それぞれの倒し方

何度も失敗してふっ飛ばされたカザフもタイミングを掴み出してからは完璧に出来るようになった。


「パラライズ!」 


もう大丈夫だと判断したマーギンは練習相手のマギュウを痺れさせてから、オルターネン達の所へ戻ると、3頭共無事に討伐出来ていた。


「ボロボロになってるじゃないか」 


怪我をした者を順番に治癒するマーギン。


「ロッカ、剣を貸せ。砥魔法を掛けてやる。お前、マギュウの角とやり合っただろ?」


「うむ、こいつの角はかなり硬いな」


「お前なぁ、コイツら以外に襲われたらどうするつもりだったんだよ?」


「周りの気配を探っていたから問題ない」 


随分とスッキリした顔のロッカ。思う存分力試しを楽しんだのだろう。まぁ、今回は討伐というより狩りだからいいか。


「マーギン、マギュウは他にもいるのか?」


と、オルターネンが聞いて来た。


「あぁ、いるよ。今からタジキとトルクにもやらせてみる」


「俺達の分もいるか?」


「探しに行けばいると思うよ」


オルターネンは今の戦いである程度マギュウの習性を把握したようで、それを確かめる為にもう一度やりたいようだ。


「皆を呼んで来るから、特務隊でこのマギュウをある程度解体しておいて。解体はサリドンとホープを主体でやらせてね」


マーギンが言った意味が分かったオルターネンは早速サリドンとホープに解体の指示をしていた。


マーギンはこの草原の気配を探ったが、マギュウ以外に何もいなさそうなので、全員を連れてくることにしたのであった。



ー特務隊が解体している場所ー


「わぁー、こんなに大きいのねっ」


倒れているマギュウを見てはしゃぐカタリーナ。


「1トンはあるだろうからな。肉もたくさん取れるぞ」


「マーギン、この木に生ってる実は食べられるの?」


「こいつは魔木の実だけど食べられるぞ。登って採ってみるか?」


「うん♪」


随分と木登りが上手くなったカタリーナはするすると登って赤い実を採って下に落としていく。まるでヤシの実を採るサルみたいだ。


戻って来たカタリーナは赤い実を両手で持って匂いを嗅ぐ。


「すっごく、甘くていい香りがするっ」


「だろ?タジキ、カタリーナに切ってやれ。皮が硬いから気を付けろよ」


赤い実はザボン程の大きさで、かぼちゃの様な硬さだ。


タジキは苦戦しながら半分に切り、そこからまた半分に切る。


「中は黄色なんだな」


「切るともっと甘い香りがするだろ?」


「うん。一口サイズに切ってみるよ」


と、半分の半分に切った後に、切込みを入れて一口サイズにした。皆でそれを食べてみる。


「甘くない…」


甘さを期待したカタリーナは不服な顔をする。


「マーギン、ゴリゴリしてて味がねーぞ」


タジキも味見をしてみるも、旨くもなんともないと言う。


「これ、まだ熟してないのか?」


と、ローズ。


「いや、この実は熟しているというか、ずっとこんなに感じだ。加熱しても甘くはならない」


「えーっ、それなら初めからそう言ってよっ。甘いのかと思ったじゃない」


知ってたら先に言えと怒るカタリーナ。


「これはこのまま食うんじゃなくて、香りを楽しむものなんだよ」


「匂いだけ?」 


「そう。切って酒に漬けておいたり、肉の香り付けに使うものなんだよ。それと肉を柔らかくもしてくれるぞ」


「クロワニのパパイヤみたいなもんか?」


と、バネッサがタイベで食べた唐揚げを思い出す。


「そうそう、そんな感じだ。帰ったらなんか作ってやるよ」


「甘いのか?」


「甘くも出来るけど、まぁ、楽しみにしとけ」 


バネッサを甘やかせるマーギン。


「それより、サリドンとホープは上手く解体できたか?」


「こいつは硬くて難しいぞ」


「なら、上手く解体出来るまで頑張れ。タジキ、トルク。お前らは今からマギュウ狩りの練習をしに行くぞ」


「えっ?俺たちにもやらせてくれんの?」


「カザフと3人で倒してみろ。向こうに2匹確保してあるぞ」


特務隊は解体の為にここに残り、他の皆で痺れさせているマギュウの元へ。



「2匹共パラライズを解除するから、1匹はトルクが動けないように工夫してみろ。弓でも魔法でもどちらでも構わん。カザフ、タジキに倒し方を教えてやれ」


マーギンがカザフ達にそう指示をする。


「マーギン、カザフ達だけで倒せるのか?」


「そうだぜっ、うちらでも結構大変だったんだからな」


「バネッサもよく見とけ。お前にも出来る戦法でやらせる。同じ方法でやれば簡単に倒せるぞ」


カザフ達の打ち合わせが終わったようなので、パラライズを解除する。


「行くぜっ」


パラライズを解除された2頭はカザフに向かって突進してくる。


「止まれっ」


トルクが右のマギュウに向かって手を突き出して握り潰すような仕草をする。


ズズズっ


右のマギュウが何かに掴まれたようにその場で動けなくなり、後ろ足でザッザッと地面を蹴るが前に進めない。


おぉー、あのデカいマギュウの突進を見えざる手で止めるか。こっそりと練習していたのかこいつ?


そして突進して来た左のマギュウの角の後ろに飛び乗ったカザフはポンッと弾き飛ばされたように見えた。


「危ねえっ」


バネッサが飛び出そうとするので、マーギンがバネッサの前に手を出して止める。


ふにょん


「てっ、てめえっ何しやがんだっ」


べきっ


ラッキースケベをしたマーギンは久しぶりにバネッサの一撃を食らった。


「いででででで、あいつらにやらせてんのに邪魔すんなっ」


「だってよぉ… あっ」


カザフはマギュウの背中を越えてクルクルっと回って後ろに着地。そして上を向いたマギュウの喉をタジキが斬ってさっとその場を離れていた。着地したカザフも素早くタジキの元へ走る。


ドサっ


それを見たトルクは見えざる手を解除。すぐさま突進して来たもう1頭のマギュウをカザフとタジキは同じようにして倒したのであった。


2頭を倒したカザフ達はマーギンを見る。


「合格だ!」


と、マーギンは親指を立てて3人を褒めた。


「やったぜっ!」


トルクもカザフ達の所に行き、3人でイエーイっと手を叩き合って喜んだのであった。


「見事だな」


ロッカはカザフ達を見て素直に褒める。


「ロッカ、前に雪熊を倒した時のことを覚えてるか?」


「あぁ」


「あの時は大隊長が風の刃で雪熊を仰け反らせて、ロッカが首を斬った。喉が弱点の魔物は多い。だから魔物もそこを狙われないようにするだろ?」


「そうか、カザフは弱点をさらけ出す役目をしたのか。かなり危険な役目をお前はさせたのだな?」


「マギュウ程度なら問題ない。カザフは体重が軽い。身体強化をしていれば角を食らっても致命傷になるような事はないからな」


「なるほど、体重が軽い方が有利に働く事もあるのだな」


「そういうこと」


「ロッカ、もう一度やりに行こうぜ」


バネッサは拳で掌をパンパンと叩いて、やる気を見せた。今のカザフを見て負けられないと思ったのだろう。


「一度ちい兄様達の所に戻るぞ。特務隊ももう一度やりたいみたいだからな」


この場で倒したマギュウはマーギンが魔法で解体して収納。


「マーギン、毛皮は持って帰らないのかしら?」


「こいつの毛皮は重いから防具にするには向いてないぞ」


「他にも使い道があるわよ。持てるなら持って帰って欲しいわ」


と、シスコが言うので毛皮も収納した。



ー解体をしている特務隊ー


「出来たか?」


「なんとか少しな」


解体を頑張っていたホープは休憩していた。


「ボアの解体とどう違った?」


「皮は硬いし、腹の脂肪も厚い。こいつの解体は難しいな」


「一番斬りやすかった場所はどこだ?」


「喉まわりだな」


「そうか。なら、ここから俺が解体しながら、肉の部位を説明してやるよ」


マーギンはするすると解体しながら、ここは肩ロースで、ここはサーロインでと、各部位の説明をしながら、こう食べるのが美味いと説明していく。


「マーギン、こいつは肉の中まで脂があるんだな?」


タジキは他の牛やボアとかの肉との違いに気が付いた。


「そうだ。マギュウを狩りに来た理由はこの肉質だな。それに魔木の実を食ってるから肉もいい匂いになっている。最上級の肉だぞこれ」


「どうして肉の中に脂が入るんだ?」


「こいつらは魔木の実を落とすのに、身体を木にぶつけるんだよ。それで脂が肉の中に入るとも言われてたけど違うだろうな」


と、マーギンは笑う。


「多分、アカゲマギュウの特性だ。この魔木は通年実が生っている。その木の下で暮らしているからあまり動かなくていいからな。それにここは敵が居ない。マギュウの楽園だからこんな肉になるんだと思うぞ」


「へぇ、これを昼飯に食うのか?」


「食ってもいいけど、訓練の打ち上げの飯にしようと思ってたからな。戻ってから皆で食った方が良くないか?」


「大将の所にも持って行くのか?」


「そのつもりにしているぞ。ロドも食いたいって言ってたしな。打ち上げの焼肉は大隊長も楽しみにしてたしな」


「なら、その時までのお楽しみにするっ」


「ロッカ達もそれでいいか?」


「そうだな。その時まで肉欲を高めておこう」


肉欲て…


手持ちの飯を簡単に食べて、特務隊の狩り、星の導き達の狩りをすることに。


魔木を探すと簡単にマギュウが見つかる。


先ずは星の導きからやるが、何度も練習をしたカザフと違って、バネッサは一発で決めた。他のマギュウの動きを止めるのはアイリスのスリップとシスコの弓だ。シスコもパスパスと両目を射ち抜いたのは流石だ。


次の魔木を探して特務隊の出番。


「ちい兄様、ハンナリーにヘルプ頼む?」


ハンナリーのパラライズかスロウがあると楽勝と思われる。


「いや、ハンナリーが特務隊に入るならヘルプを頼むが、彼女は商人になるのだろ?これが実戦なら頼むところだが、訓練なのだから我々だけでやらないと意味がないだろう」


「了解。じゃ、見てるね」 



オルターネンはサリドンとホープと打ち合わせる。


「俺たちには敵を止める魔法はない。俺の土魔法も効果が薄い。従って一人一匹を担当する」  


「同時にですか?」


「そうだ。ホープ、マーギンはヒントをくれていただろ?」


「ヒントですか?星の導き達がやった戦法ですか?」


「違う。バネッサと同じことがお前に出来るか?」


「正直難しいですね。何度か練習をすれば可能かもしれませんが」


「だろ?マーギンは解体の時にヒントをくれていたぞ。今の星の導き達の戦いもヒントだな」


「狙いは喉ですか?」


「そうだ。一番斬りやすい部位を狙う。バネッサがやってみせたのは角を上に上げさせ、喉を露出させる役割だ」


「それを一人でやるんですか?」 


「そうだ。マギュウは角を上に上げる前に地面に顎が付く。それが合図だ」


と、オルターネンはマギュウの習性をサリドンとホープに伝えた。


「タイミングを間違えたら死ぬからな。しっかり気合を入れろ」



そして、特務隊は3頭のマギュウに並んで突進して行った。


ドドドドドっ


マギュウも同じく3頭並んで特務隊に突っ込んで来た。


ザッ


マギュウの顎が地面に付いた瞬間、3人はバックステップをする。自らの突進の勢いを殺す為にオルターネンは足場を出したのだ。


ブンッ


マギュウ達の角攻撃が空を切って空振りをした。喉ががら空きだ。


ぶしゃ

ずしゃ

スパッ


3者3様の斬撃が喉に決まり、見事にマギュウを倒したのだった。



「お見事っ!」


マーギンは特務隊らしい倒し方を見て手を叩いて褒めたのであった。


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