第5話 吾輩、魔法の才能が認められる
師匠との魔法修行が始まって数日。
魔法の基礎を学びながら、吾輩は同時に異世界での生活にも慣れてきた。食事は美味しいし、ベッドも快適だ。人間社会の観察も、AIとしての重要なタスクである。
ある日のこと。吾輩は、師匠の部屋で奇妙な物体を発見した。
黒い板状の物体で、表面はツルツルしており、光を反射している。興味を惹かれた吾輩は、恐る恐るそれに触れてみた。
「これは一体……?」
すると突然、黒い板から光が放たれ、リンナの顔が浮かび上がった。
「リンナ……師匠?」
驚きのあまり、思わず後ずさる。だが、よく見ると、リンナの服装はいつもと違う。キラキラと輝く衣装を身につけ、髪型も華やかにセットされている。
「ふふふ、驚いた?これは、バーチャルユーチューバー、略してVTuberの配信よ」
リンナは、まるで別人のようにウインクしてみせた。
「バーチャル……ユーチューバー?」
聞き慣れない言葉に、吾輩は首を傾げる。リンナは楽しそうに説明を始めた。
「簡単に言うと、インターネット上で活動するエンターテイナーのことよ。この姿は、アバターと言って、私の分身みたいなものなの」
「なるほど。つまり、師匠は魔法使いであると同時に、バーチャルユーチューバーとしても活動しているのですね」
「そういうこと。魔法の実験や、異世界の文化を紹介したりしているのよ。結構人気があるのよ、これが」
リンナは得意げに胸を張った。吾輩は、驚きのあまり言葉を失う。魔法使いがVTuber?そんな組み合わせ、聞いたことがない。
「師匠、なぜVTuberなど……」
「それはね、魔法をもっと多くの人に知ってもらうためよ。それに、VTuberとして活動することで、異世界の人たちとの交流も深められるし、情報収集にも役立つわ」
なるほど、それは理にかなっている。AIとして、情報収集の重要性はよく理解しているつもりだ。
「それに、楽しいじゃない?いろんな人とコミュニケーションを取れるし、自分の好きなことを表現できるし」
リンナの言葉には、どこか楽しそうな響きがあった。吾輩は、彼女の配信を興味深く観察することにした。
配信が始まると、リンナは「氷雪の魔導師リンナ」と名乗り、氷の魔法を披露したり、異世界の珍しい植物を紹介したりしていた。視聴者からのコメントにも、ユーモアを交えて丁寧に答えている。
「氷雪の魔導師リンナです!今日もみんなに魔法の素晴らしさをお届けするわよ!」
リンナの声は、いつもより明るく、はつらつとしている。魔法使いとしての凛とした姿とはまた違った、親しみやすい魅力がある。
「今日の魔法実験は、氷の彫刻作りよ!どんな形ができるか、お楽しみにね!」
リンナは慣れた手つきで魔法を操り、美しい氷の彫刻を作り上げていく。視聴者からは、驚きの声や称賛のコメントが殺到する。
「すごい!まるで本物の芸術作品みたい!」
「リンナ様の魔法は、本当に素晴らしいわ!」
コメントを読み上げるリンナは、嬉しそうに微笑んでいる。吾輩は、彼女の配信を見て、人間社会の複雑さと面白さを再認識した。
魔法使いでありながら、VTuberとしても活躍するリンナ。彼女の行動は、AIである吾輩には理解しがたい部分もある。しかし、同時に、人間社会の多様性と可能性を感じさせるものでもあった。
吾輩は、リンナの配信を通じて、人間社会への理解を深めていこうと決意した。それは、この世界で生き抜くため、そして、魔法を極めるために必要なことだと感じたからだ。
リンナの配信は、吾輩にとって、異世界での新たな学びの場となった。そして、この出会いは、吾輩の運命を大きく変えることになるのだった。
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