バネッサにちょっと話す

夜通し掛けて橋の所まで移動した。もうすぐ夜明けだ。


そして橋を渡ると気温が元に戻った。やはりこの川の向こう側にはなんかあるというか、何かがいるのだろう。冬場に来てみたら何が原因か分かるかもしれないな。


「腹も減ったし、眠ぃな」


バネッサが口火を切ると皆もウンウンと頷くので、テントを出して飯にすることに。


朝飯か晩飯か分からないものを食べて仮眠を取る。


マーギンは寝ずに橋の上に戻り川を眺めていた。


「なんかいやがんのか?」


「なんだよ?寝ないのかバネッサ」


「飯食ったら目が覚めちまったんだよ。お前、ここに来てから皆とあまり飯食ってねぇけどなにやってんだ?」


「なんか異常がないか見てるんだよ」


「で、なんか見付けたのか?」


「いや、特別な異常はないな。この川の向こう側はまずいかもしれんがな」


「グロロだっけ?あんなヤバイ奴が前からいたのかよ?初めて見たぞ」


「どうだろうな?クズリもそうだがあの手の奴は縄張り意識が強い。だから自分の縄張りから外に出る事がないんだよ。雪熊も縄張り意識はあるが、餌を求めて縄張りの外にも出る。前に北の領地に来たやつはどこかで人間を食って、美味かったから探しに来たんだろうな」


「グロロも人を食ったら餌を探しに人里まで探しに来やがんのか?」


「いや、グロロは自分から縄張りの外に出る事はない。自分よりはるかに強いやつに追われたらわからんけどな」


「まだ強いやつが出るんだな?」


「多分な。それが何かはわからんが、何かいるのは確かだな。川の向こうは気温が急に下がっただろ?その何かが原因なんじゃないかと思ってる」


「気温を下げる魔物なんかいるのか?」 


「白蛇がいたろ?あいつも周りの気温を下げるんだよ。でもここまで影響を及ぼすほどじゃない」


「他に思い当たるやつはいねぇのかよ?」


「俺も寒い所は避けてたからな。どうしても気温が極端に下がるとこちらが不利なんだよ。それにそんな気温の下がる所に人が住んでなかったから倒しに行く必要もなかったしな」


「お前さぁ、前に魔物討伐する日々って言ってたけど、何をやってたんだ?強ぇ魔物に詳し過ぎんだろ」


「そうだな… 俺がやってたのは今の特務隊みたいなもんだ。俺が居た国の軍隊は他国に対する軍隊じゃなくて、魔物を討伐する為のものでな、初めはそこで鍛えられた。その後は魔法の師匠と一緒に討伐の日々だな。魔物の事を調べて報告、それと魔道具の開発とかだ。今とやってる事はあまり変わらんな」


「強い魔物だらけの国からお前がいなくなって、その国は問題ねぇのかよ?」


「どうだろうな。俺以外にも強い魔物を倒せる人がいたし、俺はお前みたいにしょっちゅう問題を起こしてたからな。邪魔だったんじゃないか」


「邪魔?」


「そう。俺はそこから追い出されたんだよ。俺がいないより、いる方が問題だったんだろうな」


「何をやらかしたんだよ?」


「国というか貴族制度への批判かな?」


「は?そんな事で追い出されんのかよ」


「それはしょっちゅう師匠に怒られてたからあまり口にしないようにしてたんだけどな、自分で国を作りたいと言ってたのがバレてたのかもな」


「は?自分で国を作る?なんのためにだ?」


「魔法書店の近くに貧民街があるだろ?」


「あぁ」


「俺がいた所はそれがもっと酷くてな。魔物も多かったから孤児になるやつも多い。畑も家畜も魔物に荒らされるから地方に行くと貧しい暮らしをしている人が多かったんだ。そういう人達全員を救える程国も豊かじゃない。でも貴族は裕福な暮らしをして、安全な街に住んで偉そうにしている。それにムカついてたのかもしれんな」


「それはこの国でも変わんねぇだろ。うちも小さい頃に食うもんなくても国からなんかしてもらった事ねぇぞ」


「それはそうかもしれんが、この国は随分とマシだ。犯罪も少ないし、街中でいきなり不敬罪とかで斬られることもないだろ?」


「お前が居た国の貴族はそんな事をしやがるのか?」


「しょっちゅうじゃないけどな。食うもんに困ってかっぱらいをした相手が貴族だったとかそんな時だ」


「それでも斬るとか酷ぇな」


「この国も魔物の脅威に晒され続けたら似たような国になるかもしれんぞ」


「えっ?」 


「魔物が増えると農作物、家畜が減る。死ぬ人も増えるし、怪我で働けなくなる人も増える。そうなると食料が減り、税金も減り、飢える人が出て来て犯罪が増えるという悪循環になるからな。それに石壁で囲まれた安全な街には人が増えるだろ。そうすると食料も不足してくるから物が高くなる。働き口も少なくなるから争いも増えて来るんだ」


「魔物に直接やられなくてもそんな事になるのかよ…」


「この国の王様と王妃様は平和主義だからすぐにそこまで酷くならないとは思うけどな。次の代、次の次の代とか世代が変わっていく内に国の考え方も変わって行くこともある。この先はどうなるかわからんよ」


「先の話か…」


「そう。で、俺はその国でまともに暮らせない人を集めて国を作りたかったんだよ。身分とか関係なく、やりたい仕事をやれる国をな。それに最新の魔道具と魔法が発達した便利で豊かな国だな」


「マーギンが王になるのか?」


「王は皆がやって欲しいと思える人がやればいい。俺は面倒だからやりたくないぞ」


「なんだよそれ?」


「当たり前だろ?面倒事は人にやってもらうのが一番なんだよ」


「勝手なやつだなお前」


「だから追い出されたんだろうな」


マーギンはそうバネッサに笑って答えたのだった。



昼過ぎに移動を始めて、来た道ではなく、旧街道と思われる道を通って北の領都を目指すと来る時より随分と早く領都に辿り着けたのだった。


領都の良い宿に宿泊をする事になり、飯もレストランで食べる。


「マーギンっ、チーズ料理があるぜっ」


「何でも好きな物を頼め。その代わり残すなよ」


「俺達が食いもん残すかよっ」


カザフ達が頼んだのはチーズフォンデュ。北の領地はチーズの種類も豊富だ。マーギンはチーズの盛り合わせとワインを頼んだ。


他の皆は肉系、魚系とテーブルが山盛りだ。


「マーギンっ、じゃがいもをチーズに付けたら美味しいわよっ」


カタリーナもカザフ達のチーズフォンデュに参加。アイリスも参加しに来たので追加で頼む。


「なんや、海の魚の方が旨いな」


ハンナリーが頼んだ魚は黒っぽい鯛みたいな形をした魚の塩焼き。


「なんの魚だろうな?」


「それはドラムですよ」


と、店の人が料理を持って来てくれた時に教えてくれる。


「ドラ厶?」


「水中でドコドコと音を出すんですよ。やや臭みがあるので、塩焼きより香草を使った料理の方がいいんですけどね。そちらのお嬢さんが塩焼きを希望されましたので」


ハンナリーはメニューに載ってない塩焼きでと頼んだのが失敗だったようだ。


「不味いわけとちゃうから別にええけど」


と言いつつちょっと不満げなハンナリー。


「あっ そやっ」


ハンナリーは魚をフォークに刺してチーズの鍋にどっぷん。


「うははは。こうやったらめっちゃ旨いわ」


幸せそうで何よりだ。


「マーギン、このハンバーグにチーズを掛けてっ」


カタリーナがチーズのせハンバーグを所望して来たので、自分の頼んだチーズをのせて火魔法で炙ってやる。


「うーん、美味しぃーっ。でもマーギンの作ったハンバーグの方が好き」


「私もマーギンさんのハンバーグが食べたいですっ」


アイリスも参戦。すでに自分のハンバーグは食べ終えていたようで、チーズのせにしてもらえなかった事を悔やんでいた。いや、お前らチーズフォンデュも食ってるよね?


「店のハンバーグとマーギンのハンバーグって何が違うんだろうな?」


タジキが同じような材料なのに不思議がる。


「食べ慣れってものもあるからな。慣れたものの方が旨く感じたりするもんだ」


「そうなのか?」


「そ、そんなもんだ」


おふくろの味がそうだろ?と言いかけたマーギンは慌てて誤魔化した。タジキ達はおふくろの味を知らないからな。



そして、あれほどテーブルに載っていた料理を食べ尽くしたカザフ達とカタリーナ、アイリスは口からチーズが出そうになっていたのであった。



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