これは黙っていたほうが良いな
マーギンはアイリスとバネッサの魔力値がなぜ増えたのかベッドに入って考える。
うーむ、二人の共通点は俺がよくおんぶしていたことだけなんだよな。それにしてもバネッサの魔力値の増え方は異常だ。年齢も20歳を過ぎているから成長のピークも過ぎているはず。今までの状況をよく思い出してみると、アイリスをよくおぶっていたのは冬から春にかけて。バネッサは冬もおぶってたがタイベでは薄着だった。それに加えて長時間おぶっていた。
マーギンはふと思い出す。前にアイリスの魔力回復が早くて自分の魔力を吸ってるんじゃなかろうな?と思ったことを。それが正解だとすれば、アイリスとバネッサは俺と密着することで魔力値が増えたことになる。もしかして魔力って
あっ… カザフ達の魔力値が高いのも俺と一緒に風呂に入っていたのが原因だとすると仮説の辻褄が合う。いつも一番長く俺の膝に乗ってたのがトルクだしな。
この仮説が正しいとすると、俺は人の魔力を増やせる事が出来るということだ。これがもし他の人にバレたら…
ほわんほわんほわん
「マーギン、私の魔力も増やしてもらえないだろうか」
「いや、あのその、魔力を増やすには肌を密着しないとダメみたいでね…」
「強くなるためなら構わない」
「そんな事をしなくてもローズは十分強くなってるって… ダメだって、服を脱いじゃっ」
「マーギンっ」
ガバっと抱きしめられるマーギン。むふふ、これは魔力を増やす為の訓練訓練。役得役得…
「本当にこれで魔力が増えるのだな?」
「えっ? そ、その声は…」
「さっさと魔力を増やせ」
「うわぁぁぁっ」
ローズと半裸で抱き合っていると思ったら相手はオルターネンだった。どうやらマーギンは考え事をしながらうとうと寝てしまったようだ。
「うん、この事は黙っていよう。バレたら今の夢が現実のものになってしまいそうだ」
マーギンはこれ以上深く考えるのを止めて寝ることにしたのであった。
翌日からの訓練はマーギンが魔物役になりつつも、各自にアドバイスをしながら避けたり殴ったり蹴ったりしていく。
「ちい兄様っ、足場を作るのが遅いっ。ホープの動きに付いてこれてないぞっ」
「クソっ」
ホープの切り返しの時に作る足場を出すのが遅れるオルターネン。魔法を使い慣れていないので発動に時間が掛かるのだ。
「サリドンも魔法を撃つのに躊躇するな。それにもっと走り回って、相手を撹乱しながら撃て」
マーギンはカザフ達とパーティを組み、特務隊と星の導きの合同パーティと戦っている。バネッサには身体強化を少しだけ使うように指示をして、身体が身体強化されていることに慣れさせていっている。ロッカとシスコはポイントポイントで身体強化をさせる訓練とプロテクションの訓練を兼ねている。
この組み合わせで訓練するのが良さそうだ。しかし、タジキは剣士よりやはりタンク向きだな。来週から違うメニューを組むか。
特務隊はマーギンから厳しくアドバイスをされ、星の導き達はカザフ達に負ける訳にはいかないと必死に訓練をしていった。
ー夜ー
「じゃ、始めようか」
ローズと夜間訓練が始まった。マーギンは暗殺者役の設定だ。
訓練内容は丸太を斬られたらローズの負け。丸太を斬られる度にローズの飯にピーマンが1個加わるというものだ。
「なんとしても丸太を斬らせる訳にはいかんっ」
そうそう。そうやって本気で頑張ってくれたまへ。
マーギンもちゃんとローズの訓練になるように瞬殺はしないでおく。先ずは短剣で闇に乗じて丸太を狙う。初めは気配を消さずに襲い掛かる。
「甘いっ」
カツンっ
ローズはそれを木剣で防ぐ。それを何度か繰り返しつつ、マーギンは気配を徐々に消して行く。
そしてほとんど気配がなくなった時に後ろに回り込み丸太を斬った。
「はい、ローズ任務失敗」
「くそーーーーっ」
「今日はここまでね。ピーマンはどうやって食べたい?生で食う?」
「イヤだーーーっ」
「食堂のオバちゃんに調理方法を任せる?それとも俺が今なんか作ってやろうか?」
「食堂だと焼くか炒めるかしかしてくれないからな。その…、苦くないように何かを作ってくれる方が嬉しい」
と言うので、ピーマンを細切りにしてナスと揚げて揚げ浸しにしてやる。俺も食おう。
「ローズも飲む?」
「マーギンは何を飲んでいるのだ?」
「焼酎の水割りだね。この料理と合うよ」
「ではもらおうかな」
ローズはピーマンとナスの揚げ浸しを酒で流し込むようだ。そして二人で揚げ浸しを食いながら焼酎の水割りを飲む。
「む… 苦くないぞ」
「ローズ用に苦くならないように作ったからね。俺にはちょっと物足りないけどな」
「これなら食べれなくない」
「食べ慣れて来ると美味しいと思えるようになるかもな。でも腑抜けた訓練をしたら輪切りにしてサラダで食わせるからな」
「なんて酷い事を言うのだ。腑抜けた訓練なんぞするわけがない」
「ホントかなぁ?ピーマンが嫌じゃなくなったら気が抜けそうな気がするけど?」
「そんなことはないっ」
こうして、夜間訓練を重ねる事により、ローズは初めて会った時と比べて、どんどんと素のローズとしてマーギンと接するようになっていくのであった。
ー翌週ー
「じゃ、今週は騎士隊の方々と模擬戦をやることになった」
「ほう、相手は誰だ?」
「あ、ちい兄様は出場無しね」
「なぜだっ」
「やっても意味がないから。出るのはホープとサリドン、カザフの3人」
「は?」
「カザフは第四、ホープとサリドンは第三、第二の隊長とやってもらう」
「隊長とやるだと?」
「そう。真剣の寸止めでなくて、木剣での実戦。向こうは鎧を着てくるだろうけど、こちらは無しね。勝敗は大隊長が決めるから、宣言があるまで勝手に勝ったとは思わないように」
勝手に勝ったと思うなというのはこの訓練で何度もマーギンに言われた言葉。勝ったと勘違いしたものから死ぬのだと。
「マーギン、そっちの準備は整ったか?」
「はい」
大隊長が3人の隊長を連れて来た。前の護衛訓練で見たことがある人だな。確か、順繰りに昇進したから、第二隊長が前の第三隊の隊長か。あの人が一番強いな。
「大隊長、対戦の順番は第四、三、二ですか?」
「それで良いならそうしよう」
今日は見学しにきた騎士も多い。大隊長が手の空いてる者を連れて来てくれたのだろう。
「じゃ、こちらはカザフから」
「何?」
「この訓練でどこまでやれるようになったか見たいのですよ。第四隊長の胸を貸してやって下さい」
「後は誰が出る?」
「ホープとサリドンですよ」
「オルターネンは出ないのか?」
「オルターネン様が出ても意味がないです。3人まとめて相手ならいいかもしれませんけど」
「ほう、ならホープとサリドンの結果を見て考えよう」
「勝敗は大隊長が決めて下さい」
「分かった」
第四隊長は子供と対戦させられると聞いて憤慨していた。ようやく第四隊とはいえ、隊長まで登りつめた自分が子供と戦わねばならんのかと。
それは第三、第二隊長も同じ。てっきりオルターネンと勝負をすると思ってここに来たのだ。
「大隊長、手加減しなくて良いのですね?」
「手加減出来るならしてやってもいいぞ」
第四隊長がそう聞くと大隊長は笑って返した。ホープとサリドンがどこまで成長したのか楽しみではあるが、カザフが試合でどれぐらいやるのか見てみたいと思ったのだった。
「マーギン、何をしてもいいんだよな?」
カザフが試合前に聞いてくる。
「構わんぞ。身体強化も使っていい。但し油断はするなよ。騎士は1対1の訓練に慣れている。他の攻撃に気を使わずに済む分、思い切りもいいし、スピードも速い。まぁ、胸を借りるつもりで頑張って来い」
「よっしゃぁぁっ、やっつけてやんぜっ」
カザフのやつ、こういう所もバネッサとよく似てんな。
そして、カザフ対第四隊長の試合が始まる。
「始めっ」
大隊長の開始の合図と共にカザフが低空飛行のように突っ込んで行く。第四隊長は相手が小柄ということも有り、初めからやや下段気味に構えていた。
「とりゃっ」
カザフは両手に持った木の短剣をヒュッヒュッと斬り上げて攻撃をする。
カッ カッ
第四隊長はそれを剣で弾いて躱す。
おー、思っていたよりやるじゃん。
カザフはまだトップスピードに乗っていないとはいえ、低空からのあの攻撃をよく体勢を崩さずに躱したな。
第四隊長は横に回ったカザフを足捌きだけで身体の向きを変え、正面になるように対峙する。うむ、こいつはかなりやるな。
カザフが横に跳ねたりダッシュをしたりと複雑な動きで第四隊長を攻めるが、冷静に躱されていく。
「お前、ガキのくせにかなりやるな」
「当たってねぇってのっ」
カザフは身体強化でスピードを上げていく。どうやら第四隊長も身体強化を自然と使えるようで、カザフのスピードに翻弄されない。
「くっ、コイツ強ぇ」
カザフは勝てると思っていたが、自分の攻撃が当たらないのだ。
「そろそろこちらから行くぞっ」
ここで第四隊長も足を使い出し、カザフの動きに付いて行く。
これを見た大隊長もほう、と感心している。
ガッ ゴッ
第四隊長の攻撃は体格差も有り、カザフがだんだんと受けきれなくなってくる。
ガスッ
カザフは短剣を弾き上げられて隙が出来た所に左肩に突きが決まった。
「ぐあっ」
そのまま突き飛ばされてゴロンゴロンと転がるカザフ。
「思っていたよりずっと強かったぞ」
第四隊長は今ので勝利だと思った。
後ろ向きに転がったカザフは最後に横回転して立ち上がり、ピッとゴムクナイを投げた。
「ぐふっ」
カザフの放ったゴムクナイは第四隊長の首にヒット。
「カハッ カハッ カハッ」
息が出来なくなった第四隊長はその場で喉を押さえて崩れ落ちる。そこへカザフが飛んで来て右手に持った短剣を身体ごと回転して斬りに行った。
「それまでっ」
二人の間に大隊長が割って入り、カザフを大きな身体で止めたのだった。
「勝者カザフ」
大隊長が宣言した後、マーギンは第四隊長の元に走り、喉を慌てて治療したのだった。
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