狩りの指導
先に頂上に着いたマーギンとオルターネン。
「なんだここは?」
オルターネンが下を見下ろしてマーギンに聞く。マーギンはここに来て昔を思い出していた。やっぱりここって…
ー過去の勇者パーティー
「こんな所に湖があるんだな」
魔国に入り、魔王との決戦が近い時に見付けた大きな湖。魔物が異常に多い平地を避けて、岩山を登って移動しようとした時に見付けた場所だ。それにしても岩山に囲まれた湖とは珍しい風景だ。
「随分と深そうだな」
切り立った岩山の足元から水深がありそうな感じがする。
「なんか魚いるかな?」
と、マーギンが湖を覗き込む。
「どうじゃろうな。いても魔魚じゃろ」
「ミスティ、ちょっと泳いでみろよ。なんかデカいのが居たら出てくんじゃね?」
「なぜ私が魔魚をおびき寄せる餌にならんといかんのじゃっ」
「小さいお前が適任じゃん。ガインが泳いだら逃げるだろうが」
「小さい小さいと言うなっ。貴様らがデカ過ぎるのじゃっ」
もうすぐ魔王との決戦が近いと分かっている勇者パーティーはいつもと変わらぬマーギンとミスティのやり取りに呆れつつも日常を取り戻したような感じがしたのだった。
ー現代ー
「マーギンっ 聞いているのかっ」
「えっ、ごめん、なに?」
「岩山に囲まれたこんな場所があるのか?」
眼下に広がるのは湖ではなく草原。所々に大きな木があり、その近くにアカゲマギュウが居る。恐らくここはアカゲマギュウにとっての楽園だな。
「驚きだね。俺もこんな光景は初めて見るよ」
オルターネンとそんな会話を交わしていると皆も到着した。
「わぁー、すっごーい。何ここーっ」
カタリーナが下に広がる草原を見て大きな声を上げる
「マーギン、ここはなんだ?」
カザフ達も帽子のつばのようにデコに手を当てて見渡している。
「珍しい光景だな。大昔はここが湖かなんかだったのかもしれんな」
マーギンはカザフ達に推測としてここは湖だったのかもしれないなと説明をした。
登るより降りる方が危険なので、階段のような足場を作りつつ下りていく。
「登る時も階段にしてくれたら良かったやん」
「特務隊の訓練を兼ねたんだよ。それにちい兄様の魔力量だと階段まで作れないからな」
「ふーん」
「お前には足場すら不要だったろ?」
「まぁ、そやね」
タイベでも岩場をひょいひょいと飛んで登っていったハンナリーはここも足場が無くても余裕だっただろう。
そして、一番下まで階段を作って下りると、上から見たイメージと違って、草の背丈は高く、下はぬかるんでいた。
「これ、まずいな。ローズ、カタリーナと一緒に階段の中腹あたりで待っててくれ。ハンナリーもそっちにいろ。シスコとトルクとアイリスとタジキも一緒に待機」
「えーっ」
「カタリーナ、えーっじゃない。お前らは草に埋もれるし、草に紛れてアカゲマギュウに突進されたらヤバイんだよ」
「どうしてカザフだけ連れて行くのー?」
トルクはカザフだけを連れて行くマーギンにちょっと不服げに言う。
「カザフも待機させてもいいんだけどな、お前ら全員待機させたらアカゲマギュウの経験をするものがいなくなるのがもったいない。トルクとシスコとアイリスはここに他の魔物が来た時の為の狙撃手として待機してもらう。タジキはカタリーナの盾だ。ローズは接近戦になった時の攻撃、アイリスは魔物が階段を上って来たら、スリップで落とせ」
「うちは?」
「お前は見てろ。もしなんかと争いになったらスロウかパラライズで応援だ」
待機組に役割を説明して、ロッカとバネッサ組、特務隊、マーギンとカザフでアカゲマギュウを狩りに向かった。
「草が邪魔だな。ちょっと焼くから後ろに回ってくれ」
皆を後ろに下がらせて、マーギンは道を作るように火炎放射で草を焼く。焼いたら消火して進むを繰り返して、大きな木の下近くにやって来た。ここまで来ると草の背丈も低くなる。日頃はこの辺の草も餌になっているのだろう。
「マギュウはボアと似たような攻撃をして来る。ただ突進して来るスピードとパワーは遥かに上だ。皮膚も硬いから綺麗に斬れないと剣にダメージを負うからな。サリドン、こいつには火魔法攻撃はなしだ。目的は肉だから火魔法を食らわせると、その部分が不味くなる」
「わかりました」
「で、どうする?」
「どうするとは?」
皆はマーギンが何をどうすると聞いて来たのが分からない。
「こいつにはパラライズが効くんだ。俺がパラライズを掛けたら簡単に倒せる」
「だから一人で狩りに行こうとしたのか?」
「普通は苦労するマギュウ討伐も俺にとっては野菜の収穫と変わらないんだよ。で、どうする?」
「無論、手出しは無用だ。我々だけで狩る」
と、ロッカが返事をしたので、この木の下にいるマギュウは任せる事にした。相手は3匹。なんとかなるだろ。
アカゲマギュウ
サイのような角を持つ牛型の魔物。その名前の通り赤く燃えるような毛並みの下に硬い皮膚を持つ。草食だが、怒らせると執拗に突進してきて、相手が息絶えるまで攻撃をやめない。一度攻撃を食らってしまうともう為す術が無くなるのだ。
「じゃ、ここは任せるぞ。突進を食らうと死ぬからな」
そう言い残したマーギンはカザフを連れて違う木の下へと走って行った。
「ホープ、お前囮役は出来るか?」
「俺が注意を引けばいいんですね」
「そうだ。出来れば3匹を分散させたい」
「なら、うちが1匹請け負ってやんよ。ホープ、下手こくなよな」
「うるさいっ。お前こそ跳ね飛ばされんなよな」
ホープが右、バネッサが左、真ん中はロッカとサリドンで対応する作戦だ。オルターネンは土魔法でマギュウを躓かせて突進を止める事に専念する。
「行くぜっ」
バネッサの突進を皮切りに、ホープとサリドンも飛び出した。
ブモッ?
飛び出して来たバネッサとホープに気が付いたマギュウは顔を上げて、敵と認識した。
「ブモーーーーッ」
大きく鳴き声を上げたマギュウはスクラムを組むように3頭横並びの体勢になり、突進して来た。
バネッサとホープは二手に別れてマギュウを散らそうとする。が、マギュウは二人には目もくれず、サリドンとロッカ目指して突進して来た。
「ちっ、こっちを向きやがれっ」
バネッサがマギュウに向かってクナイを投げる。
ゴインッ
鈍い音がしただけで、クナイを弾いたマギュウはそのままサリドンに突進。
「くそっ」
ホープは横からマギュウに斬り付ける。
ゴインッ
スピードの乗ったマギュウの身体は剣を全く受け付けない。
「サリドン右に避けろっ」
予定では一匹だけ突進して来たマギュウをギリギリで躱した所に土魔法で躓かせ、左右からロッカとサリドンが斬り付ける予定だったのだ。それが3頭並ばれるとギリギリでは躱せない。その為、サリドンを早めに避けさせたのだ。
サリドンが横に移動するとマギュウは3頭共一斉にサリドンの方へ向かって突進する。
「ちっ、サリドンをターゲットにしたか」
オルターネンはマギュウの足元に土の塊を出した。
ドカッ
それを弾き飛ばすマギュウ。
「なんてパワーしてやがんだっ。サリドン、こっちに来いっ」
このままではサリドン一人で対峙することになってしまう。今のオルターネンの言葉でロッカは何をするか理解した。
「バネッサ、こっちのやつのフォローを頼むっ」
「ロッカ、一人で殺れっ」
「なんだとっ」
「うちは真ん中の奴を殺るっ」
サリドンは皆の所に誘導、向かって左はロッカ、右はオルターネンとホープ。そしてバネッサはマギュウの後ろ側から追った。
サリドンは皆の所に走り込んで来る。ロッカとオルターネンはそれぞれ左右に飛び、マギュウに斬り付けた。
ゴっ…
傷を付けられ左右のマギュウは怒り狂ったかのように、それぞれがロッカとオルターネンの方を意識した。真ん中のマギュウはそのままサリドンを追う。そしてバネッサが一瞬マギュウのスピードが落ちた瞬間を狙って真ん中のマギュウに飛び乗った。
「ブモーーーーーっ」
飛び乗られた真ん中のマギュウはその場で暴れ牛になり、バネッサはロデオのような状態になる。
「こいつっ」
バネッサは跳ね飛ばされないように、身体強化をして、延髄に短剣を刺した。しかし致命傷に至らず、バネッサを跳ね飛ばそうとその場で暴れまくる。そこにサリドンとホープが援護に入った。
「バネッサ、落ちるなよっ」
バネッサはもう一本短剣を刺し、2本の短剣を手綱のように持って暴れマギュウにしがみつく。そのマギュウにホープとサリドンが何度も何度も斬り付けたのであった。
ロッカはマギュウと睨み合う。
「どうした掛かって来ないのか?」
ロッカも全身を強化してマギュウに対抗しているのが相手にも伝わっているのだろう。ザシュザシュッと後ろ足で土を蹴り、突進するタイミングを伺っていた。
オルターネンは闘牛士のようにマギュウをひらりひらりと躱しては斬り付けていっていた。炎のような赤さのマギュウから血が出てドス黒い赤色に変わっている。
(パターンは読めた。後はどこまで耐久性が高いかだな)
オルターネンはマギュウの特性を掴む事に専念するよう戦っていたのであった。
ーマーギンとカザフー
「カザフ、マギュウは固まって突進して来るんだ。だからギリギリで横に避けるのは難しい」
「じゃあどうすんだ?」
「上に飛んで背中に乗るって手もあるんだがな。飛び乗るとめちゃくちゃ暴れて振り落とされる。それと全身が硬いから剣で攻撃して倒すのには時間が掛かる」
「腹を斬るのか?」
「腹も結構硬いのと、脂肪が厚くて短剣で一撃で倒すのは無理だ。唯一簡単に斬れるのが喉なんだよ」
「喉?」
「そう。しかし突進してくる時は角を前に出す為に頭を下に下げる。そうすると喉は隠れるから攻撃出来ない。さてどうする?」
マーギンはカザフに考えさせる。
「頭を上に上げさせるっ」
「正解。じゃ、3頭並んでこっちに突進させる。カザフは俺の後ろに隠れてろ。左右のマギュウをパラライズで動けなくした後に、真ん中のヤツの頭を上に上げさせるから、お前が短剣で喉を斬れ。斬ったら、傷が浅かろうが、致命傷を負わせようが素早くその場から離脱。空振りして失敗しても離脱だ。わかったか?」
「分かった」
マーギンはマギュウに石を投げてこちらを敵と認識させる。
ブモーーーーっ
オルターネン達の時と同じようにマギュウが3頭並んで突進して来た。
マーギンはカザフを後ろに隠し、マギュウが近くまで来るのを待つ。
「パラライズ」
ドザザザザッ
パラライズを食らった左右のマギュウが痺れて倒れるが、真ん中のマギュウは構わずして来た。
「よっ」
マーギンは攻撃態勢に入ったマギュウの角の上に飛び乗った。
「ブモーっ」
マーギンを跳ね上げるマギュウ。マーギンはそのままポンっと逆らわずに跳ね飛ばされた。その体勢はマギュウが上を向いた事になる。
マーギンの影に隠れていたカザフが上を向いたマギュウの喉を下から飛んで身体ごと回転させてスパッと斬ってその場を離脱する。
ブッシャーーーっ
マギュウの喉から吹き出る大量の血。そして、そのまま動けなくなり、ドスンと大きな音を立てて倒れた。
「おっ、腕を上げたな。見事だったぞ」
「やったぜっ!」
「じゃあ、残り2匹で練習するか」
「俺の本当の役目はマーギンがやったやつなんだな?」
「そう。ボアとかもそうなんだけどな、この手の魔物は似たような攻撃をしてくる。弱点もほぼ同じだ。角の攻撃も自分からタイミングを合わせて飛べばダメージを負わない。今やった俺の役目をカザフがやって、タジキが喉を斬ればいい。トルクが矢か魔法で他の奴を同時に攻撃させないように邪魔をすればお前らだけで討伐出来るぞ」
「マジでっ?」
「カザフが今の役割を完璧にこなせるのが肝だ。残りの2頭で練習するぞ」
「やってやんぜっ」
バネッサのような返事をしたカザフはパラライズを解除されたマギュウ相手に何度も練習を繰り返していくのだった。
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