知らないことが出て来た
「俺は何を食らったのだ?」
倒れたオルターネンがすぐさま立ち上がり。自分がなんの攻撃を受けたのか確認してきた。
「トルクの放った矢がちい兄様の後頭部に当たったのですよ」
「後頭部に?」
「はい。トルクが矢の軌道を魔法で曲げてちい兄様の後頭部を狙ったのです。ここまで見事に曲げることが出来る者はほとんどいないでしょうけど、対魔物だと考えれば有効な訓練ですね」
「そうか、トルクはそんなことも出来るのか」
「ええ、相当優秀です。経験を積めばこの国の英雄になれるかもしれませんね」
「トルクだけでなく、カザフとタジキも優秀だ。この年齢でここまで動けるとはな」
「まぁ自分達で作戦を考えて、咄嗟の判断が出来るようにならないと才能も宝の持ち腐れです。これからの経験と更なる努力に期待ってところですね」
マーギンとオルターネンがそんな話をしてる時に、ローズが恨めしそうな顔をして見つめているのであった。
この日の訓練はこれで終了し、各自で反省会をしてもらうことにした。
「バネッサ、大丈夫か?」
マーギンはまだ復活出来ていないバネッサの所へ行く。
「うっせぇよ」
身体強化魔法を思いっきり使っていたので魔力切れだと思っていたが、バネッサの様子を見るとどうやら体力切れのようだ。確かこいつの魔力総量は人並みだったはず。体力が切れる前に魔力が切れそうなもんだけどな。と、マーギンは不思議に思った。それと、使い慣れない身体強化魔法を使った反動で身体にダメージが出ているかもしれない。
「バネッサ、ちょっと診るぞ」
「何をすんだよ?」
「おそらく、あちこちを痛めているはずだ。何日か寝てたら自然治癒すると思うが、お前だけ訓練に参加出来なくなるぞ」
「ちっ、だったら好きにしろよ」
本気の本気でマーギンに戦いを挑んだのに、かすりもしなかったバネッサは機嫌が悪かった。
マーギンはそんなことに気付くはずもなく、バネッサの足を開脚させる。
「バ、バッキャロー! 好きにしろとは言ったけどスケベな事をすんじゃねーっ」
「誰がスケベな事をしてるんだよっ。人聞きの悪いことを言うな。ほら、こうやったら痛いだろうが?」
動けなくなっている女性の足を広げたら勘違いされても仕方がない。
「いででででっ。もっと優しくやりやがれっ」
会話だけを聞いているともっと勘違いされそうな内容だ。
「筋肉だけでなく関節も痛めてんな。足だけかと思ってたが、これ全身痛めてるぞ」
「しらねぇよ」
はぁ、しょうがない。
「ロッカ、バネッサを治療するから部屋まで運んでくれ」
「今は忙しいのだ。いつものように自分でおぶって行けば良いだろっ」
ロッカもカザフ達相手に不覚を取ったので機嫌が悪い。反省会をしろと言ってあるのに特務隊と打ち合いを始めてやがる。マーギンは仕方がなく、バネッサを抱き上げて背中にくるんと回そうとする。
「いででででっ。ちょっとは気を遣えよ」
「うるさい。ならこのままお姫様抱っこで連れて行くからな」
バカ、恥ずかしいだろうがと騒ぐが、このままお姫様抱っこをして宿舎の部屋に連れて行った。
「本当にいやらしい気持ちで触ってんじゃねーだろうな」
バネッサは上半身下着姿でベッドにうつぶせで寝かせられているのだ。
「いやらしい気持ちで触ってるなら上向きに寝かせてるわ」
マーギンは首、背中、腰と痛めているであろう筋肉に治癒魔法を掛けていく。そして、肩、腕、肘と上半身が終わった。
「下半身はどうする?膝とふくらはぎはズボンの裾を捲ればいいけど、太ももとかはズボンを脱がないとダメだぞ」
マーギンは着替えているバネッサの方を見ずに聞く。
「もう動けるから、ズボンをはいたままだけでいい」
バネッサは上半身下着姿だったことだけでもかなり恥ずかしかったようだ。出会った頃は金のために脱ごうとしたくせに。
膝、ふくらはぎ、足首の治療を終えて、立たせてみるとやはり太ももと尻が痛くて無理となり、ズボンも脱がせて治癒することになったのだった。
治療が終わった後にバネッサに尋ねる。
「バネッサ、ちょっと鑑定してみていいか?」
「前にやっただろうが?うちの事を普通とか言いやがったくせに」
「そう。お前の魔力総量は普通なんだよ。だからもう一度確認したいことがあってな」
「なんでだよ?」
「あれだけ身体強化魔法を使っていたら、人並みの魔力値しかないお前は体力より先に魔力が切れてもおかしくないんだ。だからもしかしたら魔力が増えたんじゃないかと思ってな」
「じゃあ見てくれよ」
マーギンは一応ガラス玉を持ってきているので、それを出してバネッサの手を玉の上に置く。バネッサの手を取った時に前より手の平が硬くなっていることに気が付いた。こいつ、見てない所でさらに努力してたのか。
「なんだよ?」
「別に」
マーギンは気付かなかったふりをして、鑑定を行う。
んんんー?なんだこれは?
魔力値が700超えてるだと?それに敏捷性もA+ってなんだ?+表記なんて初めて見たぞ。能力値って変化するのだろうか?前に見た時の敏捷性はBだったよな?
マーギンはバネッサの鑑定結果を見て考え込む。
「なんか変なのかよ?」
「お前、背が伸びたか?」
「伸びてねえよっ」
だよな。
「お前なんかした?」
「なんかって何をだよ?」
「いや分からん」
「お前の分からん事がうちに分かるわけねぇだろうが」
「そうだよな…」
「な、なんか変なもんが見えたのかよ?」
「あぁ、変だ。俺にも原因が分からん」
「びょ、病気かなんかになってんのかよ」
深刻な表情をするマーギンにバネッサは慌てる。
「あぁ、これは胸が育ちすぎる病気だ。このままだと近い将来、胸を床に引きずる事になる」
「うっ、嘘だろ…」
バネッサは自分が胸をずるずる引きずって歩く姿を想像する。
「あぁ、嘘だ」
「てんめぇっっ」
こいつは相変わらず面白い。ずっとこのまま変わらずにいて欲しいものだ。
「病気は鑑定では見えない。見えたのはお前の能力だ。魔力値が相当増えてる」
「は?それも嘘じゃねーだろうな?」
「これは本当だ。もう少し増えたら魔法使いと呼べるぐらいになる」
「マジか?」
「あぁ。魔法適正はまんべんなくそこそこだから、ある程度のものはなんでも使えるようになるぞ」
「まんべんなくそこそことか言うなっ」
「そうか?まぁ、水出したり、着火魔法を使いたくなったらちゃんと買えよ」
「くれねえのかよ?」
「お前らはもう金持ちだろ?払うもんはちゃんと払え。なんなら身体で払ってくれてもいいぞ」
と、いやらしい手付きでワシャワシャ動かしたら、出てけっと部屋を追い出されたのだった。
「マーギンさん、バネッサさんの治癒は終わりました?」
「あぁ、もう元気だ」
部屋を出た所にアイリスとハンナリーがやって来た。ロッカに様子を見てきてくれと言われたらしい。
「他の皆はまだやってんのか?」
「はい」
「そうか。ならまた明日な」
と、マーギンは部屋に戻ろうとすると、ハンナリーが魚を食べたいと言い出した。そういや宿舎の飯に魚が出て来ないからな。
「何が食いたいんだ?」
「んー、魚に飢えてるからなんでもええわ。でも塩焼きとかがええな」
「ならトビウオの開きとか焼いてやろうか?」
「ええなぁ、それ晩御飯に食べよ」
ということで、屋上で魚を焼くことになった。希望者を募っておいてくれと言ったら全員来ることになるのだった。
ー夜の屋上ー
何も準備をしていないので、メニューはトビウオの開きとイカの一夜干し、ソーセージぐらいだ。まぁ、飯というより、酒のつまみに食うぐらいだからこれでもいいだろう。食べ足りなかったら焼きおにぎりでも焼けば良い。
「マーギン、私も訓練に参加出来ないだろうか」
ローズが飯もそこそこに自分も戦闘訓練をやりたいと言ってきた。
「ローズはカタリーナの護衛なんだから、魔物と戦う訓練は不要だろ?」
「わっ、私も自分の力を試したいのだっ」
「ローズの目標は騎士になって、要人警護に就くことだっただろ?今その目標が叶っている最中じゃないか。しかも姫様の護衛なんだぞ」
「そ、それはそうなのだが…」
まぁ、ローズの気持ちも分からなくもない。ここでの訓練は柔軟と受け身とピーマンに追い掛けられる事しかやってないからな。気配察知が出来るようになって来たけど、戦闘訓練で試せてないからな。
しかし、ローズを戦闘訓練に参加させるプログラムを考えてなかったので、今から何かを考えて追加する余裕もない。
「夜間で良かったら個別訓練をしようか?」
「いいのかっ」
「他に時間が取れないからね。カタリーナを王城に送った後からになるぞ」
「それでもいい」
「分かった。訓練所は夜間でも使えるのか?」
「それは許可を取っておくから大丈夫だ」
ということで明日の夜から訓練をすることになったのだった。
そして、飯を食べ終わった後に、全員を鑑定してみることに。
「みんないるからちょうどいい。再鑑定してみるわ」
「何か理由があるのか?」
オルターネンが理由を聞いてくる。
「魔力値は成長と共に増える事は分かってるんだけど、それ以外にも要因があるかもしれないなと思ってね」
マーギンは人の鑑定はミスティに怒られてから数えるほどしかしていない。結果、同じ人を何度も鑑定したこともないのだ。
特務隊から順番に鑑定していくが、伸びているだろうなと思うぐらいの変化だ。前に見た時にメモとかしていないのでザックリしか覚えていない。で、他の皆も似たような感じだったのだが、思わず吹き出したのがアイリスだ。
「お前なんかした?」
「何かって何をですか?」
バネッサと同じような会話になる。
「いや、何か特別な事をしてないならいいんだ」
今見たアイリスの魔力値は886。前に見た時は300ちょいだったはずだ。成長期だとしても倍以上に増えるか?いや、バネッサの増え方も尋常じゃなかったから、何か原因があるはずだ。
マーギンはミスティに教えてもらった事以外に何かあるのだろうなと考え込んでしまったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます