基礎訓練はもう終わり

ちい兄様&ロッカvsスタン連合はちい兄様組の圧倒的勝利だったようなので、翌日からサリドンとホープをスタン連合に加えた。作戦は自分達で考えたまえ。


マーギンはローズに個別訓練をしていく事に。


「ローズは気配を消すことより、気配を探る事に集中してくれ。カタリーナの護衛に付いている時に気配を察知しないとダメだからな」


「な、何をさせるつもりだっ」


マーギンを物凄く警戒するローズ。この訓練が始まってから随分と信頼を失ってしまったようだ。そりゃ、ミミズピーマンとかローズにとってはトラウマになるような事をしたからな。


「俺が離れた所からゴムクナイを投げる。ローズはそれを木剣で弾くだけだ」


「ピーマンじゃないのか?」


「俺もピーマンばっかり食うのも嫌だしね。ローズは木登りしているカタリーナの近くで待機な」


「危ないのではないか?」


「ローズが守れば良いだけの話だろ?」


マーギンはそう言い残して観客席に潜んだ。気配を消して移動しながらゴムクナイをローズに向かって投げる。


べしっ


「あうっ」


いきなりゴムクナイを食らうローズ。本番なら今ので任務失敗だ。だが、このまま続けよう。


マーギンは移動しながら次々と投げてローズに当てて行く。ゴムクナイが視界に入ってからの反応は良いが、死角から投げたら必ず当たる。気配を読んでいると言うより、反射神経でやってるな。これは時間が掛かりそうだ。


ローズは何度も何度もゴムクナイを当てられて、その日の訓練は終わりとなった。


そして、今週は結果が変わらないまま休みの日を向かえたのであった。



ー休みの日ー


マーギンは毎休みの度に庶民街へと消えて行く。


ローズはなんの成果も得られない事に落ち込んでいた。マーギンは怒りもしないし、アドバイスもしない。ただひたすらゴムクナイを当てられ続けているのだ。



宿舎の食堂で食べ終えた後、はぁ〜と大きなため息を吐く。


「ローズさん、どこか痛いんですか?」


サリドンがお茶を持ってローズの所にやって来た。


「いや、打ち身は訓練終了時にマーギンが治してくれるから痛みは残っていない」


「気配を探れないのを気に病んでるんですか?」


「そうだ。私だけ合格を貰えてないからな」


ローズは騎士見習いが長かった時と同じ気持ちになっていた。周りの者は課題に合格し、次のステップに進んでいるというのに、自分はずっと足踏みしたままなのだ。


「多分、マーギンさんが求めている基準が他の人達と違うんですよ」


「基準が違う?」


「我々は特務隊ですけど、ローズさんは姫様の護衛騎士ですから、気配察知の合格基準が物凄く高いのだと思います」


「そうなのか?」


「はい。姫様が狙われるとしたら、魔物より人間からの方が可能性が高いですよね」


「暗殺か?」


「はい。殺気を持つ相手ならローズさんも気配を掴めていると思うんですけど、暗殺者なら殺気を出さずに攻撃を仕掛けて来ると思うんですよ。だからマーギンさんもそれに匹敵するぐらい気配を消してるんじゃないですか?観客席に潜んでいるマーギンさんの気配なんて僕も分からないですから」


「えっ?サリドンは気配を掴めたから合格したんじゃないのか?」


「合格といっても及第点ですよ。後は実戦で身に付けるしかありません。しかし、ローズさんは実戦=姫様が狙われるということですからね。失敗が許されないのですよ」


「そういう事か…」


「だと思いますよ」


サリドンはそう言って微笑んだのであった。



ホープは訓練所で自主訓練をしていた。オルターネン組にどうしても勝てないのだ。それどころか、カザフ達はいい線をいっている。3人の連携がとてもよく出来ているのだ。カザフ達は剣の腕が伴っていないので、上手くいなされて攻撃が入る事はないのだが、切り込み方とかは見事なのだ。


ホープはカザフの動きをイメージしてダッシュを繰り返す。しかし、瞬時に方向転換するのがカザフのようにはいかない。前にマーギンがやってくれたように足場があると同じような動きが出来るかもしれないのだが。


体重の違いもあるだろうが、それだけではないのかもしれないと思ったホープは、翌日からの訓練はカザフの足元をよく見てみようと思うのであった。


休み明けから各自はマーギンに言われた事をこなすのではなく、自分の課題を見付けて訓練をするようになった。その事により、練度がぐっと上がっていく。木登り組も1日に30回のノルマをクリア出来るようになったのであった。


「お疲れ。これで2ヶ月が終了だな。休みは2日間。明々後日から訓練再開だ。基礎的な内容はもう終わりにするから、休みが明けたら俺対全員でバトルを行うから覚悟しておくように」



ー夜ー


「お前ら、食堂の手伝いに行くのか?」


「うんっ」


「俺は一度家に帰って来るわ。鑑定の魔道具を取ってこないとダメだからな。休み明けの朝に戻って来るわ」


「オッケー!」


そして翌朝、マーギンが一度家に帰ろうとすると、ロッカ達も家に戻るらしく一緒に帰ることに。


「マーギンはなにしに帰るんだ?」  


星の導き達と歩きながら帰る途中にバネッサが聞いてくる。


「風呂に浸かりたいんだよ。宿舎はシャワーしかないだろ?」


「風呂入るだけの為に帰んのかよ?」


「悪いかよ?」


「物好きなこった。で、飯はリッカの食堂に行くのか?」


「まだ混んでるだろ?タイベで買ってきたグリーンカレーとかあるから家で適当に食うわ」


「辛いやつか?」


「そう。バネッサには無理だろうな」


「クロワニとか残ってねぇのかよ?」


「まだ残ってるぞ」


「なら、甘じょっぱい奴にしてくれよ」


「は?」


「一人で食うの寂しいんだろ?付き合ってやんぜ」


なんか良いこと言ってる振りして飯食いに来たいだけか。


「ロッカ、バネッサはうちで晩飯食うつもりみたいだけど、お前らはどうする?」


「そうだな… 今回は遠慮しておこう。結構疲れが溜まっているみたいだから家でゆっくりとする」


シスコもハンナリー教育があるのでパス。食いに来るのはバネッサとアイリスだけとなった。晩飯は唐揚げの甘辛とハンバーグだな。



ー夕方ー


まだ飯の準備をしているのに、もう来たバネッサとアイリス。


「まだ時間が早いだろ?」


「お風呂に浸かりたいんです」


と、アイリス。パジャマも持って来ているようだ。


「なら先に風呂に入って来い」


バネッサも風呂に入るみたいで、カラスの行水のバネッサが先に入り、次いでアイリスが風呂に行った。



「バネッサ、何飲む?」


「甘いやつ」


リンゴジュースをラム酒で割ってやるか。味見すると結構美味かったので、自分の分も作って二人で飲む。


「シスコとの連携はまだ上手くいってないみたいだな」


「あぁ、こっちが身体強化して投げたらシスコの風が付いて来れねぇみたいだ」


「なら逆でやってみりゃいいんじゃないか?」


「逆?」


「そう。シスコが風魔法を撃った所にクナイを投げてみれば?上手く行けば失速し始める時に風に乗るとより遠くまで飛ぶかもしれんぞ」


「風の弾なんて見えねぇだろ?」


「そうだな。目で追うと無理だろうな。でもシスコのタイミングとかをバネッサが感覚で掴めていたら出来るかもしれんぞ。今のやり方で上手くいかないなら色々と方法を試せ」


そんな話しているとアイリスが風呂から出て来たので唐揚げを揚げ始める。ハンバーグはオーブンで焼いておこう。



出来上がったご飯をウマウマと食べたらアイリスはバタンキューだ。かなり疲れが溜まっていたのだろう。マーギンは抱き上げてベッドに寝かせておく。


「バネッサも眠いだろ?ソファで寝ろよ」


「お前はどこで寝るんだよ?」


「床にマットを敷くからそこで寝る」


ソファにバネッサ、床のマットにマーギンが寝る。そしてマーギンはいつ話そうかと思っていたバネッサの父親の事を切り出した。


「バネッサ、お前、父親の事は気になってるか?」


「あのクソ親父か?どうせどっかでくたばったんだろ」


「知りたくなければ別にいいんだけどな」


「なんだよ?なんか知ってんのかよ」


「あぁ。知ってる。バネッサが気にしてるんじゃないかと思って、王様に調査を頼んだんだ」


「は?王様に?なんでだよ」


「こういう大きな国には調査機関というのがあるもんなんだよ。そこなら何か分かるかもしれないと思って調べてもらったんだ」


「まじかよ… で、親父の居場所がわかったのか?」


「聞きたいか?」


「ここまで話したなら話せよ。どうせどっかで野垂れ死んだとかそんなんだろうけどよ」


「その通りだ」


マーギンは隠さずに父親が死んでいることをバネッサに伝えた。


「えっ…」


「お前の父親はもう亡くなっていた。酒で相当身体が弱ってたみたいだな」


「ほ、本当に死んでたのかよ…」


「そうらしい。で、お前に渡す物がある」


マーギンは立ち上がってバネッサに父親が残した箱を渡した。


「これは?」


「お前の父親からの贈り物だ。中に手紙も入っている」


そう言うとバネッサは箱を開けた。


そして、髪飾りを持ちながら手紙を読んで声を殺して泣いたのだった。


「あのクソ親父のやろう、こんなもんの為に…」


「多分、成人の儀に間に合うように送るつもりだったんだろうな。しかし、ちゃんと届けてもらえないような事があったみたいで、宿舎に隠してあったそうだ」


トイシャングは金鉱山の管理のトップでもあり、志願工が家族などに仕送りするものを着服していたらしい。バネッサの父親も何度かお金を送っていたのかもしれない。


「マーギン」


「悪かったな。勝手に調べてもらった結果がこれで…」


バネッサはどうして良いかわからない顔している。そして、


「ちょっと、いいか…」


バネッサはそう言った後、マーギンの胸の中で泣き続けたのであった。


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