こっちの都合で訓練するからな
休み明けは念入りに柔軟と受け身を行う。
「さ、今日からは実戦訓練な。別に方法はなんでもいいから、俺に攻撃を当ててくれ。この週は俺からは攻撃をしないから、防御は考えなくていい。攻撃を当てる事に集中してやってくれ」
今週の目的は特務隊、星の導き、カザフ達が連携出来るかどうか試すものだ。恐らく10人パーティというより、3組のパーティがバラバラに動くだろう。こちらから攻撃をしなくても同士打ちさせるだけで対処出来るはずだ。
「私は参加出来ないのか?」
「ローズはカタリーナを守るのが任務だろ?とばっちりがいかないように守っててくれ。ハンナは木の上にでも登って見学してろ」
この訓練は強い魔物を連携して倒す為の訓練だからローズはやる必要がないのだ。
ローズを不参加にしたら、面白くなさそうな顔をするが目的を見失ってないだろうか?
「では始める。どっからでも掛かって来い」
訓練が始まると、一番初めに突っ込んで来るのがバネッサ。一瞬遅れてカザフ、その次はホープだ。思った通り、連携もクソもない。マーギンはスススッと動いてホープの方へ近付くように逃げる。そこへバネッサが突っ込んで来たので、サッと横っ飛びで逃げるとバネッサとホープが対峙するような形になる。
「ちっ」
バネッサはマーギンが避けた方向にパッと飛ぶと、後ろからはシスコの矢が飛んで来ている。
「うおっ」
矢は刃先を落としてあるとはいえ、ホープはトストストスと食らって倒れた。そしてカザフとバネッサが同時に攻撃態勢に入ることになってしまい、二人の意識がマーギンより、お互いにいってしまう。マーギンはその隙にフッと気配を消し、横から斬り込んできたロッカの後ろに回った事により、バネッサとカザフがロッカと対峙するような形になる。
タジキとトルクが追い掛けてきたので、マーギンはシスコの方へ移動。サリドンは誤射を恐れて火魔法を撃つことが出来ない。
オルターネンは様子を伺っているが、マーギンは攻撃して来るものを引き付けるように動き、シスコも近距離戦に巻き込む。こうしてシスコの矢もサリドンのファイアバレットも無効化するのだった。
マーギンは軽い威圧を出しながら、それぞれの剣の攻撃を躱す。攻撃するものも人がゴチャっと集まっているので、巻き込まないように思う存分剣を振ることが出来ない。
「ここだっ」
バネッサがスピードに乗って仕掛て来ると威圧を止めて気配を消し、誰かの後ろに回る。
こんな感じで常に誰かがマーギンの盾となるように動いて攻撃をさせないようにし続けるのであった。
昼休憩を挟んで午後も同じ事をするが、結局マーギンをまともに攻撃することは出来なかったのであった。
「はい、訓練終了。今日のままだと絶対に攻撃が当たらないからな。どうやるのが一番良いか皆で相談でもしてくれ」
皆は晩飯の時にあーだ、こーだとお互いの文句を言い合う日々が続く。そしてマーギンはその日から皆と一緒にご飯を食べなくなったのだった。
実戦的訓練を開始した初めの1週間は皆の連携が出来てないことを理解して貰うためのものだったが、翌週からはマーギンが攻撃を開始すると伝える。
「今週から攻撃をする。と言っても魔法も武器も使わんけどな」
そして、この週の訓練は酷い有り様だった。マーギンは遠慮なく殴る蹴るを全員にしたのだ。
斥候で突っ込んできたバネッサとカザフは蹴りでカウンターを食らい、ホープは足を掬うように蹴られて倒れた所にマーギンに持ち上げられ、オルターネンに投げつけられる。ロッカのみぞおちにパンチを食らわせて悶絶させた後にサリドン後ろから追い掛けて飛び蹴りを食らわせ、シスコを巻き添えにする。何も出来なかったトルクとタジキも殴り飛ばされて終了。アイリスも必死に逃げたが、あっけなく捕まり投げ飛ばされた。
「全然ダメだな。1週間何も進歩してないぞ。来週からは魔法も使うからな。付いて来ようが来まいが関係無しに訓練内容は先に進める」
倒れ込んだ皆を見下ろしてマーギンは冷たくそう言い放った。魔法無しでこの有り様なのだ。来週はもっと敵わなくなると皆は実感したのだった。
そして休みの日
オルターネンが中心となってまともな作戦会議を開く。
「バネッサ、今までと同じ作戦では全く通用しない。他に何かないのか?」
「オルターネン様はそう言うけどよぉ、必勝パターンが何も通用しねぇんだ。そっちがなんか援護してくれよ」
これまでバネッサはオルターネンにねこねこしていたが、上手く連携出来ずにマーギンにボロカスにやられ続けて不満が溜まっていた。
「お前の動きがこちらでは予測出来んのだ。援護のしようがないだろう。サリドンも誤射を恐れて何も出来ていないのだぞ」
「ねぇ、週初めと比べて昨日は皆の動きもかなりよくなって来てたのよ。それでも結果は初日と同じなの」
「シスコ、何が言いたい?」
「マーギンは少しずつ、スピードを上げてるんじゃないかしら?」
「そうなのかもな。前日よりスピードを上げて攻撃しても同じタイミングで避けられているからな」
と、シスコの言う事にオルターネンも気付いていたようだ。
「なぁ、明日からは最初っから全力スピードでやってみていいかよ?」
バネッサが全力を出していいかと皆に聞く。
「お前、手を抜いていたのか?」
オルターネンは眉をしかめてバネッサに問い詰めるような聞き方をする。
「違ぇーよ。全力で飛ばしたら半日もしねぇうちに動けなくなるじゃねーか。かと言ってこのままじゃやられっぱなしだからな」
「玉砕覚悟か…」
「で、うちが動けなくなったらカザフがうちの代わりをやれ。これまでは同時にやってたがお互いに連携出来てねぇから逆効果になってる」
「バネッサが邪魔するからだろ?」
「うちはお前が邪魔なんだよっ。うちが動こうと思った方へばっかり動いて来やがって」
「それはこっちのセリフだおっぱいお化けっ」
以前のようにぎゃーぎゃー言い合いを始めるバネッサとカザフ。
「いい加減にしろ。二人で打ち合わせてどう動くか決めればいいだろう」
ロッカが二人を諌める。
「事前になんて決められるかよ。こっちはマーギンの動きを見て動くんだ。だからカザフがチョロチョロしてて邪魔になるんじゃねぇかよ」
「それはこっちのセリフだっ」
ん?
「お前ら、マーギンの動きを見て反応してるんだな?」
と、オルターネンが二人に確認する。
「「そうだ」」
バネッサとカザフの声が揃う。
「なるほどな…」
「オルターネン様、何がなるほどなんだよ?」
「お前ら、マーギンに誘導されているんじゃないか?」
「「えっ?」」
「マーギンの動きを見て反応すると二人が同じ場所に動こうとしてお互いに邪魔になる。それも毎回だろ?それはこちらにも言える。サリドンが魔法攻撃を出来ないように仕向けられているとしか思えん」
「それは私も同じね。人数が増えた事で迂闊に射れないもの」
「アイリスは一度に多数火魔法を撃てるのだな?」
「はい。皆さんが巻き添えになってもいいなら気にせずに撃ちますよ」
「そうか。なら作戦をこうしよう」
オルターネンは対マーギン戦の作戦を皆に伝えていくのであった。
ーその頃のマーギンー
誰もいない自宅でマーベリックの日記を何度も読み直していた。
ーマーベリックの日記より抜粋ー
あの言葉の意味は恐らく正しいのだろう。あれから考える度にそう思える。しかしこのままにしていてはその時が来ても叶わないかもしれない。何か良い方法を考えなくては。
ミスティの残してくれた資料に興味深い内容のものを見つけた。これならいつか叶うかもしれない。
マーギンはこの内容が何を示しているのかずっと考えていた。
「はぁー、マーベリックも書くならちゃんと書けよな。何の事か意味がわからん」
マーベリックの日記はぼやかして書いてある所が多い。恐らく、誰かに見られた時の為にわざとそう書いてあるのだろうけど。
他にも気になる部分はある。が、ミスティの研究資料に関係しているこの部分が一番気になっていたのだ。
「やっぱりアリストリアがあった場所に行ってみないとダメだな。何か手掛かりが残ってるとは思えないけど、そこしか確認する場所もないからな」
そして、日記に何かカモフラージュして書かれていないか、ヒントがないか何度も読み返すのであった。
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