気になる事は先に終えておこう

女将さんとリッカが腹パンパンで部屋に戻ったので大将にタイベでの出来事を話す。


「まずい事になってんだな?」


「そうだね。その兆候って感じだね。これが一気に進むのか、ゆっくりと進むのかはまだわかんない」


「早ぇにしろ、遅ぇにしろ、進むのは確定か?」


「と、俺は思ってる。今まで王都周辺で出なかったファイティングモールっていう大モグラが出たらしい。明後日それを討伐してくる」


「ロドにはもう報告したんだろ?なんて言ってた?」


「別に何も言ってないけど、なんか考えるだろ。あいつ表立って動かずに裏で動いていくタイプだろ?」


「よくわかってんな」


「北の雪熊の時のやり方見たからな。まぁ、あんまりあっちは心配してない。それと組合に魔物図鑑かなんかあるのかな?見た事もない魔物の事を知ってたぞ」


「どうだろうな?俺も組合の中の事はよく知らん。しかし、あぁ見えてロドは頭が良くてな。いつもなんか調べてたわ。俺達もあいつの知識のお陰で上手くやれて来たようなもんだ」


「へぇ、やっぱりそういうタイプか。ま、手伝える事は手伝うけど、組合長が頑張ればいいってやつだな」


「そうだな。しかし、真面目に相談してきたら話を聞いてやってくれ」


「了解。で、大将からの話って?」


「ガキ共の事だ。あいつらハンターの素質はあるか?」


「あぁ、あいつらは相当強くなる。特にトルクは魔法使いになるだろうからパーティの要になる。頭もいいし、常に周りを見て足りない部分を自分が補うって感じだ」


「ロドタイプか…」


「今の話を聞いていたらそうみたいだね。まだ魔法を教えるつもりはないけど、俺がやってた事を吸収しているから勝手に使えるようになるかもな。既に矢の軌道とか自由に変える事も出来る」


「マジか?」


「あぁ。カザフは完全にバネッサタイプだ。戦闘のきっかけ作りと陽動をすることになる」


「タジキはどうだ?」

 

「あいつの身体がどれぐらい大きくなるかで変わってくるけど、盾持ちか大剣とかそんな感じだな。大将は現役の時は何の武器を使ってたんだ?」


「大剣と呼んでいいか分からんが、ゴツい剣だな。硬い頭を叩き割れるような剣だ」


「狩りの時に使うナタのでかい版みたいな感じ?」


「そんな感じだ。ミリーは細くて軽い剣を使ってたぞ。スピードと斬れ味重視だ」


「今ならナタ使いそうだけどな」


今なら聞こえてないからセーフっ。


「俺が代わりに殴ってやろうか?」


「いや、遠慮しとく。で、店は遊女で回すって話でいいか?」


「正直な気持ちはここで今まで通り働いて欲しい。が、あいつらは今が伸び盛りだろ。俺も空いた時間で色々と教えてやりたかったがよ、店がこの状況じゃ無理だ」


「そうだね。あいつらはトナーレの飯屋でも働けとスカウトされたからな」


「働かせたのか?」


「ちょっと時間があったからな。これお土産の追加で渡しておくわ。タジキがその店で手伝いながら作ったソーセージだ。肉はタイベ産の旨い奴だから店で出さずにリッカにも食わせてやってくれ」


「そうか… あいつには一緒に料理を作って欲しかったんだがな。魔物が増えて強くなっていくならそっちが優先だ」  


大将はちょっと寂しそうに言ったのだった。


「じゃ、そろそろ帰るわ。ガキ共には上手く言っとく。タイベから戻って来たらここで働く気満々だったからな」


「おぉ、頼む。その代わり引退したらここで働けと言っておいてくれ」


「まだ正ハンターにもなってないのに気が早ぇっての」


マーギンはそう言って店を出たのだった。もしかしたら大将は息子が欲しかったのかもしれんな。


その夜、家に戻るとまだ起きていたカザフ達に大将の店の事、これから正ハンターに向けて訓練していくことを伝えたのだった。



ー翌日ー


カザフ達とハンナリーを連れて職人街へ。馬車が通るので一列に並べと後ろを歩かせるとハーメルンの笛吹きになった気分だ。


「ようっ」


「マーギンっ、お帰りなさぁい」


出迎えてくれたのはシシリー。


「進んだか?」


「そうね、ぼちぼちよ。で、その猫はどこで拾ってきたの?」


「猫ちゃうわっ」


シャーーッ


シシリーを威嚇するハンナリー。


「昨日店で聞いたわよ。すごい商人になるんですってねぇ」


「マーギン、このねーちゃんは昨日の店の人なんか?」


「そう。ババァの後継者だ。魔道具ショップの開設を手伝ってくれている」


「ふふっ、ずいぶんと愛らしい猫ちゃんだこと」


シシリーはハンナリーに近付き、喉を優しく撫でる。


「ちょっ、何すんねんな… あ、あかんてそんなん…やっ、やめ…」


ハンナリー陥落。シシリーに喉を撫でられてゴロゴロ言っているように見える。こいつ、本当に先祖返りなのだろうか?


「いい加減にしとけ。それより特許の申請はどうなった?」


「大半が却下よ。すでに市場に出回っているからって理由で」


それは仕方がないな。


「通ったやつはあるか?」


「まだよ。却下されたもの以外はまだ審査中。防刃服関係、ボールベアリング、錫を使った板ガラス、人工磁石とかね。後はドライヤーとか肉のスライサーかしら。掃除機や洗濯機とかはまだ申請もしてないわよ。納得のいくものが出来てないんですって」


この辺は新規商品だからな。審査に時間が掛かっているのかもしれん。


「了解。後、木工職人に頼んでいたものは完成してる?あと鉄板も」


「預かってるわよぉ」


シシリーはドライヤーのがわを出し、鉄板はここねと指を差す。ドライヤーの市販品は熱線で熱を出して、モーターが羽を回すタイプ。マーギンは王妃への献上品としてがわだけを木工職人に頼んでおいたのだ。回路は自分で組むからこれでOK。


「これどうやって開けるか聞いてる?」


黒い漆塗に金箔で装飾された豪奢ながわだ。とても素晴らしくて継ぎ目がどこにあるのか分からん。


「ここを外してこうずらせば外せるわよぉ」


おぉ、素晴らしい。金箔の模様が継ぎ目を隠す役割も兼ねているのか。てっきりネジ止めしてあるのかと思った。しかも重さも軽い。これにはモーターも仕込まないからかなり軽いドライヤーになるな。


「これいくらするんだ?」


「新しい商品のアイデアをもらったからいらないって。今は器をたくさん作ってるみたいよ。特許はまだ審査中ね」


「わかった。ありがとうと伝えておいて」


「あら帰っちゃうの?」


「いや、ガラス工房のリヒトの所に行ってくる。あと植物研究のゼーミンの所だね」


「じゃ、付いて行こうっと♪」


シシリーは毎度のごとく腕を組んでベッタリとくっついてくる。子供の前でやめろ。


まずはリヒトのガラス工房へ。


「おいっす!」


「おっ帰って… ケッ」


シシリーがベッタリとくっついているのを見たリヒトがぺっと地面に唾を吐く。なんだその態度は?お前には嫁がいるだろうが。


「シシリー、離れろ。仕事の邪魔だ」


「んもうっ」


シシリーの腕をぺっと振り払うマーギン。


「リヒト、上等な小瓶ないか?」


「上等とはどれぐらいだ?」 


まだ機嫌の悪いリヒト。


「最上級のだ。贈り物に使いたいんだよ」


「ちっ」


舌打ちをしながら、マーギンにサイズを聞いて持ってきてくれた。綺麗な木箱に入っている。


「これいくら?」


「10万Gだ」


えっ?


「瓶でそんなにすんのっ?」


「馬鹿野郎っ、透明度の高いガラスに金を混ぜてその色を出した新作だ。しかも削ってキラキラ光るように見える加工までした苦心作だぞっ。10万でも卸値だってことを分かりやがれっ」


確かにキリコガラスみたいな感じで模様が入っていてとても綺麗だ。何を入れる為に作ったのだろうか?


「いや、ごめん。これを使わせて貰うよ。はい、10万G」


「お前から金取れるかってんだ。持っていきやがれっ」


「いや、ちゃんと払うよ」


「気に入らねぇなら返しやがれっ」


「いや、使うってば」 


「なら持っていきやがれっ」


シシリーが横でうにゃうにゃし続けるものだからリヒトの機嫌は直らず。しかし板ガラスの事もあるからお金はがんとして受け取らなかった。シシリーを連れて来るんじゃなかったな。


次はゼーミンの所へ。


「あ、マーギンさんお帰りなさい」


「よう、どうだ?」


「もう、防刃服用の糸の確保とか樹液集めとか大変なんですよ」


「あの草は秋には大量に手に入るぞ」


「本当ですかっ」


「あぁ、タイベで群生しているみたいでな、夏には俺の背丈ぐらいに伸びるからそれを待って刈り入れして貰う」


「素晴らしいっ」


「で、先の話をしていいか?」


「何かありますか?」


「こいつを味見してみてくれ」


皆も味見するというので、小皿を用意してもらって、少しずつバレットフラワーの蜜を入れる。


「うわっ、何ですかこの芳醇な香りのする蜜は?」


「バレットフラワーって魔花の蜜だ。南国の魔物が多い場所に生えているやつでな。ちょいと危険な花だ。近付くと種を撃ち込まれて死ぬ。で、その死んだ奴の身体を栄養にして育つものだ」


「そんな恐ろしい花の蜜…」


「お前、栽培してみないか?」


「え?そんな恐ろしい花を栽培するんですか」


「そう。栽培の仕組みは一緒に考えてやる。上手く栽培出来たら高値で売れると思うぞ」


「でも南国の花なんですよね?」


「そう。だから防刃服が売れたら温室を作ってそこで栽培するんだ。それが上手く行けばさらに資金が貯まるだろ?次は温室を広げて南国でしか手に入らない果物を育ててみたらいい。これ食ってみろ」


と、サモワンの実を渡す。シシリーもうふふと見ているので渡した。もちろんガキ共もハンナリーもマテをしている。


「うわっ、食感も面白いし、味も濃厚で美味しいですねこれ」


「だろ?ただこいつは収穫したらその日のうちに食べないとダメらしいんだよ。だからタイベから持ってくるのは無理だ。ここで生産出来たら売りになると思うぞ。日持ちするやつは持ってくるから、持ってこれないこいつを育てればいい」


「マーギンさんが来るとどんどん面白いものが手に入るようになりますね」


「まだ先の話になるけど、そのつもりでいてくれ」


「はいっ」


ゼーミンとそんな話をしている横で、サモワンを食べたシシリーが懐かしいわねと小さく呟いたのであった。


職人街の用件はこれで終わり。シシリーにも付いて来んなと言ってヘラルド医院に移動。


「おっ、マーギン帰って来たか」


「お疲れ。薬草類を採取してきたからお土産に持ってきたよ」


と、ナムの村から廃坑に向う途中でカザフ達に教えながら採取したものだ。


「おっ、良いもの揃えやがったな」


「まぁ、見付けたら採取してたからな。この辺だと手に入らないものばかりだろ?」


「あぁ、助かる。おっ、スーッとする奴もあるじゃねーか」


「よく知ってたね。何に使うんだ?」


「これ自体には薬効はあまりない。が、胃腸の薬に混ぜれば体感的にもスッキリする。よく効いた気がすれば本当に効くからな」


なるほど。プラシーボ効果ってやつか?


「全部でええっと…」 


ヘラルドは支払いの計算をし始めた。


「これはお土産だからお金はいらないよ」 


「結構貴重な奴がはいっとるぞ」


「いいよ。ガキ共の訓練に採取したようなものだから」


しかしだな…というので、貴重な奴を教えてもらう。カザフ達がそれを覚えておいたら、何かのついでに見付けた時に採取するだろ。


「これ高いん?」


「そうだな。これはこれだけで5万Gぐらいになるぞ」 


ハンナリーも高い奴を覚えて商売に使うのかもしれん。


これでやらないといけないことは終わり。モグラ退治が終わったら商業組合でライオネルから王都までの流通の事を相談してみよう。


マーギンはどっかで飯食って帰ろうかと聞いたら肉ーっとカザフ達がいうので、行った事のない屋台街に行くことにしたのであった。


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