やり直す

ーバネッサが泣き続けた翌日ー


「朝だぞ」


ソファで丸まって寝ていたバネッサを起こす。目が腫れて酷い顔だ。


「風呂に入って来い。そんな顔で家に戻ったらロッカ達が心配すんぞ」


「うるせぇ」


と、言いつつバネッサは風呂に行った。マーギンが朝飯の準備をしているとアイリスはいつの間にかちゃんとテーブルに座ってやがる。


朝ご飯はブドウパンのトーストとプレーンオムレツにオレンジジュースだ。


「バネッサさんはお風呂に入ってるんですか?」


「寝汗が凄かったから風呂に行かせた」


デリカシーのない理由を付けるマーギン。


いつもより長めに風呂に入っていたバネッサが出て来たので、ブドウパンをトーストにしてプレーンオムレツを作った。食欲ないかな?と思ったけどバクバク食ってるから大丈夫だろう。


「パンおかわり」


「もう1枚か?それとも2枚食うか?」


「2枚食う」


アイリスもお代わりをしたので、6枚切りがちょうど売り切れたのだった。


飯を食った後は星の導き達の家に二人を送る。


「遅くまで飲んでたのか?」


ロッカはバネッサの顔を見てそう聞く。


「そんな所だと言いてぇところだけどよ」


「なんかあったのか?」


「マーギン、あなた、何かしたのかしら?」


「するかっ」


シスコのやつ、なんて人聞きの悪い。


「マーギンが王様に頼んで、クソ親父の行方を調べてくれたんだ」


バネッサは隠さずにロッカ達に昨日のことを話しだした。


「え?行方が分かったのか?」


「クソ親父はとっくにくたばってやがったんだとよ」


「そうなのか…」


バネッサの目が腫れているのはそのせいかとロッカ達は理解した。そしてバネッサは髪飾りを見せて、内容を話したのであった。


「バネッサ」


「なんだよシスコ。野垂れ死んでると思ってたクソ親父がその通りだっただけだ。同情すんな」


「同情なんかしてないわよ」


「ならなんでそんな顔してんだよっ」


シスコはバネッサの話を聞いて目に涙を溜めていたのだ。


「今からうちの店に行くわよ」


「は?なんでだよっ」


「成人の儀の服を作りに行くのよ」


「今更そんなもん作るかっ」


「ダメよ。その為のお金が入っていたんでしょ。ちゃんとその思いを叶えなさい。そうでないとお父さんも報われないでしょ」


「そりゃそうかもしんねぇけどよ。着る事のない服を作んのかよ」


「結婚…は無理かもしれないけど、来年の成人の儀の時に着ればいいじゃない」


「はぁー?」


「別に教会に行くわけじゃないわよ。私達だけで成人の儀をやり直しましょ。ロッカもね」


なるほど、ロッカもハンター服で参加だったからな。


「バネッサ、シスコの言う通りにした方がいいんじゃないか。何年か遅れだけどちゃんとやり直せ。どっか場所借りてパーティでもやろうぜ」


「えーーっ」


「シスコ、お前の所で魔狼の毛皮をコートに出来るか?」


「多分出来るわよ」


「ならその分は俺がプレゼントしてやるよ」


「いいのかよ?」


「成人の儀の時は寒いからな。防具として頼むより、服として作ってもらった方がいいだろ?毛皮はたくさんあるから防具はまた別に作ればいい」


「しょ、しょうがねぇなぁ」


「ハンナ、あなたは成人の儀の服はちゃんと着たのかしら?」


「着てへんで」


「ならあなたも作りなさい。マーギンが払ってくれるって」


「は?」


「ハンナも父親がいないのよ?拾ったあなたが父親代わりでしょ?支払う義務があると思うの」


「義務ってなんだよ」


「う、うち、稼がせてもうたからマーギンに払ろてもらわんでも自分で払えるで」


「ハンナ、そういう事じゃないわよ。成人の儀の服は親が子に作ってあげるものなの。ね、マーギン。アイリスにはそうしてあげたわよね?」


確かに。それにハンナリーは本当の年齢でいうと来年成人だしな。


「しょうがないな。ハンナリーの服代は俺が払ってやる。一緒に作れ」


「え、ええの?」


「しょうがないだろ?それともお前の父親の行方も調べてもらってやろうか?」


「それはええ。うちには父親はおらんかった事になっとるさかいな」


バネッサはクソ親父と言いつつも、父親の事が嫌いではなかった。しかし、ハンナリーは父親の事を恨んでいるのかもしれんな。


マーギンはドサッと魔狼の毛皮をアイリスに渡し、魔狼のコート代とハンナリーの服代は後から払う事にしてもらう。一緒にフォートナム商会に行くのが面倒なのだ。女同士で気の済むまで買い物をしてくれたまえ。


星の導き達はフォートナムに向かい、マーギンはロッカの実家であるグラマン工房へと向かった。


ーグラマン工房ー


「こんちはー」


「はい、いらっしゃ… 親方を呼んで来ます」


店番は弟子だったので、マーギンを見るなりグラマンを呼びに行ってくれた。



「なんじゃ、マーギン1人か?」


「今みんな忙しくてね。ウロコの防具は進んでる?」


「あぁ、ハルトランのお陰で何とか加工出来るようになったが、まだ出来てないぞ」


「それはまだ大丈夫。10月には出来そう?」


「それは大丈夫だ」


「包丁セットは出来てる?」


「それは出来とる」


やや短めの柳刃、出刃、牛刀、菜切包丁のセットだ。お値段30万G。タジキに持たせるには大きいけど、すぐにデカくなるだろうから大丈夫だろう。


「あと、10月にロングソードとショートソードを10本ずつ作っておいてくれない?対魔物用だから丈夫なタイプで」


「随分と買い込むんだな?どこかから注文を受けたのか?」


「いや、注文を受けたわけじゃないけど、必要になるかもしれないんだよ」


「どんな奴が使う?」


「背丈は175cmくらいで、スピードとパワーがある。そのパワーを受け止められる物が必要なんだよね」


ロッカが1.5倍身体強化したぐらいのイメージを伝える。


「まけてはやるが500万Gぐらいになるぞ」


「全然いいよ。もっと高い値段を想定してたから」


一千万Gはするだろうなと思ってたからな。今は小金持ちだから余裕で支払える。


マーギンは剣の発注と包丁セットのお支払いをして工房を後にしたのだった。



次は職人街のハルトランの所へ。脱穀機や精米機がどうなっているか確認しないといけないのだ。


ハルトランの工房で脱穀機や精米機の確認をするとまだ手を付けられてないらしい。


「いつまでに必要じゃ?」


「10月半ばぐらいにタイベに行くから、それまでに間に合わせて欲しいんだよね」


「分かった。今月末には試作機を作るから、その時に確かめてくれ」


「了解。じゃ頼んだよ」


その後、醤油の進捗を確認しにいくと順調のようで、マーギンが出発する時に完成させるとのこと。


これもタイベに持って行こう。ハンナリー商会の売りになるかもしれんからな。



こうしてマーギンは休みの日に休む事なくなんやかんやと用事を片付けていくのであった。


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