訓練の成果が出始める
翌日も橋を目指して移動する。
「なぁ、マーギン。もうあの怖いの出て来うへんな」
ハンナリーはびくびくしている。
「そんなにたくさんいる魔物じゃないからな」
マーギンはハンナリーとペアになって歩いている。先頭は特務隊とカザフ達、次にマーギンとハンナリー、次はローズとカタリーナ、最後尾は星の導きだ。
しばらく歩くと、カザフが振り返ってマーギンに尋ねてくる。
「この辺りは生き物が少ないのか?」
「どうだろうな。リスとかはいるぞ」
「リス?」
「木の上で大きな尻尾を持ったネズミみたいなやつだ。チョロチョロしてるだろ」
「どこだ?」
小型の動物は気配も薄いし、注意深く見てないと気付かない。リスの存在を知らないカザフ達が気付かないのも無理はない。
「木の上をよーく見てりゃそのうち気付く。狩れたら食ってみるといいぞ」
「旨いのか?」
「それは食ってからのお楽しみだな」
と、マーギンが教えるとカザフ達はリスを一生懸命に探し始める。
「お前ら3人共同じ行動をするな。リスを探すのもいいけど、周りにも気を配れ。3人で役割を決めて、リスを探す者、前を警戒する者、周りの気配を探る者に別れろ。他の皆がいないと思って行動しないと危ないぞ」
マーギンがそう言うと、カザフ達は話し合いをして、カザフが前を警戒、トルクが周りの気配を探し、タジキがリスを探すようにしたようだ。マーギンは一番好奇心旺盛なカザフがリスを探す役目をするのかと思っていたが、タジキがその役目をゲット。タジキは狩ってきたものを料理する大将みたいになるのが目標だからだろうか。それともカザフが斥候としての意識を持ったかかな。いずれにしても良い役割分担だ。
「トルク、あそこにいたっ」
しばらくしてタジキがリスを発見。トルクに伝えて矢で狩ってもらうようだ。
ピシュ トスッ
しかし、トルクの弓の腕は見事だな。一発で仕留めやがった。
落ちたリスをカザフが周りを警戒しながら取りにいく。
「マーギン、これは何人分になる?」
「身はそんなにないから、お前ら3人だと足らんかもしれんな」
「ということは、3人で一匹として、全員で14人だから…」
カザフは指を折って数えるが、割り算を指でするのは難しいぞ。
「カザフ、5匹は必要だよー」
と、トルクが答えた。
「マーギン、これを食べるの?」
と、タジキが持ったリスを見てカタリーナが聞いてくる。
「カザフ達が全員分狩れたらな」
リス5匹狩れるかな?という感じでマーギンが答える。
「そいつって旨ぇのかよ?」
バネッサも参戦してきた。
「好き嫌いはあるだろうけどな。木の実を食ってる奴はだいたい旨いんだ。ボアとかも冬前にどんぐりをたくさん食ってる奴が旨いだろ?それと同じだ」
「へぇ、ならうちも狩ってやんよ。カザフ達だけじゃ全員分狩るの難しいだろ」
「バネッサが狩るのか?」
とカザフが聞いてくる。
「あったりめぇだろ。なんなら勝負すっか?」
「いいぜっ」
と、バネッサとカザフは行ってくると言って消えて行った。皆から離れるなと言いたいところだが、斥候役の二人だから好きにさせておこう。
マーギン達はバネッサ達が先に進んだ方向へと歩く。そしてしばらくすると、二人が走って戻ってきた。
「捕まえられたか?」
「それより変な奴がいやがった」
「倒したのか?」
「いや、皆にも見てもらおうと思って倒してない。もうすぐ来るっ」
とカザフが言うと、特務隊は抜剣し、警戒態勢を取る。ローズがカタリーナを連れて後ろに下がり、その前にロッカ達が構えた。
おっ、ローズの奴、ちゃんと動けてんじゃん。
「来るぞっ」
とバネッサか言うと、走って来たのは魔物ではなく動物。体長は1mほどだ。その大きさを見た特務隊から緊張が少し緩む。
「ハンナ、俺の後ろに下がれ」
「えっ、そんなに大きないやん」
「あいつは意外と強い。特務隊が討ち取れずにこっちに来るかもしれない」
マーギンがハンナリーを背中に隠すようにして庇った。こっちに来ているのはクズリだ。
サリドンがボヒュボヒュとファイアバレットを撃つがクズリには当たらない。ホープが斬り付けると、それを躱し飛び上がる。飛び上がった所をオルターネンが斬り付けて決まったかと思ったら、クズリは剣に齧り付いて剣を防いだ。
「くそっ、なんだこいつはっ」
オルターネンは剣を振ってクズリを下に落とすと、クズリはこっちに向かって猛ダッシュしてくる。マーギンは倒さずにクズリを蹴飛ばした。
どすうっ
ヒュー ガサッ
クズリは草むらの向こうへ飛んでいった。
「やったのか?」
と、オルターネンが聞いてくる。
「あいつはタフだ。あんな攻撃は屁でもない。それと攻撃的で執着心も強いからもう一度来るぞ」
マーギンが説明すると草むらからクズリが飛んで来た。
トルクがそれを矢で射る。トスッと刺さるがそのまま構わずに突進してきた。
「姫様っ、木の上にっ」
と、ローズが叫ぶ。
「登るなっ。こいつは木登りが得意だから狙われるぞっ」
「えっ?」
「ローズはカタリーナの前に立って構えろ。タジキ、ローズの援護に入れっ」
マーギンはハンナを常に後ろに隠しつつ、クズリを牽制する。今はここでめちゃくちゃに暴れ回っているのだ。本能的に弱そうなハンナリーを狙っているのかもしれん。
体高が低いクズリは剣で倒すには厄介だ。皆が倒そうとするがクズリはめちゃくちゃに暴れているのでなかなか仕留められない。
剣士達がクズリに逃げられないように取り囲んで、ファイアバレットか矢で攻撃し続けるのが一番良いけど、皆はどうするだろうか?
「スリップ!」
その時にアイリスがスリップを唱えると、クズリがゴロンゴロンと転がってカタリーナの方へ。
「どっせーーい」
タジキが盾で転がってきたクズリを皆の方へ跳ね返し、それをロッカが斬って討伐完了となった。
「みんな悪ぃ。こんなに強ぇとは思ってなくてよ」
皆に見せようと思ってここまで誘き寄せた事を謝るバネッサ。
「マーギン、こいつはなんだ?」
「クズリ。こんな体格だがかなり強いのは今ので理解しただろ?これは魔物ではなくて動物だけど、タフだし凶暴だ。見た目だけで侮ると今みたいに苦戦する。バネッサ、こいつは地面にいたか?それとも木の上か?」
「木の上だ」
「こいつが木の上に登る時は何をしていると思う?」
「餌でも探してんのか?」
「そう、それも自分より大きな獲物を狙う時だ。警戒しとけ、なんかデカいのがいる証拠だ」
「木の上に何かいんのか?」
「いや、こいつは自分よりデカい獲物を狙う時は、木の上から飛び付いて攻撃するんだ。首の後ろに噛み付いて延髄を噛みちぎるような感じだな。背中に張り付かれたらまず振りほどけないからな。だから狙っていた獲物は地面にいる。他の動物の気配がないのはそのせいかもしれん」
マーギンは集中して気配を探る。
あー、これか。
「さ、先に進むぞ。みんな警戒しとけよ」
と、答えは言わずに先に進む。
「バネッサ、先頭に来てクズリという奴がいた場所を教えてくれ」
オルターネンがバネッサを呼び寄せ、クズリのいた場所を先に教えて貰うことで、警戒ポイントを絞っていくようだ。そしてその近くまで来た。
「あの木の上だ」
バネッサが示したのは獣道へと続く木。獲物の通り道なのかもしれん。
そしてバネッサの殺気が膨れると同時にオルターネンが抜剣した。ワンテンポ遅れてロッカ達も抜剣し、ローズは自分の後ろにカタリーナを隠した。マーギンがハンナリーにしていた動きだ。
「タジキ、さっきと同じようにローズの援護に入れ」
マーギンはタジキだけに指示をする。
「来るっ」
オルターネンがそう叫ぶと、グリズリーが茂みから飛び出した。
「がぁぁぁぁっ」
グリズリーもいきなり臨戦態勢だ。低い姿勢から飛び出して来た後に立ち上がって、オルターネンに両手を激しく振る。
「速いっ」
バックステップで爪の攻撃を躱したオルターネンにグリズリーは突進しながら右爪攻撃。攻撃を躱し、そのままグリズリーの右側に避けるとサリドンのファイアバレットがドドドっと顔に命中した。
「ぐわぁぁぁっ」
グリズリーは手で顔を押さえる。その隙を狙ってホープが腹に剣を刺してぐりっと剣を捻った。
「ぐぁ…」
動きの止まったグリズリーにオルターネンが斬り付けて勝負あり。
ズズンッ
グリズリーは前に突っ伏すようにして倒れたのだった。
うむ、よい連携だった。マーギンは今の戦いをみてうむうむと頷く。
ホープとサリドンが「今のどう?」みたいな感じでマーギンを見た。
「うん、合格」
マーギンがそう答えると、よっしゃとガッツポーズをする二人。今までやって来た事の成果が出てきてるようで何よりだ。
ー晩ごはんー
リスは結局3匹。皆で食べるには少ない。クズリもグリズリーも美味しくはないが
、一応食べてみるとタジキが言うので解体魔法で解体した。
「クズリもグリズリーも硬い肉で臭みがあるから、何度も茹で汁を捨てて煮込む方がいいけど、肉の味を知るには塩で焼いて食べておけ」
タジキはクズリとグリズリーを串肉にして食べてみる。
「硬ぇっ」
「味はどうだ?」
「マーギンが臭いって言ってたけど、そうでもねぇぞ」
ん?昔と味が違うのだろうか?
マーギンも一口もらってみる。
「まっず。やっぱり臭くて硬いだろうが」
「そりゃ、牛とか豚と比べたらそうかもしんねぇけどさぁ」
カザフ達はネズミとか食ってたからな。この手の肉も問題ないのかもしれない。
「でも硬ぇよな」
「ゆっくり長時間煮込むと硬い肉も柔らかくなるからな。肉はマジックバッグに入れとけ。王都に戻ってから調理すればいいだろ?」
「わかった。そうする。今度はリスを食おうぜ」
訓練でも楽しめるカザフ達。こういう事も楽しめるなら、正ハンターになっても楽しく成長出来るかもしれんな。
マーギンはカザフ達を見て少し顔が緩んだのだった。
そして、リスはチタタプって肉団子にするといいぞと伝え、味噌リス鍋にするタジキ。日が暮れてくると少し肌寒いような感じなので生姜も入れるように言っておいた。
「旨えっ。マーギン、リスって旨ぇぞ」
味見をしたタジキが絶賛する。
「だろ?俺は食った事があるから皆に分けてやれ」
少しずつになってしまうが、カザフ達は皆に味噌リス鍋を振る舞うのであった。
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