日常その2

マーギンは朝イチでババァの所に差し入れを持っていく。


「随分と久しぶりだねぇ」


「忙しいんだよ。ほら、差し入れだ」


「なんの肉だい?」


「アカゲマギュウ。ちゃんと見習いにも食わしてやってくれよ」


「随分と張り込んだね。こんな物を見習いに食わしたら、毎日の飯が食えなくなるだろうが」


「なら、いつもの飯を旨いのに変えてやれよ」


「そんな事をしちゃ、破産しちまうよ」


嘘つけ。


「ババァには脂っこくて消化出来んかもしれんから、ヒレとかにしとけよ」


「ふんっ、生意気言うんじゃないよっ」


いつものやり取りだけど、なんとなく気弱な感じがするのは気のせいだろうか?


見習いの女の子に肉を渡して、ハンバーグから食べなよと言っておく。ババァの教育なのか、見習いの子達は俺とはほとんど口をきかない。深々と頭を下げて肉を奥に持っていったのだった。


家に戻ってから星の導き達の家にカザフ達を預けて大隊長の所へ。ローズとカタリーナも城に行くらしいので途中まで一緒だ。


「カタリーナ、歩きながら匂いを嗅ぐな」


「えーっ、だってなんかやめられないんだもん」


「せめてカットしたやつを嗅げ。まるまま持つなよ」


「切ったやつは手がべたべたするじゃない」


魔木の実は本当になんか中毒成分でも入ってるんじゃなかろうな?と思いつつ放置した。



ー大隊長室ー


「随分と早かったな」


「そうだね。もう少し時間が掛かるかと思ってたんだけど、みんな戦い慣れして来たから早くに終わったよ」


「そうか。サリドンとホープは特務隊でやって行けそうか?」


「もう大丈夫じゃない?後は実戦を重ねるのみだと思うよ」


「そうだな。あいつらは稽古ではすでに隊長クラスより強くなってるからな。他の騎士達も特務隊に負けまいと必死で訓練しているぞ」


「順番に実戦させればいいのに」


「それは特務隊がタイベから戻って来たら考えよう」


「そうだね。サリドンとホープが指揮を取る練習も兼ねればいいんじゃない」


「そうなると若手中心になるな」


「騎士慣れしている人よりいいかもね」


恐らく特務隊に入る人間は、貴族籍を失うかもしれないような若手中心になっていくだろう。貴人の護衛は爵位がある人の方がいいだろうしな。


「報奨の件だが、3日後でいいか?」


「それ本当に受けないとダメ?」


「当然だ。今日ぐらいの時間に来てくれ。服はちゃんとしたものを着てこいよ」


オルターネンにもらった服でいいか。


「打ち上げはいつにしますか?」


「明日で頼む」


「了解。王都外の森でいいかな?」


「宿舎の屋上はダメか?」


宿舎の屋上だと、王か王妃が来ちゃったテヘをしそうで嫌なのだ。


「気軽に飲み食いしたいからね。外の方がいいよ。それか遅い時間でもいいなら、食堂が終わってからでもいいけど」


リッカの食堂ならロドリゲスも呼べば一度で済むからな。


「そうか、なら場所と時間は任せる」


ということで、時間と場所はオルターネンに伝言してもらおう。



ーハンター組合ー


待ち合わせをしていないのに、みんなここに居た。アカゲマギュウの話でもちきりだ。


「マーギン、随分とたくさん狩ったそうだな」


ロドリゲスが先に話を聞いたみたいで数を聞いてきた。


「30匹ぐらい狩ったんじゃないかな。ロドはどの部位が欲しい?保存出来るなら1匹分とか渡してもいいけど」


「腹の肉の塊だけでいい。というか調理したのを食わしてくれ」


「今から大将の所に行って確認するけど、明日の夜、リッカの食堂の閉店後に打ち上げをしようかと思ってるんだけど、そこで食う?」


「おぉ、それがいいな。今からダッドの所に行くなら俺も行こう」


「ちょっ、ちょっと組合長。どこに行くつもりですかっ」


「大事な打ち合わせだ。後は頼んだ。さ、マーギン行くぞ」


受付嬢がキーーっとなっているなか、ロドリゲスはマーギンの肩を組んで組合を出たのであった。



ーリッカの食堂ー


昼飯の時間ももう終わりなので、すんなり入れた。


「あら、どちら様?」


久々に会ったリッカはツンを通り越してスンになっている。マーギンはリッカの機嫌を取るのも面倒なので、15名と人数だけを伝える。


「おや、ロドも来たのかい?随分と大勢だね」


「おっ、ミリー。相変わらず……だな」


「……はなんて言ったんだい?」


「い、いい女だなと言ったんだよ」


「娘の前でやだねぇっ」


ドスウッ


女将さんの肘をモロに脇腹に食らうロドリゲス。口から内臓が出そうになってたぞ。


「おっ、お前ら久しぶりだな」


マーギン達の声を聞いた大将が出て来た。


「大将っ!マーギン、あれ出してあれっ」


タジキの言うあれとはマギュウの頭の骨だ。


「ほらっ、こいつは俺達だけで狩ったんだぜっ」


「こいつは… マギュウか?」


「そうだぜっ。こーーーんなでっかいやつを狩ったんだ」


タジキよ、頭の骨から大きさは推測出来るから盛ったのがバレバレだぞ。


「おぉー、そいつぁすげぇな」


しかし大将はそれを否定せず、嬉しそうに報告するタジキに顔がデレている。カジキの頭に続いて、マギュウの頭の骨も飾られる事になるだろう。


「大将、明日閉店後にマギュウパーティーをここでしたいんだけどいいかな?」


「明日は休みだから構わんぞ」


「そうなの?」


「あぁ、店もだいぶ落ち着いたからな」


「萌キュンが飽きられたのか?」


リッカはおざなり萌キュンをやってたからな。客が離れてもおかしくない。


「いや、他の飯屋でも似たような事をやり出して客が分散してんだ。一通り他の店に行ったやつはまたここに戻って来てるがな」


まぁ、他の店が萌キュンの真似事をしても本当に旨くなるわけじゃないからな。


「シャングリラの人達は?」


「そのまま来てもらってるぞ。店は繁盛したままだからな」


「そりゃよかった。なら仕込みは全部してくるから場所と食器だけ提供して。酒もこっちで用意するから」


「ここのメンツ全員来るんだろ?肉は足りるか?」


「全部で30匹は狩ったから足りるよ」


「は?」


「みんな調子に乗って狩りまくったんだよ」


「何日掛けた?」


「2日」


「お前、どんな狩り方したらそんなに狩れるんだっ」


「それは酒の席で話そう。昼飯まだだからここで食っていい?」


「もう残ってねぇぞ」


「スネ肉のワイン煮込みがあるからそれを食うよ。大将達も食うだろ?」


と、マーギンは食器だけ出してもらって、スネ肉のワイン煮込みを皆に振る舞った。


「随分と甘めの味付けにしたんだな?」


「確かに大将の好みじゃないね」


「お前にしちゃ珍しいじゃねぇか」


マーギンが自分用に作ったのならこの味付けにはしないと大将も理解している。そんな話を大将としていると、バネッサが旨ぇっとガツガツ食べていた。


「あー、あいつら向けの味付けか」


アイリスとカタリーナも喜んで食べている。


「大将には明日の夜に酒に合う奴作ってあるからそれを食べて。その代わり、俺には賄いを作っといてくれよな」


「分かった。作っといてやる」



飯後に特務隊と星の導き達は森で立ち合いをするらしい。カザフ達もそれに参加するので、ロドリゲスはカザフ達を正ハンターにするかどうかの確認の為に一緒に行ったのだった。服を買いに連れてってやろうと思ってたけど、明日でいいか。


家に帰って明日の仕込みをすることにしたけど、カタリーナも見に来るらしい。ハンナリーも手伝ったるわだと。


ローズ達に焼肉用の肉の切り分けをしてもらい、マーギンはロース肉をスライサーでしゃぶしゃぶ用にスライスしていく。


「私もそれやりたいっ」


「これは危ないからダメだ」


「えーっ、簡単そうじゃない」


「簡単そうに見えて危ないんだよ。指先が無くなったらどうするんだ?」


「えっ?」


「包丁だと皮膚を切るぐらいの傷で済むけど、これは下手したら指先が無くなるからダメだ」


すっぱり千切れたら治癒魔法でくっつくとは思うけど、やらせない方がいい。


指先が無くなると言われたカタリーナは諦めてくれたようだ。


ロース肉の次はタンを薄切りにしてスライサーの出番は終わり。次は花咲カルビと、モモ肉をローストビーフ用にと。


手伝ってくれている焼肉用のやつは大きさがバラバラだけど、問題ないだろう。次はステーキ用だな。


食べきれないだろうなと思いつつも、色々な食べ方をして貰うためにせっせと仕込みをしていくのであった。



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