ワイン
翌日、北の街のハンター組合に行くことに。
「ロッカ、組合の場所知ってるか?」
「いや、知らん。シスコは分かるか?」
「知らないわよ」
誰も知らないようなので、お買い物ついでに場所を聞いて探しに行った。
ー北の街ハンター組合ー
「結構大きな組合なんだな」
「そうだな。王都の組合より大きいかもしれん」
ロッカとそんな話をしながら中へ入ると、酒場の方が広いんじゃないか?という組合。飯食ったり、こんな時間から酒を飲んだりしているやつもいる。
受付に行き、マッコイがいるか聞いてみることに。
「俺達は王都の組合に所属するものなんだが、組合長のマッコイはいるかな?」
「お名前は?」
「あぁ、ごめん。俺はマーギン。いるなら名前を伝えてくれたら分かると思う」
どうやらマッコイがいるようなので、呼んできてもらう事にした。
「おう、マーギン久しぶりだな。こんな所に来るとはどうした?」
「ちょっと訓練でね。えー、皆を紹介するよ」
と、マーギンは特務隊から紹介をしていった。
「おー、騎士様の魔物討伐隊か。話は聞いてるぜ。オルターネン様、自分はここの組合長をしているマッコイと申します」
「オルターネンだ」
二人が握手をしたあと、サリドンとホープとも握手をする。
「ローズ様もその節はお世話になり、ありがとうございました」
「私は避難誘導をしただけだ」
「いえ、騎士様達が来て下さったからこそスムーズに避難が進んだのです。住民に被害が出なかったのは騎士様のお陰なのです」
マッコイは丁寧にお礼を述べた。この辺がロドリゲスと違うところだな。
「で、用件はなんだった?」
「魔物討伐の訓練で、魔石採石場跡まで行ったんだけどな、雪熊以外にそこそこ強い魔物がいたから情報を共有しておこうと思って」
「何が出た?」
「キルディアとグロロ」
「キルディアは知ってる。グロロとはどんなやつだ?」
マッコイは魔物図鑑を持って来たので食堂兼酒場へ移動。飲みながら話をするらしい。
「まだ昼にもなってないぞ?」
「お前までそんな細かい事を言うな」
「組合の中で口うるさい人が居てんの?」
(嫁が組合の中に居てんだよ)
(え?)
(家でも職場でもずーっと見張られてるみたいなもんなんだよ)
(ここで飲んでたらまずいじゃん)
(お前のせいにするから問題ない)
酷ぇ、俺のせいにしやがんのか。
「じゃ、俺は飲まんぞ」
「うるせえっ。もう勝手に出て来るから飲め」
マッコイの息抜きは、こうして誰か来たときにここで飲むことらしい。外に出て飲むと戻ってからあれやこれや聞かれるのが面倒だそうな。
「で、グロロってのはどれだ?」
魔物図鑑を見てみるが掲載されていないので、マーギンが説明をしていく。
「ほう、クズリのデカいやつか」
「習性とかも似ているね。違うのは毒持ちだということだな」
グロロの毒は雪熊も倒せる事を説明する。
「随分とやべぇやつだな」
「縄張りから出てこないから、こっちから行かない限り大丈夫かな。それより、採石場跡に行く橋があるだろ?」
「あるぞ」
「キルディアとかあの橋を渡って来てたと思う。足跡があったからね」
「なんだとっ」
「魔狼とかもあの橋を使ってると思うぞ。冬になって川が凍ったらそこも通ると思うけどな」
「採石場跡はどうなってた?」
「上から見ただけだけど、多分魔物の巣窟になってる。坑道も掘ってたみたいだから、そこに色々溜まってると思うぞ。撤退する前に埋めとくべきだったな」
「ちっ、やっぱりか」
「誰もアドバイスしなかったのか?」
「あそこはまだ魔石が採れるんだ。魔狼の被害が増えて撤退したが、そのうちまた採掘するつもりだったみたいだ」
「なるほどね。でももう採掘するの無理だと思うぞ。なんかヤバイやつがあの山側のどこかにいる」
「何がいやがる?」
「俺もわかんないんだよね。まだ活動期に入ってないのか気配すら掴めない。ただ、橋を渡ったら急に気温が下がった。恐らく何かの魔物の影響じゃないかと思う。それが当たりなら、毎年大寒波になるんじゃないかな」
「マジかよ…」
「冬に魔狼が川を渡って来ないように、川沿いに柵とか作った方がいいかもな」
「お前、柵作れとか簡単に言うなよ。どれだけ距離があると思ってんだ」
「それをしないと毎年、前みたいな魔狼騒ぎになるぞ。全部が無理なら、誘導するように作るとか工夫しないとダメだな」
「それは領主の仕事だ。俺達はハンター組合だぞ」
「なら、領主に助言しといたら?ハンターが対応出来るなら別にいいけど」
「あの領主が理解すると思うか?悪い人じゃないけど、なんか浮世離れしてんだよ」
確かにそんな感じがしたな。
「報告はしたから頑張って。俺達はそろそろ帰るよ」
「もうちょっと飲んでけよ」
「買い物とかしたいんだよ」
「何を買うつもりだ?」
「前に北の領地のワインで旨いのを飲ませてもらったんだよね。だからワインとチーズかな」
「そうか、ならいい場所を教えてやろう」
「え?」
「しょーがねーなぁーっ。北の恩人に頼まれちゃぁよー」
マッコイは皆に聞こえるような大声でそう言って一緒に組合を出たのだった。やっぱりこいつもロドリゲスと同類だな。
「組合を抜けて来て大丈夫なのか?」
「たまには息抜きぐらいさせてくれてもいいだろ?」
と言いながら、ちょいと怪しげな道に入り、階段を下りて怪しげな店に入った。
「何ここ?」
「北の領都で一番ワインの品揃えがいい店だ」
マッコイの説明通り、ズラッとワインが並んでいるというか保管されている感じだ。店全体がワイン蔵のようになっている。奧には樽もある。
「なんだこの値段は?」
オルターネンがワインを手に取り値段を見て驚いている。
「高いの?」
「いや、信じられん程安い」
「え?」
「王都で買うよりはるかに安いぞ。本物なのかこれ?」
「お客さん、随分と失礼な事を言ってくれるじゃないか」
と、ヒゲを生やした親父が出て来た。
「こんな値段だと疑うだろうが」
「王都の値段は商人が勝手に付けた値段だ。その酒を知っているいうことは、あんた貴族かい?」
「まぁな」
「その値段が元々の値段さ。その年代のものは王都の価格の価値はあると思うがね」
「その年代?」
「そう。もうその魂がこもったワインは手に入らない。気に入ってるなら買っていきな」
「どういう意味だ?」
「そのワインを作ってた奴は自分のワインが王都で高値で売れるのを知ってね、生産者から商売人に成り下がったのさ」
「意味がわからんぞ?」
「職人から商売人になったってことさ。だからうちでは取り扱いをやめた。ここに置いてあるのは職人が魂を込めて作ったワインだけだ。好き嫌いはあるがどれも個性的で、作り手の想いが伝わる、そんなワインばかりさ」
へぇ、この店主面白いな。
「マッコイ、オススメはある?」
「お前の好みを知らんからな。ちなみに俺はこれが好きだ」
マッコイが手にしたワインは3千G程のワイン。この店のポピュラー価格だそうだ。
「渋い?」
「そうだな。どちらかというと重めのワインだ」
「あんまり重いのは好みじゃないんだよな」
マーギンがそう答えると店の人が、
「重いのは嫌いか?」
「重いのが嫌いというより、なんかザラッとしたような舌触りの悪いやつとかあるだろ?それと渋みが勝つみたいな感じもするし」
「若いワインは好きか?」
「飯と楽しむならそっちの方がいいね。酒だけを楽しむ時には物足りないけどね」
「ふむ、こいつを飲んでみるか?」
と、一本開けてくれる。
じょぼぼぼと高い所からグラスに注ぐ。
「抜栓してから少し置いた方がいいが、飲んでみろ」
と、グラスを渡されるとよい香りが鼻をくすぐる。
「うわ、めっちゃ旨い」
「ふむ、こいつを旨いと思うなら、重いワインがダメではないな。今まで飲んだワインがダメなんだ」
「これ、口当たりもすごく滑らかだね。さらっとしているのに、まったりしているというか」
「こいつを作っているやつはまだ若いやつだが、ワインに魂がこもっておる。将来が楽しみだな」
「これはいくら?」
「3千Gだ」
「なら、今開けてくれたのと合わせて10本貰おうかな」
「開けたのはサービスしてやる」
「いや、気に入ったからそれも払う」
そういうと店の人がふっと笑って違うのを持って来た。
「予算がまだあるならこれも買え」
「ラベルなしのワイン?」
「そこそこ昔のワインだからな。10万Gだ。どうする?」
「じゃあ、買う」
「親父、それってあのワインなんじゃ…」
あのワイン?
「そうじゃ」
「はーーーっ?あれを売るのかよっ」
「なになになに?売り物じゃないのこれ?」
「マーギン、そいつはこの親父の爺さんが作ったワインだ。もうほとんど残ってねぇワインなんだぞっ」
「えっ?そんな貴重なワインなの?そんなの悪いよ」
「いや構わん。もうすぐ飲み頃が終わる。後生大事に置いておいてもダメになるだけだからな。良かったら買って行ってくれ」
「いいの?正規のお金もちゃんと払うよ」
「10万Gってのは爺さんが付けた値段だからな。そのままでいい」
「本当にいいの?」
「あぁ、北の領地を救ってくれた勇者に買ってもらいたいんだ」
「え?」
「お前さんだろ?雪熊と白蛇を討伐した黒髪の勇者は。マッコイが連れて来たんだ。そこらのやつじゃあるまい」
「俺は勇者じゃないよ。あの討伐は皆の力のお陰だし」
[勇者と呼ばれたら即座に否定せんかっ]
ミスティの教えから反射的に違うと言うマーギン。
「あの状況で住民も家畜も何も被害が出なかったんだ。その立役者がお前さんなんだ。村の奴らも皆本当に感謝していたぞ」
「知り合いでもいるの?」
「生産者は生産者同士の繋がりがあるからな。色々と話は入ってくるもんだ」
なるほどな。広い土地だけど繋がりは色々とあるんだな。
その後、オルターネン達も色々な種類のワインを買い、マーギンは樽でも売ってくれると聞いて、何種類か樽でも購入したのだった。
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