訓練だからな

「じゃ、出発するぞ」


星の導き達、カザフ達、マーギンとハンナリー、ローズ、カタリーナは荷物がない。特務隊はホープとサリドンが大きな荷物を背負っていた。


「ちい兄様、そっちの荷物も持とうか?」


「いつもマーギンがいるとは限らんからな」


うん、ちい兄様は荷物持ってないからね。


「帰ったらマジックバッグ手配しようか?これから必要になるでしょ」


「特務隊もそこまで予算出んぞ」


「別にいいよ。俺からのプレゼントってことで」


いや、しかし、というオルターネン。ハンナリーとかラッキーぐらいの感じだったのにね。


「マーギン、マジックバッグってそんなに高いの?」


と、カタリーナが聞いてくる。


「まぁ、そうみたいだね。フェアリーは持ってるのか?」


もう外に出てるので、カタリーナ呼びをしないように気を付ける。


「持ってないわよ。だから荷物を持ってもらったんじゃない」


ローズと2人分でかなりの量があったからな。


「でもちい兄様達も必要なんだよね?」


カタリーナにちい兄様呼びされてあわあわするオルターネン。


「ならお父様にお願いしておくわよ。仕事に必要なものも買えないなんておかしいって」


「姫様、それはお止め下さい。陛下のお手を煩わせるようなことではありませんので」


「そうなの?なら、お母様にお願いしておくわ」


やめろ。と、マーギンは心の中で叫ぶ。


いや、手遅れだな。もう隠密が事前に報告するだろう。



北の領地までは馬車を使う事にする。走っても良かったのだが、本番は雪熊探しだからそれまで皆の体力を温存しておくほうがいい。


馬車が昼ご飯頃に道中の村に寄る。ここで1時間程休憩するようだ。


マーギンは作りおきのホットドッグをモグモグする。他の皆は干し肉と硬そうなパンだ。その中でタジキはマーギンから魔道コンロを借りてスープを作っていた。


「飲みたい人いる?」


マーギン以外全員希望。タジキもそのつもりで多めに作っていた。


「マーギンはいらないのか?」


「あぁ、今回は俺の事は気にするな。飯の時はいないぐらいのつもりでいてくれたらいい」


「ふーん」


タジキはマーギンにも食べて欲しかったようだが、マーギンはこれからも自分の分はいらないと言った。


そして日暮れと同時に北の街に到着。


「どこに泊まるの?」


カタリーナは当然宿に泊まるものと思っているようだ。


「これから徒歩で先に移動する」


「えーっ、やっと着いたのに」


「カタリーナはここで待ってるか?」


「行くわよっ」


「シスコ、大きな湖があるんだよな?場所はわかるか?」


「えぇ。歩くとそこそこ遠いわよ」


徒歩2時間ぐらいらしいので、そこまで行き、今夜は湖の畔でキャンプをすることに。


馬車に1日中乗っていたので、お尻と腰にダメージはあるものの、足に疲れはないのでスムーズに湖の畔に着いた。


「今日はここで泊まるから。飯の前に設営するぞ」


星の導き達、特務隊、ローズとカタリーナ、マーギンとカザフ達のテントを設営開始。


「ハンナ、お前も自分のテントを建てろ」


「えー、ここで寝かせてくれたらええやん」


「はぁ、まったくお前は。ならお前のテントを俺に貸せ」


「えっ?一緒に寝ぇへんの?」


「狭いだろうが。カザフ達も日に日にデカくなって来てんだからな」


マーギンがそう言うとハンナリーは自分のテントをマーギンに渡した。


ローズとカタリーナのテントを囲むように皆のテントを設営して、晩ご飯の準備を開始。マーギンはそこに加わらなかった。そして皆で食べる時もマーギンは一緒に食べない。


「お前ら飯を食い終わったら今日着た服を湖で洗っとけ。寝る前に干しときゃ朝には乾いてるだろ」


「う、うん。わかった」


カザフはえっ?と思いながらそう答えた。いつもはマーギンが洗浄魔法を掛けてくれるので、洗濯とかする必要はなかったのだ。


そして就寝時、カザフ達の所にハンナリーが寝に行くがマーギンはいない。


「シーン…」


マーギンがいないとなんか会話が出てこない。


「やっ、やっぱりウチ、自分のテントで寝るわ」


なんか気まずくなったハンナリーはマーギンが建てた自分のテントに行くと、ここにもマーギンがいない。


「あれ?どこに行ったんやろ?」


夜の見張りは特務隊と星の導きで1日置きに交代することにしたようだ。特務隊は3交代、星の導きは4交代だ。


「ちい兄様、私も特務隊の順番に加わろう」


ローズが自分も夜の見張りをすると言ってきた。


「いや、お前は姫様の横にいろ。夜間の見張りは俺達に任せておけ」


「し、しかし」


「いいから言う通りにしろ」


そして見張りはオルターネンからすることに。


「なぁ、ちい兄様」


ハンナリーがテントから顔を出してオルターネンに話仕掛ける。


「どうした?」


「マーギンはどこに行ったん?カザフらのテントにもおらへんねんけど」


「マーギンの事は気にするな。あいつは魔物討伐の時以外いないものと思え」


「なんでなん?」



ー出発前ー


「ちい兄様、ちょっと話があるんだけど」


「なんだ?」


「この最後の訓練はカザフ達に俺がいない環境に慣れさせようと思ってるんだよ」


「カザフ達はお前がいなくても問題なかろう?」


「そう、問題はない。旅の心得とかはこの前のタイベ旅行で教えたからね。でもこの前のは旅行みたいなもんだったから、あまり苦労はさせてないんだ」


「苦労?」


「そう。初めて外の世界に出た楽しさを十分に味わって欲しかったからね。成人するまでそうやっていくつもりだったんだけど、アイツらは楽しさより強くなる方を選んだ。だから今回は巣立ちの準備ってやつだね」


「俺は何かすることはあるか?」


「んー、カザフ達に合同パーティみたいな扱いをしてくれたらいい。ロッカ達と同じような扱いね。俺は魔物討伐の時しか皆にも干渉しないから」


「わかった」


「ローズとカタリーナはどうしようね?ローズに魔物討伐をやらせて俺が護衛をする?」


「それはタイベの時に頼む。今回は俺達の訓練の仕上げだろ?」


「そうだね。わかった。ハンナリーはハンターではあるけど、商人希望だからいつも通りに甘やかせてもいいんだけど、それをすると皆もつられて甘えてくるから、魔物討伐の時以外は皆といないようにするよ」


「そうか。俺達はいいが、皆寂しがるんじゃないか?」


「これは旅行ではなくて訓練だからね。しょうがないよ」


「寂しいのはマーギンの方か?」


と、オルターネンに笑われる。


「夜間の見張りをちゃんとしてないと、ローズを拐うかもよ?」


と、シスコーンをからかい返す。


「お前に娶る覚悟が出来たのなら、そうしてやってくれ。それなら邪魔はせん」


と、真面目に返答されてごめんなさいをしたのだった。



ーキャンプ地ー


「なぜマーギンがいないのか気になるか?」


「当たり前やん」


「マーギンはこの訓練中、魔物討伐の時以外はいないものと思ってくれ」


「これが訓練やからか?」


「そうだ。前のタイベではお前も楽しかったのだろ?」


「うん。なんやかんやかまってくれてたし、ご飯も美味しかったし、うちをちゃんと守っててくれたし…」


「マーギンもお前だけなら今回もそうしてたかもな」


「うちだけやったら?ってどういう意味?」


「この中で、訓練対象じゃないのはハンナリーだけだ。お前をいつものように甘やかせると、他の奴らもそれに引っ張られるからな」


「そういうことかいな。なんやうちだけ仲間外れみたいやな」


「ならお前も魔物討伐に加わるか?お前のスロウだったか、あれの威力はかなりのものだ。魔物相手にも効くならぜひ頼みたいものだ」


「効く魔物と効かん魔物がおるみたいやで」


「なら、それも試せばいい。お前も魔物の知識を持っていた方が良いだろう」


「そやな。ほなら後方から支援する役目やったらやるわ」


「そうか。なら明日から頼む」



ー湖で泳ぐマーギンー


この湖はアリストリアにも続いていた湖なんだろうか?もしそうなら、ウルフトラウトがいるはずなんだけどな。


ウルフトラウトとは鋭い牙を持つ夜行性の大型淡水魚だ。


夜に水浴びをしていると襲われる事もあるから、ウルフトラウトがいるなら皆にも教えておかないと。こっそりと夜中に水浴びとかした時に襲われたらまずい。


暗視魔法を使いながらいそうな場所を探しても見当たらなかったので、水から上がって風魔法で乾かしたのであった。


テントの所に戻ると、見張りはホープに代わっていた。


「マーギン、どこに行ってたんだ?」


「水浴びしてきた。一応ヤバイのがいないか確認はしたけど、誰か夜に水浴びしようとしたら止めておいてくれ。俺が見た時にたまたまいなかっただけかもしれんからな」


「わかった」


マーギンがハンナリーのテントに入るとハンナが寝てやがる。俺のテントで寝るんじゃなかったのかよ?


カザフ達にはこのまま自分がいない方がいいかと思い、寝る場所を失ったマーギンはタオルケットを出し、蚊取り線香に火をつけて地面で寝たのであった。



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