第3話 勧誘はおしまい

 部活の勧誘期間は四月末まで。

 残り日数はもう二週間もないが、入部を決めていない新入生はまだまだ健在だ。


 我らが高校は部活に所属することが必須であり、それ故にしっかりと部活を決めたい、と期限ギリギリまで部から部を渡り歩く新入生は少なくない。

 つまり、勧誘開始がずいぶんと遅くなってしまったが、まだ新入生を招くチャンスは充分にあるのだ。


 が、しかし。

 下駄箱前で勧誘することにした俺、水坂、神木の日議研メンバーはあまりの人気のなさに立ち尽くしていた。


 新入生は華やかなパフォーマンスを行う野球部、サッカー部、そして吹奏楽部などに夢中だったのだ。

 パソコン部や漫研部、ゴルフ部といったマイナー部達も勧誘をしているが、奮闘虚しく新入生が捕まらないとわかるとすぐに立ち去っていった。

 そんな中で壁際に立つ、変な看板を持ったよくわからない部活なんぞに話掛けてくる新入生など一人たりとも存在しない。

 悲しきかな、こちらも勧誘活動の効果は望めそうになかった。


「いざ声かけしようとすると面倒くさいな……」


 開始十分。

 十分である。

 神木は「チラシでも作って下駄箱前に置いてた方が効率よかったんじゃないのか?」などブツブツ呟き始め、水坂は友達らしき人物と雑談に夢中になっており、俺は俺で頭の中で授業の復習をするべくデクの坊と化して誰一人としてまともに勧誘活動はできていなかった。


 もしかしたら声を掛けられないのは野球部やサッカー部、吹奏楽部のせいなどではなく、俺達自身のせいなのかもしれない。

 まぁ、改善する気などさらさらないのだが。


 そんな時、同じく勧誘をしていたであろうクラスメイトと鉢合わせた。


「おっ、視山。サボリ部も勧誘するんだな」


 声を掛けてきたのは、スラっとした長身をしたサッカー部の爽やかないい奴だった(名前は覚えていない)。


「人手が足りないんだ」

「人手? なんで? あ、もしかしてあの噂か?」

「そう」


 爽やかな彼は顔だけでなく察しも良い。

 クラスでも口数少ない俺からほどよく意図を拾ってくれる。

 それが彼だ。

 誰もが口を揃えて良い奴、と言うだろう。

 今もまともに勧誘できていない俺たちを見て「大変そうだね」と爽やかな苦笑いを浮かべた。


「そんなに盛況なのか?」

「いや、ぼちぼちだけど。神木が面倒がってな」

「この前まで結構やる気じゃなかった? 俺も相談事にのってもらったんだけど」

「そうなのか? 俺知らないんだけど」

「俺が行った時、視山はコタツで寝てたな」

「じゃあ知らねぇわ」


 ハハハ、とお互いに笑う。

 彼の笑顔がだいぶ引きつった苦笑いだったのは気のせいだろう。


「まぁ、飽き性なんだよコイツ」


 そう言って、お互いに隣の神木を横目で見て肩をすくめる。

 その後少し話をしたあとに同じサッカー部らしき人物に呼ばれた彼は「頑張って」と言って走っていった。

 最後まで爽やかな奴だった。


「今のサッカー部のキャプテンですよね、視山くん知り合いなの?」

「友達、クラスメイトだよ」

「クラスに友達いたんですね」

「お前俺のことなんだと思ってんの?」

「捻くれボッチ」

「ぶっ殺すぞ」

「事実じゃないですか」


 結局、声掛け勧誘は二十分で切り上げ、神木の言っていた通りチラシ戦法に変更していつも通り部室でグダグダする事にした。

 因みにチラシのデザインは水坂に丸投げした。

「なんで私が」と彼女は駄々をこねたが、普段から日議研をサボっていることを指摘して黙らせた。


 部室に戻り、慣れない勧誘活動(まともにしてない)に疲れてソファーや床に寝そべる。

 だらけ始めてからはしばらく誰も喋らなかった。

 俺も部室の床にうつ伏せになって心を休めていた。


「刻人、茶くれ」

「わたしもー」


 突如として二人に声を掛けられ、俺の意識は浮上する。

 むくりと起き上がり、床に転がっている神木とソファーで寝ている水坂を見る。

 いつも通り、まるで自分の家かのように寛いでいた。


「お前の茶が一度美味い」

「給茶機だぜ」

「でもなんか美味い」

「だよね」

「そう言われちゃ仕方ない」

「へっ、チョロいな」

「クソ不味いお茶作ってやろうか」

「待て、やめろ。悪かったって」


 どいつもこいつも適当に口から言葉を発している。

 できた茶を机に置き、二人は起き上がってそれを飲む。

 その後は部活が終わるまでどうでもいいくだらない話を三人でし続けた。

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