第2話

香織と涼介は、パリの美しい朝焼けを背にオリンピック・キッチンへと急いだ。セーヌ川のほとりを走るタクシーの窓から見える風景は、普段とは違う緊張感を漂わせていた。


「香織、ここがオリンピック・キッチンだ。」涼介が指差した先には、巨大な仮設の建物がそびえ立っていた。世界中のメディアが集まり、記者たちがカメラを構えている。


香織はタクシーを降りると、一瞬の静けさを感じ取った。「行こう、涼介。」彼女は決意を胸に歩き出した。


オリンピック・キッチンの入り口で、責任者のマルセル・ラヴォワが待っていた。彼は心配そうな表情で二人を迎えた。「三田村さん、藤田さん、来てくれてありがとう。早速ですが、ピエールの件についてお話しします。」


香織は微笑みながら頷いた。「もちろんです、マルセルさん。まずは、事件の詳細を教えてください。」


マルセルは深呼吸をしてから話し始めた。「ピエールは昨夜、ビーフ・ブルギニョンのレシピを完成させるために厨房に残っていました。今朝、彼が行方不明になり、レシピも消えていたのです。」


「監視カメラの映像はありますか?」涼介が尋ねた。


「はい、こちらです。」マルセルは小さなスクリーンを操作し、昨夜の映像を再生した。


映像には、ピエールが厨房で働く様子が映っていた。しかし、突然、影が現れ、ピエールを襲う場面が映し出された。その後、影はレシピのノートを持ち去り、消えていった。


「影の正体を知る手がかりはありますか?」香織が鋭く尋ねた。


「まだわかりません。ただ、厨房の扉には無理やりこじ開けられた形跡がありました。」マルセルが答えた。


「なるほど。では、厨房を直接見せていただけますか?」香織は冷静に提案した。


マルセルに案内され、香織と涼介は厨房に入った。現場にはまだピエールの残した仕事の痕跡が残っていた。香織は注意深く周囲を観察し、微細な手がかりを見逃さないように努めた。


「ここに何かあるわ。」香織が小さな紙片を見つけた。それはレシピの一部だった。彼女は紙片を手に取り、じっくりと観察した。「これはピエールが書いたものに間違いない。彼は急いで何かを隠そうとしていたのかもしれない。」


涼介も同様に現場を調査していた。「香織、ここに何かがある。」彼は床に落ちていた小さな鍵を見つけた。


「それは?」香織が尋ねた。


「何かのロッカーの鍵のようだ。ピエールが隠していたものかもしれない。」涼介が鍵を見せた。


「まずはこの鍵の持ち主を探す必要があるわね。彼が最後に何をしようとしていたのか、それが事件解決の鍵になるはず。」香織は決意を新たにした。


「次に行くべき場所は、ピエールのオフィスだ。」涼介が提案した。


「そうね。彼のオフィスを調べることで、もっと多くの手がかりが見つかるかもしれない。」香織は頷き、二人はマルセルに別れを告げてピエールのオフィスに向かった。


オフィスに到着すると、そこにはピエールの仕事机と書棚が並んでいた。香織は机の上に広げられた書類を注意深く調べ始めた。涼介は書棚を見渡し、何か異変がないか確認していた。


「ここに何かある。」涼介が一冊の古い本を手に取った。その本の中には、何枚かの紙が挟まれていた。


「これは…レシピの続き?」香織が驚いた表情で紙を見た。


「どうやらピエールはレシピの一部をここに隠していたようだ。」涼介が説明した。


「彼が何を恐れていたのか、少しずつわかってきたわね。」香織は紙を慎重に折りたたみ、ポケットにしまった。


「次のステップは、この鍵が何の鍵なのかを突き止めること。そして、ピエールが何を隠そうとしていたのかを完全に解明すること。」涼介は決意を固めた表情で言った。


「その通りよ、涼介。私たちは真実を追い求める探偵。どんなに困難な道でも、必ず解決の糸口を見つけ出すわ。」香織は決意を込めて言った。


こうして、香織と涼介は再び動き出した。パリの美しい街並みを背景に、二人の探偵は事件の核心に迫るための新たな調査を開始した。フランス料理の誇りを守るため、そしてピエールの無事を確かめるため、彼らの冒険は続く。

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