挨拶回り

翌日、昼の営業前にダッドの店に行く。


「何だ帰ってきたの?」


ツンで出迎えてくれたリッカ。顔はややデレ。


「へぇ、ここがマーギンの行きつけの店かいな」


そこにハンナリーがひょいと顔を出す。


「なっなっ何よこの娘っ。どこで拾ってきたのよっ。元居た所に捨てて来なさいっ」


お前はヤキモチを焼いたのか、オカンになったのかどっちなんだ?


「こいつはハンナリー、商人になる予定のやつだ。軌道に乗るまで少し手伝ってやるだけの関係だ」 


「そんな事いいなや。昨日うちにあんなにいっぱい…」


頬を両手で押さえてはにかむように言うハンナリー。


「なっ、なっ 何したのよマーギンっ」


「勘違いすんな。いっぱいオムレツを食わせただけだ」


「何よそれ?」


「お前も変な言い方すんなっ」


「あんたがリッカちゃん?うちと歳変わらんように見えるけど、エロいこと考えたんちゃうー? マーギン、こんな可愛い娘がいてんのに、バネッサの乳揉んでたらあかんやん」


「揉んでないわっ。いらんこと言うなっ。ヒゲ描くぞっ」


「にゃーっ!!」


無い尻尾を立てたように怒るハンナリー。


「おや、マーギン。ようやく帰ってきたのかい」


女将さんが奥から出て来た。


「おめでとう」


「何がだい?」


「2人目出来たんだろ?」


バチンっ


いらぬ事を言ったマーギンは張り手を食らった。


「リッカ、塩撒きなっ」


女将さんが塩を撒いたら…


いらぬ事を言う前に突っ張りを食らって店から押し出されたマーギン。うっちゃる暇もなかった。


「女将さんただいま」


「おやぁ、トルク達もちゃんと帰ってきたんだね。さ、賄い食べておいき」


マーギンに対する態度と全く違う女将さん。大将も出てきたのでハンナリーを紹介した。


「大将、閉店後に来るわ。土産もあるからその方がいいだろ?」


「そうだな。ちょいと話もあるからそうしてくれ」


「今日、カザフ達の手伝いは必要か?」


「いや、大丈夫だ。それも含めて話す」


「わかった。じゃ、閉店後にな」


リッカにべーっとされながら外に出る。カザフ達も今から忙しくなるから賄は遠慮しとけと言って連れ出した。


「おもろい人らやな。あんたの家族みたいやったわ」

 

「あそこにはずいぶんと世話になってるからな」


そんな話をしながらロッカ達の家に。


まずは報酬の山分け。ライオネルの魔狼討伐の分もきちんと分けた。


「タイベ旅行ではあまり金を使わなかったからずいぶんと黒字だな」


食材はこっち持ちだったからな。


「あとな、魔狼の肉がたくさんあるだろ?あれどうする?」 


「売れば多少の金になるかもしれんが、大量だと買い取ってくれんかもな」


「毛皮も大量にあるから、売らずに置いとくか?職人に頼んだらコートとか作ってくれるかもしれんぞ」


「魔狼のコートか」


「ちょっと重くなるけど、暖かいしそれなりに防御力もあるからな。冬の討伐には重宝するかもしれん」


「ではそれはおいておこうか。防具代わりにするなら予備もあった方がいい」


「肉はどうする?」 


「ん?何か使い道があるのか?」 


「まぁ、孤児院に差し入れてもいいかなって」


「それならば全部マーギンが好きに使うといい。旅先の食材代を何も払ってないからな」


ということで魔狼肉はマーギンが負担していた旅の食材費としてもらうことになった。


「今から孤児院に行って、その後に組合に顔を出すわ」


「それなら私達も顔を出しに行くか」


と、星の導き達も一所に孤児院に来ることになった。



「まぁまぁ、これはこれは薪の人」


誰が薪の人だ。ハムの人みたいな呼び方をしないで欲しい。


「よおっ、シスター」


「まぁまぁ、あなたたち。少し見ない間に大きくなって」 


「今日は飯作りに来たんだぜ」


「え?」


「魔狼の肉がたくさんあるから、俺が作ってやるよ」


と、タジキが腕をパンパンと叩いた。君は次から肉の人と呼ばれたまえ。


孤児院の中に招き入れられ、孤児達は離れてこっちをじーっと見ている。


「お前らそんな所で隠れてると食ってやるぞぉぉーっ」


バネッサが遠巻きに見ていた孤児達にそう言ってバッと飛びつくふりをする。


「キャーーーっ」


逃げ惑う孤児達。


「ほうらっ捕まえた。逃げた奴はこうしてやるっ」


コショコショコショコショ


「きゃーはっはっはっ」


「次はお前だっ」


「キャーーーっ」


バネッサは次々に孤児を捕獲してはくすぐっていく。孤児達も初めは怯えていたが、だんだんと嬉しそうに逃げ回っては捕まってきゃーはっはっはとくすぐられていく。


そこへ、カザフとトルク参入。


「逃げるな!おっぱいお化けをやっつけるんだっ」


くすぐられる一方だった孤児達はカザフとトルクが旗印になり、くすぐり魔王と化したバネッサに立ち向かう軍団と化す。


「ほらっ、くすぐり返せっ」


「ぎゃーはっはっはっ」


元気だなあいつら…


孤児達の事は任せて厨房でタジキに魔狼肉の処理を教えていく。


「魔狼肉はアクがたくさん出る。どんどんそれを掬え。アクは悪だ!」


今日のメニューは魔狼肉のスープとハンバーグにする予定だ。スープには薄切り肉にし、ハンバーグようにはミンチにしていく。もうチタタプ言わなくていいからさっさとやれ。


魔狼肉は不味くはないが、やや臭みのある硬めの肉だ。孤児達には食べにくいだろうから、薄切りとミンチにするのが正解だろうとタジキに教えておく。野菜も不足しているだろうから、スープにじゃがいもと玉ねぎをたっぷりと。塩味の肉じゃがみたいになってしまったがまぁいい。次はハンバーグにトマトたっぷりソースを添えてと。


結構時間が掛かってようやく完成。


「出来たぞー」


「わーーーっ」


バネッサ達とたくさん遊んだ孤児達は汗臭い。飯前に洗浄魔法を掛けておいた。ついでにバネッサとカザフ達にも。


「うまーいっ」

「美味しいっ」


「あらあらまぁまぁ、そんなに一気に食べたらお腹が痛くなりますよ」 


子供達はタジキの作った飯を嬉しそうに口から出るぐらい食ったのだった。


「マーギン、みんな嬉しそうに食ってくれたな」


「そうだな。肉は日持ちしないから余分には置いておけないから、定期的に作りに来てやれ」


「うんっ」



ー組合に向う途中ー


「子供達はとても喜んでいたな」


ロッカは魔狼の肉の一番良い使い道だったと言ってくれた。


「バネッサ、お前子供と遊ぶの上手いな」


「まぁな、うちみたいなやつらだからよ、ああやって遊んでくれる奴がいると楽しいんだよ」


なるほどな。バネッサも幼少時代にあんな事をして欲しかったのか。俺が子供の時はゲームとかあったから、親が遊んでくれなくても平気だったな。やはり自分が欲しかったものじゃないと分かってやれないんだな。



ーハンター組合ー


「あっ、お帰りなさいっ。実はこの依頼がですねぇ」


星の導き達の顔を見るなり仕事をさせようとする受付嬢。


「リル、私達は休みだ」


「えーっ 皆さんが帰って来るの待ってたのに」


「どんな依頼だ?」


「畑の魔物討伐です」


「ん?もしかしてファイティングモールか?」


「知ってるんですか?」


もう大モグラが出始めてるのか…と呟くマーギン。


「あぁ、タイベで討伐してきた。マーギンの言った通り、王都周辺でも出始めたんだな」


「そうなんです。すでに何人か怪我してまして。ロッカさん達なら大丈夫かと…」


「急ぎか?」


「急いでいるのは急いでます」


「場所は?」


大モグラが出たのは西の領地に向う村らしい。護衛訓練で通った街道から南に下った村だそうだ。


「報酬は?」


「30万Gです」


「タイベでは100万だったぞ」


「えっ?そんなに高額なんですか?」 


「ロッカ、タイベでは田んぼやため池の被害が大きくなるから高額だったんだと思うぞ。畑のみならそれぐらいかもな」


マーギンはそう口を挟んだ。


「そうか、被害の大きさが違うのか」


「農民だと討伐は無理だろうが、襲われる前に逃げたら人的被害も出ない。が、そのまま放置したら数が増える。増えたらナナイロフクロウが寄って来るぞ」 


「そうか、ナナイロフクロウが出たらまずいな」


「存在を知らなかったら討伐最中のハンターが食われるな。多分まだナナイロフクロウに対処出来るやつおらんだろ?」


「そうだろうな…」


ロッカも自分達でも難しいかもしれないと思った。


「ま、そんなにすぐに大モグラが増えるわけじゃないから、ちい兄様達が復帰してから一緒に行けばいい。他にも一緒に行くハンターがいれば討伐方法をバネッサが教えてやればいい。慣れりゃそう難しい魔物じゃない」 


「うちはもう討伐出来るぜっ」


なんせ尻に大モグラセンサーが付いたからな。


「オルターネン様は明後日に来るんだったな」


「目的は俺との話だろうけど、朝に来てくれたらすぐに終わる。その後行くなら俺も同行するわ」


「来てくれるのか?」


「特務隊にも大モグラ討伐して欲しいからな。鎧を着ていたらいくらやられても平気だろ」


「それもそうか…」


「もしかしたら鎧の音で逃げられるかもしれんけどな。そうなりゃ脱いでもらって自ら体験してもらえばいい。俺が同行してたら怪我しても大丈夫だ」


「という事だ。その依頼を受けるが出るのは明後日以降になる」


「お、お願いします」


話が終わったようなのでロドリゲスを呼んでもらう。



「おっ、帰って来やがったか。実は厄介な奴がいてな」


「モグラだろ?」


「何だもう聞いたのか?」


「今な。それはロッカ達が受けた。俺から報告があるけど、ここでしようか?」


「部屋に来い」


皆でぞろぞろと組合長室に。


「まずは、組合長から依頼があった黒ワニの皮だ」


でんっと、テーブルに丸めた皮を置く。


「デカいな…」


「それと、珍しい奴を持って帰ってきたぞ」


ドサッ


「こ、こいつはまさか…」


「知ってんの?」


「文献にしか残ってないぞ。ラプトゥルだなこいつは」


「そう、ラプトゥル。タイベの森で3頭仕留めた」


マーギンはタイベでの出来事をロドリゲスに話した。


「まずいな…」


「ラプトゥルは元々南国の魔物だから、この辺で出始めるのはもっと後だとは思う。大モグラもタイベでは前から出ていたみたいだしね」


「しかし、いずれは出るんだな?」


「そうだろうね。でもラプトゥルぐらいなら慣れたら倒せるよ」


と、説明すると、慣れるまでに死ぬだろうがっと怒られたのであった。

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