日常

もう十分に肉が手に入ったのに、皆がまだやると言ったので、ここで一泊して翌日も魔木を探してマギュウを狩ったのだった。やっぱり、自分が成長しているのがわかると嬉しいのだろう。もう一生マギュウ肉に困らないのではなかろうか?終日狩りをしていたのでもう一泊して、早朝出発して夕暮れに王都に戻った。


「ちい兄様、大隊長に明日顔を出すと伝えておいて」


「分かった」


「マーギン、晩ごはんは何にするの?」 


「城で食わないのか?」


晩飯を強請ってくるカタリーナ。今日は庶民街の家に泊まるらしい。


「マーギン、うちになんか作ってくれるんだよな?」


強請り2号バネッサ。


「作ってやるのは時間掛かるから、2日間程待て。打ち上げの時には食わしてやるから」 


「ちぇっ、今日じゃねぇのかよ」


「なら酢豚でも作ってやろうか?」


「へへっ、それでいいぜ」


ということで、本日は酢豚と肉団子にすることに。バネッサ達も食べに来るならオルターネン達も帰らせなければ良かったな。


タジキと一緒に酢豚と肉団子を作っていく。味付けは2種類。酸っぱいのと甘めの物。多分カタリーナとアイリスも甘めを選ぶだろう。


「ほら、熱いからがっつくなよ」


と、言ってるのに熱ぃぃっと言う声が聞こえて来る。学習せんな…


マーギンは皆が食べている間、マギュウをステーキ用に何枚も切り分けていく。


「マーギン、食わないのか?」  


と、タジキがキッチンに見に来た。


「気にせず食っとけ」


「それ大将の分か?」


「大将の所には塊で渡す。これはババァの所に持って行く分だ」


「手伝うぞ」


「いいからタジキも食っとけ。肉を切るだけだから大丈夫だ。後で他の仕込みをするからその時に手伝ってくれ」


「分かった!」



ー居間ー


酢豚と肉団子を堪能したみんなは酒を飲みながらマギュウ討伐談義をしている。その中でカタリーナはずっとクンカクンカしていた。


「姫様、そんなにそれはいい匂いですか?」


カタリーナは魔木の実をずっと嗅いでるのだ。


「なんかこの甘い匂いがやめられないの」


「大丈夫ですか?なんかその実に変な作用があるとか…」


ローズはマーギンに魔木の実に何か変な作用がないか聞きに来た。


「マーギン、姫様がずっと魔木の実の香りを嗅いでいるのだが、中毒成分とか入っているのか?」


「ん?そんなのないぞ。食べても問題ないしな。たんにカタリーナがあの匂いが好きなだけなんじゃないか?」


「それならいいのだが…」


「皆飲んでるんだろ?何かつまみが必要ならタジキに作ってもらったら?」


「あぁ、まださっき作ってもらったのがあるから大丈夫だ」


マーギンはローズに話し掛けられながらも作業を続けている。


「随分とたくさん作っているのだな」


「そうだね。焼くだけにしといてやったらすぐに食べられるからね」


「どこに差し入れをするのだ?」


「娼館だよ。そこのババァには世話になったからな。それに、遊女の見習いとかは遊女になって稼げるようになるまでは好きな物も食べられないからね。たまの差し入れを楽しみにしてるんだよ」


「娼館か…」


「そう。ババァの教育がしっかりしているからか、みんないい人だよ。俺はこうして差し入れをするぐらいしか恩返しが出来ないけどね」


ステーキ用の肉を切り分けた後に、ハンバーグも作っていたマーギン。


「さ、差し入れ分はこれで完了。タジキーっ、手伝いに来いっ」


マーギンはタジキを呼んで、筋とホルモンの処理を手伝わせる。


「そんな所も食うのか?」


「そうだよ。これは煮込み料理にする。手間暇掛けるとちゃんと旨くなるんだよ」 


タジキに指示して、スジ肉を何度も茹でこぼしをさせていく。その間にスネ肉の仕込みだ。


「タジキ、魔木の実をスライスしてくれ。多少分厚くてもいいぞ」


ふんぬふんぬと魔木の実を切るタジキ。


「マーギン、切れたぞ」


「スネ肉をワインと魔木の実と一緒に漬けておいてくれ」


次はマギュウの骨から出汁を取る。


グツグツグツグツ


「まだまだ時間が掛かるのか?」


調理をずっと見ていたローズ。


「そうだね。朝まで掛かると思うよ」


「いつもそんな事をしているのか?」


「まぁ、自分で食うだけならやらないかもね」


と、マーギンは笑って答える。


「昔からこうして料理をしていたのか?」


「仲間達の飯当番というか、料理担当だったからね。あいつに任せておくとろくなもんを作らないんだよ」


と、答えたマーギンはミスティの旨さ控えめの飯を思い出す。今なら旨いぞとお世辞を言ってやれるのだろうか?


「戦いもして、飯も作ってか… マーギンは辛くはなかったのか?」


「そりゃあ、なんか作るのが面倒臭い時もあるよ。だけど旨い飯は活力になるだろ?くだらない事で喧嘩したりしても、旨い飯と酒があると嫌な雰囲気も和んだりするし」


「それはそうかもしれんが…」 


「ローズは庶民街でカタリーナと本格的に暮らす事になったら飯とかどうすんの?毎食外食すんの?」


「ほぼ外食になるとは思うが、どうしてだ?」


「いや、カタリーナが作ってあげるとか言って嫌いな物出されそうだなとか思って」

 

と、マーギンは笑う。


「それはあるかも…」


ローズはカタリーナにピーマン炒めを作ってもらった事を思い出した。


「凝った物を作れなくてもいいと思うけど、簡単な物は作れるようになった方がいいかもね。外食も面倒だなとか思った時にパパっと作れるものとか」 


「そうだな、マーギンが教えてくれるか?」


「タイベに行く道中で覚えればいいよ。道中だとどうせ簡単なものしか作れないから」 


そんな話をしながらギュウ骨出汁を取るのを休憩する。スジ肉の茹でこぼしももういいだろう。タジキをもう寝かさないとな。


キッチンから居間に戻るとアイリス、カタリーナ、バネッサが寝てやがる。


「ロッカ、バネッサとアイリスを連れて帰れよ」


「面倒だ。置いて帰る」


「あのなぁ、また俺が床で寝るハメになるだろうが。ハンナ、お前もあっちに寝に行けよ」


「えーっ、もう歩くん嫌や」


こいつら…



「マーギン、聞きたい事があるの」


シスコが帰る前に何かを聞きたいようだ。


「なんだ?」


「魔木の実って、オイルにも匂いは移るのかしら?」


「どうだろうな?酒には匂いが付くぞ。俺は焼酎に漬けようと思ってるけどな。ミードとかでもいいぞ」


「そう。マーギンも知らないのね。じゃあ試してみるわ」 


「お、おぉ」


よく意味が分からなかったマーギンは適当な返事をした。


嫌や嫌やっというハンナリーの首根っこを掴み、カタリーナはローズにおんぶしてもらい送って行くことに。


「バネッサとアイリスはいいのか?」


「ロッカ、どっちかおぶって帰るか?」


「面倒だと言っただろ」


「ほならうちもここで寝るっ」


マーギンから逃げたハンナリーは帰るのを拒否しやがった。もうまとめて床に寝かせよう。ソファは俺がもらう。


結局、ロッカ達がローズと一緒に帰るので送らなくても良いと言われたのであった。


皆が帰った後にバネッサとアイリスを床に寝かせる。


「ハンナ、お前も床で寝ろよ」


「マーギンはまだ寝ぇへんのん?」


「仕込みが終わってないからな」


「ほなら、うちがソファ使おっ」


こいつ…


まぁ、朝まで仕込みが掛かるから別にいいけど。


マーギンは一人でギュウ骨スープとスジ肉をグツグツと一晩中煮込んで行くのであった。



翌朝、起きてきたタジキに、漬け込んだスネ肉をこうして軽く焼きめを付けてな、と教えた後にワイン煮込みを作る。ワインとギュウ骨スープを加えてトマト、じゃがいも、人参を加えてバネッサ用に少し甘めに味付け。後はスネ肉が柔らかくなるまで煮込むだけ。


スジ肉は味噌煮込みに。下茹でしたマルチョウも加えてやる。


他の皆も起きて来たので順番に風呂に入らせて、タジキに朝飯を作ってもらおうとすると、


「うちが作ってやんよ」


と、カラスの行水のバネッサが一番に出てきて朝飯を作ってくれると言う。


「バネッサが?」 


「嫌なのかよ?」


「いや、別にいいけど」


定番の目玉焼きとベーコンだしな。


アイリスもハンナリーもシャワーだけで出て来たので、飯を作っている間にマーギンも風呂に入れと言われた。


マーギンはお湯を溜めてカザフ達と入る。


「こうやって一緒に入るの久しぶりだな」


「そうだなぁ、お前らもデカくなって来たからこうやってここで一緒に入れるのももうすぐ無理だろうな」


カザフ達は孤児だった頃と比べて身体も大きくなり、筋肉も付いて成長したのがよくわかる。


「へへっ、背も伸びたんだぜ」 


「また服を買いに行かないとダメだな。去年買った冬服はもう着れないだろ。今日大隊長の所に顔出した帰りに服を買いに行くか」


「イェーーッイ!」


そんな話をして風呂から出ると、アイリス達が先に食べていた。


「遅ぇぞ」


バネッサはマーギンが風呂から出てから調理を始めた。作ってくれたのはカリカリベーコンと半熟目玉焼き。


「おっ、旨い」


「バネッサ姉、目玉焼きはもっとちゃんと焼いてくれよ」


「うっせえな。こっちの方が旨いだろうが」


そう、タジキが作ってくれる目玉焼きは黄身がかっちり固まったこっちの世界のスタンダードタイプ。


この半熟目玉焼きは…


そうか、タイベで食ったのもバネッサが作ってくれたのか。


「バネッサ」


「なんだよ?」


「これ、旨いわ」


「あっ、あったりめぇだろっ。心して食えよっ」


「あぁ、そうさせて貰う」


そう答えるとバネッサはフンッと嬉しそうな顔をしてそっぽを向いたのであった。



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