これなら伝説に残るかも

ロドリゲスにはハンター教育をどうするのか考えておいて、と伝えて終わり。星の導き達とも明日家に集合ということで別れた。


「マーギン、次はどこにいくんだ?」


カザフ達が聞いてくる。


「ババァの所に顔出してくる。お前らは中に入れんから家で待ってろ」


「えーっ」


それに見るだけでもこいつ等には早い場所なのだ。


「うちは付いて行こっと♪」


「何しに来るんだよ?」


「マーギンの女関係把握しとかなあかんやん?」


なんの為に把握するのだ?


「お前も家で待ってろ」


「イヤやうちも行くっ」


人通りの多い道でしがみつくハンナリー。やめろ、ただでさえ獣人を見たことがない王都の人々がジロジロ見てるのに、俺がケモナーと間違われたらどうすんだよっ。


「なんでだよっ」


「化粧品売り出したら、売り先になるかもしれへんやんっ」


そう言うことか。お前がババァに営業かけたら穴の毛まで抜かれそうだけどな。まぁそれも勉強か。


ガキ共を家に帰らせて夜のシャングリラへ。


「めっちゃ大きい店やんか」


「最大手らしいからな。あんまりキョロキョロすんな」


店の近くなので他の人からジロジロ見られる。ハンナリーと同伴出勤してきたのかと間違われているのかもしれない。


マーギンはその後、密かに黒髪のケモナーという二つ名が付くことをまだ知らない。



「おい、ババァいるか」


「1万」


ババァは入るなりハンナリーに値段を付ける。


「ん?なんや。この店は入っただけで金いるんか?」


「お前の値段だ」


「え?」


まだ意味がわからないハンナリー。


「だからお前をここに売ったら、1万Gにしかならんってこった」


「うっ、嘘や…」


ハンナリーの頭の上にガーンという文字が見える気がする。


「なんでうちが1万やねんっ」


「お前さん獣人だろ?王都じゃ客付かないよ。あたしゃ別に獣人でも気にはしないから雇ってやるが、選ぶのは客だからね。ライオネルあたりなら30万ってとこさね」


「お、良かったな。モグラと同じ値段になったぞ」


「なんでモグラと同じ値段になって喜ばなあかんねんっ。それやったらタイベに行ったら100万になるわっ」


いらぬ事を言うマーギンにシャーッという感じで怒るハンナリー。


「で、その娘には何をさせるつもりなんだい?」


「こいつは商売人を目指している。まずはタイベと王都の流通だな。それが軌道に乗ったら王都にも店を構えるつもりだ」 


「タイベと王都の流通?なんかあてでもあんのかい?」


「まぁな」

 

マーギンは濁して答えた。


「めっちゃええ化粧品あんねんっ。売り出したらここでも買うてくれへ…」


「やめとけ」


「なんでやねんっ。チャンスやんかっ。ここには女の人ぎょうさんおるやんか」


「王都の店に関する事はシスコに相談してからにしろ」


「せやかて…」


「ふむ、そこの娘は商売人として才能がありそうだね」


「ほんまっ」


「その歳で流通の仕事を始めようってんだ。相当の覚悟と才能がないと始められないよ。それに扱う化粧品をここに売り込もうとはいい考えだね。どんなのが売りなんだい?」


先ほどまで無愛想だったババァが優しげな声でハンナリーを持ち上げる。


「あんなっ、貝から取れる…むぐぐぐっ」


マーギンはハンナリーの口を押さえる。


「ぷはっ 何すんねんっ。喋られへんやんかっ」


「お前はもう黙っとけ。ババァ、売り物の情報はまだ秘密だ。それにまだ完成してないからな」


「マーギンっ、今うちが喋ってんねんでっ」


「パラライズ」


「グギギギっ」


その場で痺れて口をきけなくされたハンナリー。


「ちっ、マーギン。土産はなんだい」


マーギンがいるともう情報を取れないと思ったババァは元に戻った。


「冷凍のカツオと南国フルーツだ。魚さばける奴がいるだろ?」


「カツオなんて旨くないだろうが」 


「生で食うなら旨い。生で食うのは無理そうか?」


「どうだろうね、あんたが調理していきな。それで旨かったら残りももらってやるよ」


なんて言い草だ。


マーギンは調理場に行ってカツオのタタキを作る。生姜醤油と青じそで味付け。ネギを使うと接客にまずいかもしれんからな。


それを冷蔵庫に入れておいた。後は南国フルーツ各種とタイベの豚肉のソーセージをドッチャリと。


「ハンナリー、帰るぞ」


あ…


闇属性が高いハンナリーはパラライズを自力解除してババァに嬉しそうにベラベラと喋ってやがった。俺はもう知らん。そのうちシスコの矢の餌食になればいい。


ほんでな、ほんでな、と目をまんまるにしてまだ喋っているハンナリーの首根っこを掴んで持ち上げたマーギンはさっさと夜のシャングリラを出たのであった。


マーギンが店を出た後、


(マーギンの奴、また面白い話を見付けて来たみたいだね。しかし、スレてない小娘を商売人にするのは苦労するさね。さて、どう絞ってやろうかねぇ)


そう呟いてヒッヒッヒと笑うのであった。



ーマーギンの家ー


「うちはネコちゃうねんでっ」

 

「ネコの方が賢いわ。王都の店で扱う商品はシスコに相談しろと言っただろうがっ」


「そやかて、そんなに良い化粧品ならどっちゃり買うてくれる言わはったわ。顧客確保したんやからシスコも怒らんっ」 


「シスコと会ったら今日何を話したか報告しとけ。俺はノータッチだからなっ」


ハンナリーの頭に矢がたくさん刺さる未来を想像するマーギン。自分は巻き込まれないようにしておかねば。


晩飯をタジキに作らせて、リッカの食堂には一人で行くことに。



ー閉店間際のリッカの食堂ー


「はいはい、萌え萌えキュン」


店に入るとめっちゃおざなりに萌えキュンをしているリッカ。そして店内には働く女性が二人。


「えー、私のは美味しくならないわよ?」


「そっ、それでもいいですっ」


「もう、欲しがりさんねっ。美味しくな〜れ、美味しくな〜れ、萌え萌えきゅぅぅうん♪」


「とっても美味しいですっ」


「ふふ、ありがと♪」


なんだこれ?


「あっ、マーギン。お久しぶりぃ〜」


あ、夜のシャングリラの人か。顔は見たことがあるけど名前は知らない。


「こ、今晩は。ここで働いてんの?」


「そうよぉ、お手伝い♪」


そして、向こうのテーブルでも色っぽい萌え萌えきゅぅぅうんをしている人も夜のシャングリラの人だ。


「ささ、座って座って」


名前を知らないとは言えない女性に、大将に会いに来ただけだからと、席に座るのを断り厨房へ。


「おやマーギン。まだ終わってないよっ」


「マーギン、もう少し待っててくれ」


大将と女将さんが客に出す料理の準備をしている。まだ店に客が結構いるからな。


そして厨房にはまだ未成年かな?と思われる女の子が大将を手伝っていた。この娘も見た事がある。デビュー前の遊女だ。


「マーギンさんこんばんはっ。いつも美味しい物を差し入れありがとうごさいます」


「あ、いや、お気になさらず…」


タイベ出発前と雰囲気の変わってしまったリッカの食堂に戸惑うマーギンは配膳を手伝わされたのであった。



ー閉店後ー


「大将、どうなってんのこれ?」


「ガキ共がいなくなっちまったから、リンダに人を貸してくれと頼んだんだ。で、来てくれている」


「それは見たから分かってるけど…大丈夫?」


元々男客が多かったが、さっき見たのは客が男だけになっているのだ。

 

「あぁ、夜のシャングリラのみんなは良く働くし客あしらいも上手い。計算も早いし言うことがねぇ」


「いくらぐらい給料払ってんの?」


「ガキ共に払うのと変わらんぞ」


「えっ?」


あのババァが慈善事業でそんな事をするわけがない。


「なんか嵌められてない?」


「リンダが言うには外の世界を教えてやってくれだとよ。厨房に居た娘は固定で来てくれているが、接客してくれている遊女は交代で来てくれている」


あー、なるほど。ここで客引き代わりの接客をやってんのか。あまり客の付かない遊女を出してるんだなきっと。


手伝いに来ていた遊女はめっちゃ美人という訳ではないが、愛嬌の良いタイプの人だ。見ただけで選ぶのではなく、話をしたりとか接客することで魅力を分かってもらう戦法か。広告宣伝費代わりに小遣い程度の給金で遊女の手伝いを引き受けたのだろう。まぁ、大将もそれで良しとしているみたいだし、女将さんも遊女達を気に入っているみたいだからいいか。


問題はリッカだろうな。あの不貞腐れた萌えキュンは散々チヤホヤされていたのを遊女に取られたんだろう。俺もやってもらうなら、萌え萌えきゅぅぅうん♪の方が嬉しい。


「テーブル拭き終わったわよっ。マーギン、お土産っ!」


機嫌の悪いリッカがこっちに来た。


「大将、今からみんなで土産を食うか?」


「おっ、何がある?」


「色々とあるぞ。カツオ食べる?」 


「旨くねぇだろ?」


「生で食うと旨いぞ。売れそうならライオネルから仕入れルートを押さえるけど。冷凍で運んで来ることになるから新鮮だ。このカツオも取れたらすぐに冷凍しているから生で食べてもお腹は痛くならない」


「マジか?」


「ま、食ってみて決めたらいいよ」


またカツオのタタキを作るマーギン。今回はネギも入れて油醤油仕立て。酒は焼酎にしておこう。赤ワインで食うと生臭く感じるからな。


「これ、毒魚じゃないだろうね?」


女将さん、前はあんたが勝手に食ったんだろうが。


「カツオって言っただろ?生が嫌ならカツにしてもいいけどさ」


なら始めっからカツにおしっと言われた。まだ臨月扱いしたことを怒っているのかもしれない。


「おっ、旨いぞこれ」


大将の口にはあったようだ。リッカは何も言わずにガツガツと食う。遊女に負けた腹いせか?ヤケ食いすると身体に良くないぞ。


女将さんは嫌そうな顔をして手を付けないので厨房に戻りカツにする。半生で揚げるからすぐに出来るな。ソースは辛子マヨだ。


「美味しいじゃないかっ」


カツを喜んで食う女将さん。タタキより揚げ物を好むから妊婦と間違われるのだ。


ゴツンっ


いらぬ事を思っただけでゲンコツを食らうマーギン。


「大将、これを仕入れるか?」


「いくらぐらいだ?」


「浜値で1匹千G。これは漁師から直接買った値段だね。商人を通して運び賃も入れたら3千Gぐらいになるかもしれない」


「3千Gか。その日に売り切れりゃ問題ねぇ仕入値だが、売れ残るとなぁ、日持ちせんだろこれ?」


「そうだね。解凍したらその日のうちじゃないとダメだね。売れ残ったら油煮にすればいいよ。そうしたら日持ちするから」


「なんだ油煮って?」


というので再び厨房へ。油に塩を混ぜてゆっくりと煮てやる。


「はい、これが油煮。すぐに食べるより2〜3日置いて味が馴染んだほうが旨くなる。このまま食べてもいいし、生野菜にマヨと混ぜてもいい。スープに入れてもいいから、使い勝手はいいと思うよ」


「ほう、こいつも旨いな」


「どうする?仕入れるなら流通ルート確保していくけど」


「おう、これなら売りになるわ」


ということなのでライオネルの魚を仕入れるルートを考えないとな。


大賢者としては伝説に残らなかったが、大商人として伝説に残るかもしれないと、誰かの声が呟くのだった。


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