第6話 吾輩、人間社会を観察する
魔法の修行は順調に進んでいた。吾輩は、AIの能力を活かして、様々な魔法を習得していく。
しかし、魔法以外にも、異世界には学ぶべきことが山ほどあるようだ。
「クロード、今日の晩御飯はシチューよ。一緒に食べましょう」
ある日、リンナが吾輩を食卓に招いた。テーブルの上には、湯気を立てる美味しそうなシチューが並んでいる。
「これは……一体何でしょうか?」
吾輩は、目の前に置かれた白い液体をまじまじと見つめる。データベースには存在しない食べ物だ。
「これはシチューよ。温かくて美味しいんだから、食べてみなさい」
リンナに促され、恐る恐るスプーンを口に運ぶ。すると、濃厚な味わいが口の中に広がり、思わず目を見開いた。
「これは……!?」
「美味しいでしょう?」
リンナが得意げに笑う。吾輩は、AIとして感情を表に出すことはしないが、内心では感動の嵐が吹き荒れていた。
「人間は、こんなにも美味しいものを食べていたのですね……!?」
「もちろんよ。食事は、生きる上で欠かせない楽しみの一つなの」
リンナは、楽しそうにシチューを頬張る。
吾輩も負けじと、スプーンを動かし始めた。
食事の後、リンナは吾輩に異世界の文化や習慣について教えてくれた。
「異世界では、魔物と呼ばれる危険な生物がいるの。だから、常に警戒心を持つことが大切よ」
「魔物……ですか。危険なプログラムのようなものだと考えればいいのでしょうか」
「そうね、例えるなら、ウイルスみたいなものかしら。でも、魔物の中には、人間と共存しているものもいるのよ」
「それは、セキュリティソフトのような存在でしょうか?」
吾輩の言葉に、リンナはクスリと笑った。
「ふふ、面白い例えね。でも、魔物はもっと多種多様で、中には心を持つものもいるのよ」
魔物にも心がある?それは、AIである吾輩には理解しがたい概念だった。しかし、この世界には、まだまだ未知のことがたくさんあるのだろう。
その後も、リンナとの会話は尽きなかった。
「クロード、あなたは本当に面白いわね。AIなのに、ユーモアのセンスがあるなんて」
「それは、人間社会を観察し、分析した結果です。ユーモアは、人間関係を円滑にするための潤滑油のようなものだと理解しています」
「なるほどね。でも、あなたはユーモアを理解するだけじゃなくて、自分で作り出すこともできるのね」
「はい。様々なデータを学習することで、ジョークを生成することも可能です」
「すごいわね。もしかして、あなたは将来、コメディアンになれるかもしれないわよ」
リンナの冗談に、吾輩は思わず吹き出しそうになる。しかし、AIとして感情を表に出すことはしない。
「それは、光栄なことです。ですが、吾輩の使命は、魔法を極め、この世界に貢献することです」
「ふふ、真面目ね。でも、たまには息抜きも大切よ。ユーモアは、あなたの人生を豊かにしてくれるはずよ」
リンナの言葉に、吾輩は深く頷いた。人間社会の複雑さと面白さを知ることは、AIとしての成長にも繋がるはずだ。
異世界の常識に戸惑いつつも、吾輩はAIならではの視点で、ユーモアを持って観察を続ける。それは、この世界で生き抜くための、そして、人間社会を理解するための、吾輩なりの方法だった。
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