橋を渡ると別世界

翌日からも、ポチポチと魔狼が出て来たのを討伐しがてら橋を目指す。道が道と思えないぐらい荒れているので進むのに時間が掛かったのだ。


そして、ようやく橋を発見。


「随分と立派な橋なんだな。シスコ、この橋はもう使われていないみたいだが、何のための橋だったんだ?向こう側に村とかあるのか?」


「確か、魔石の採掘場があったはずよ。もうその採掘場では魔石が採れないみたいだけど」


なるほど。魔石を積んだ大型の荷車が通っても大丈夫なように作られているのか。


「向こう側にもう用事がないのならこの橋は落とした方がいいだろうな」


「どうして?」 


「多分、この橋の向こう側は魔物がかなり増えてるんだろ。その魔物がこの橋を使ってこっちに来てるんだと思うぞ。足跡がいくつも残ってるだろ」


「本当ね」


「キルディアもこの橋を渡ったんだろうな。この大きい足跡はキルディアのものだ。まだ比較的新しい足跡だから、キルディアがこっち側に来たのも最近だな」


マーギンは足跡の向きとかを皆に説明して、山側からこっちに向かってるものばかりだと言った。


「この大きいのがキルディアなのか?」


オルターネンも足跡を覚えるように見ている。


「多分な。ヘラジカの可能性も否定出来ないけど、ここに来るまで見かけなかったしな」


「橋をどうするかは領主に伝えないとダメね」


シスコの言う通り勝手に橋を壊してしまうわけにはいかない。それに…


「この川は冬に凍結するよな?」


「多分ね」


「なら、橋を落としても冬場には無意味だな。凍った川を渡って来るだろ。領主に伝えるの面倒だから、帰りに北の街の組合に寄ってそこに伝えておこう」


「そうね」


「あっ、マーギン!私、大きな蛇の剥製を見たかったの。それなら戻る時に領主の所に行きましょっ」


「お前が俺達と同行して顔を出したら、色々とバレる。見に行きたいなら、後日、ちゃんと姫として行け」


「えーっ」


「なら、帰りに寄ってもいいけど、その後お前が城に戻る事になってもしらんぞ」


そう言うとカタリーナはそれはダメっと言って諦めたようだ。蛇の剥製なんか見てどうするつもりだ?



そして橋を渡ると、一気に気温が下がった気がする。


「マーギン、なんや急に寒うなってきたな」


「やっぱりそうだよな」


ハンナリーも気温が下がったと言うから気のせいではないようだ。それに橋を渡っただけなのに魔物の気配が増えた。この感じだと雪熊がいるのも間違いないな。


「ローズ、カタリーナを連れて俺の近くに居てくれ」


「何か来るのか?」


「まだ来ない。が、来る時は数が多い。特務隊と星の導きがこっちを気にせず戦える状況を作っておかないとまずい。カザフは特務隊、トルクは星の導き、タジキはここに来い」


「マーギン、ヤバそうか?橋を渡ってから雰囲気が変わったのは分かるが、魔物の気配はまだせんぞ」


と、オルターネンが警戒態勢を取ったマーギンに聞いてくる。


「まだ遠いけど、魔狼があちこちに散らばっている。群れ単体で来るなら今までみたいにやってくれれば問題ないけど、集まられたら面倒な戦いになる。それにこっち側に留まってるやつはいつもの魔狼より強いかもしれん」


おそらく魔物にとって、橋を渡ったこっち側の方が居心地が良いのかもしれない。弱いやつから居心地の良い場所を追われるからな。居心地の良い場所にいるやつは強いやつなのだ。



「なぁ、マーギン、そんなに魔物がたくさんいるなら戻ろうやぁ」


カタカタ震えるハンナリー。


「そうだな… あまり奥まで入るのはお前とカタリーナを連れて行くには危ないかもな」


「私は平気よっ」


「お荷物が生意気言うな」


と、姫をお荷物扱いするマーギン。


「ちい兄様、ロッカ、もう少し先まで進むけど、ヤバそうなら引き返すつもりでいてくれ」


「雪熊はどうするのだ?」


「見付けられなくても、ヤバそうなら引き返す。想定していたよりまずそうだしな」


「キルディアみたいなのがうようよいやがんのかよ?」


とバネッサ。


「いや、見慣れた魔物が強くなっている可能性がある。例えば魔狼だな。タイベでクロワニの肉が瘴気を持ってだだろ?もしかしたらここの魔狼がそうなってるかもしれん。お前らも見知らぬ魔物だと警戒しながら戦うだろうけど、見知った魔物なら油断する時があるからな」


「そんなヘマするかよっ」


「全体が強くなってりゃ気を抜く事もないとは思うんだけどな、普通の魔狼の中に強いやつが混じってるとヘマしたりするんだよ」



ー過去のマーギンー


「ミスティ、チマチマやるよりデカい魔法でやりゃあいいじゃんかよ」


「馬鹿者っ。何度言ったら分かるんじゃ。こんな所で一掃するような魔法を使えば木々はなくなり、他の動物も巻き込んで生態系が変わってしまうやもしれんと前にも教えたじゃろうがっ。面倒でもチマチマ一匹ずつやれっ」


「ちぇっ、面倒臭ぇ」


ミスティと二人で魔物討伐を始めて慣れてきたマーギン。さほど強くはないが数の多い魔物を一匹ずつチマチマ討伐するのが面倒になってきていた。


ミスティがデバフを掛けてスピードを落とし、マーギンが土の弾で撃ち抜いて殺す。この毎日を繰り返した。


そして、今日はサル型の魔物、ピコスの討伐だ。ピコスは木の上を素早く飛び回り、爪や牙の攻撃以外にも石を投げて来る。動物のサルでもそこそこ厄介なのに、魔物のピコスは人をハメるような事もやってくるので面倒なのだ。


「ちっ、結構なスピードで石を投げてきやがんな」


何度も討伐していたピコス。数も多く動きも素早いので、ミスティが全体にスロウを掛けてもそれから逃れるやつも出てくる。マーギンはスロウから逃れたやつを先に狙って撃ち落としてから、スピードの落ちたやつを撃ち殺していった。


「ミスティ、あんまり離れんな。危ないだろうが」


「貴様がこっちに来ればいいじゃろうがっ」 


「そっちに俺が行ったら囲まれるだろうが。さっさとこっちに来いよ」


お互いにお前が来いと言い合う二人。


その時に高い木の上からピコスが急降下でミスティの上から襲って来た。


ビスっ ビスっ ビスっ


マーギンはそいつを狙って撃つも空中でひらりひらりと身をよじって弾を避けるピコス。


「ミスティっ、横に飛べっ」


「フンッ」


ミスティが横っ飛びをしてゴロンゴロンと転がった。ミスティが居た場所にトスッと落ちて来たピコスに向けて弾を撃つ。


「キーーっ」


ピコスは悲鳴を上げて倒れた。


「ミスティ、だからこっちに来いって言っただろうが」


「貴様がさっさとこっちに来れば済んだ話じゃろ」


と、マーギンはミスティの側に行き、今倒したピコスを見た。


「あんな高いところからでも襲って来るんだな」


「そうじゃな。初めて見せた攻撃じゃ」


「これからはもっと上にも気を付けてなきゃダメだな」


と、マーギンが上を見上げた瞬間、


ザシュッ


「ぐっ、こいつっ」


倒したと思ったピコスがいきなりマーギン目掛けて爪を攻撃を放って来た。そしてそのままマーギンに足で張り付き、ザシュザシュと両手で爪攻撃を食らわせる。マーギンは顔を身体強化した両腕でガードするも削られていく。


「スロウっ」


ミスティが叫ぶ。


しかし、ピコスの動きは遅くならない。


「マーギンっ」


ミスティが駆け寄って来ようとする。


「近寄るなっ」


ミスティをこっちに来させないようにマーギンは叫び、


「エアキャノンっ」


ピコスに向かってエアキャノンを食らわせる。


ジャッーーっ


飛ばされまいとピコスがマーギンの腕に突き立てた爪がマーギンの腕を引き裂き、そのままエアキャノンで吹き飛ばされていく。


ぶっしゃぁぁと血が噴き出る腕を前に出したマーギン。


「食らえっ、ファイアストーム」


ゴウウウウウッ


マーギンが出した炎の竜巻に巻き込まれたピコスはそのまま灰になったのであった。


「マーギン、大丈夫かっ」


「痛ってぇぇぇっ、腕が千切れるっ」 


「いかん、これはまずいのじゃっ」


ミスティは転送魔法陣を出して、そこに痛がるマーギンを蹴り込んだ。


ミスティの研究室でオロロロー状態になっているマーギンを治癒したのは聖女ソフィアなのであった。


「ピコスにやられたんですって?無様ね」


治癒が終わったソフィアはそう吐き捨てて研究室から出て行ったのであった。




ー北の山ー


「バネッサ、前にも言ったけど、魔物は強くなると賢くもなる」


「単発で強くなったやつがいるなら、そいつが群れのリーダーになるんじゃねーのか?見分けぐらい付くだろ」


「俺の知ってる魔狼はもっと狡猾だ。リーダーになってるとは限らんぞ」


「どういうことだよ?」


「魔物同士でも戦うと、魔狼より強い魔物はリーダーを狙う。それをそいつが知っていたらリーダーにならない可能性がある。だから強い=リーダーとは限らん。そういうステージに入ったと理解してくれ」


と、マーギンは真面目な顔でバネッサに説明するのであった。

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