに最近よく来られていました。特にこの部屋の書棚をよく利用されていました。」彼は図書館の奥にある書棚を指差した。
香織と涼介は書棚に近づき、一冊一冊を丁寧に調べ始めた。すると、涼介が一冊の古い本を手に取った。「香織、この本の中に何かが挟まれている。」
香織が本を開くと、中から小さな紙片が出てきた。それはピエールの筆跡で書かれたメモだった。
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**図書館の地下室に隠された手がかりを見つけてください。レシピはそこで守られています。**
ピエール
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「地下室…彼が何かを隠していた場所ね。」香織は決意に満ちた表情で言った。
「早速地下室に行ってみよう。」涼介も同意し、二人は図書館の地下へと向かった。
地下室は薄暗く、古い書物や資料が積み重なっていた。香織は慎重に周囲を観察しながら進んだ。
「香織、ここに何かある。」涼介が指差した先には、隠し扉のようなものが見えた。
「これがピエールが言っていた手がかりの場所ね。」香織は扉を開け、中に入ると、小さな金庫が置かれていた。
「この金庫を開ける鍵が、あの鍵かもしれない。」涼介は鍵を取り出し、金庫の鍵穴に差し込んだ。
カチッという音と共に金庫の扉が開いた。その中には、ピエールの失われたレシピが保管されていた。
「これが…ピエールのビーフ・ブルギニョンのレシピ。」香織は感慨深げに呟いた。
「私たちが見つけたのは、ただのレシピ以上のもの。これは彼の誇りとフランス料理界の象徴だ。」涼介も同じように感じていた。
「次のステップは、このレシピを守り抜き、ピエールを救い出すこと。」香織はレシピを丁寧に金庫に戻し、金庫を再び閉めた。
こうして、香織と涼介は新たな手がかりを手に入れ、さらに深い調査に進むことになる。
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