王都に戻るまで その6
「マーギン、カザフ達はどこに預けたのだ?」
ロッカに体術の基礎を教えているとカザフ達の事を聞かれた。
「あーーーーっ」
突如大きな声を上げるマーギン。
「迎えに行くの忘れてたっ」
朝に迎えに行くつもりだったのに、ホープの稽古があったからすっかり忘れてた。
「ごめん、ガキ共を迎えに行ってくるっ」
マーギンはそう言い残してシュンッと消えたのだった。
「マーギンはあんなに足が速いのか」
オルターネンが驚く。
「あいつは大男3人乗せた荷馬車を引っ張って走っても、うちより速かったからな」
「マジか?」
「マジマジ… あっ本当です。うふっ」
もうとっくにバレているのにオルターネンの前でぶりっ子をするバネッサ。
ーケンパ爺さんの家ー
「婆ちゃん、ガキ共は?」
「爺さんの収穫を手伝っとるよ」
ガキ共は早朝からじゃがいもの収穫を手伝っているらしいので畑に向う。
「うはははっ 見ろカザフっ。俺のはこんなにでけぇぜっ」
「こっちはこんなにたくさん入ってたんだぞっ」
タジキとカザフの収穫自慢。それに加わっていないトルクは二人が掘り残したのがないか確認して、結構いいサイズのじゃがいもを掘り起こしていた。
こうしてじゃがいもの収穫ですら楽しめるガキ共。農家もやれそうだな。
「おー、マーギンも手伝いに来てくれたのかの」
「今日はどこまで収穫すんの?」
「ここからここまでの畝じゃ」
魔法ならすぐに終わるんだけど、ガキ共が楽しんでやってるからそれが終わるのを待ってやることに。
「トルク、お前も掘り残しだけ掘ってても楽しくないだろ?新しいの掘ってこい。掘り残しの奴は俺がやってやるから」
「いいの?」
「いいぞ。カザフ達と競争してこい」
「うんっ♪」
そりゃ、茎を引っ張ってボゴっと取れる方が楽しいからな。掘り残したやつの方がでかかったりするけど。
マーギンはガキ共が掘ったじゃがいもを箱に詰めていく。大きさ別に分けておこう。
「爺ちゃん、ちっこいのは売り物になるのか?」
「それは売れんから家で食べるようじゃな」
売り物になる大きさの基準を聞いて、それ以下のはひとまとめに。
ちっこいのも多いな。後で素揚げと煮っころがしにするか。
ガキ共が今日の収穫分を掘ったところで終了。マーギンはガキ共に離れとけと言って、掘り残しを魔法で一気に収穫した。
「おっ、デカいの出てきたぞ」
まだそこそこ掘り残しがあり、一番大きいのを掘ったのはマーギンだった。
「魔法で収穫出来るのかよっ」
「そうだぞ。お前らが楽しそうにやってるから、終わるまで待っててやったんだ」
カザフ達はなんか複雑な気持ちになった。魔法ってずるい。
収穫したじゃがいもは日の当たらない納屋へ。光が当たると緑色に変色して毒持ちになってしまうのだ。
「じっちゃん、ちっこい芋を料理していいかな?」
「少し寝かしておかんと旨くはないぞ」
「採れたては採れたての旨さがあるからね」
そう言うと好きなだけ食べていいとのこと。
カザフ達にじゃがいもを洗わせて、下準備完了。
「皮剥かなくていいのか?」
「ちっこいし、採れたてだから別にこのままでいいぞ」
タジキに素揚げを揚げさせる。
「これでいいのか?」
「そう。シンプルイズベストだ。塩かけて食え」
爺さんも婆さんも一緒に食べ、マーギンは煮っころがしに取り掛かる。水から茹でていき、水分がある程度飛ぶまで茹でて砂糖投入、そしてもう少し水分が飛んだら醤油投入。完全に水分が飛んだら完成。
「爺ちゃん達はこっちの方が好きかもしれないね」
「おほほっ、じゃがいもがこんなに旨くなるとはのぅ」
揚げ芋より煮っころがしを喜ぶ爺さんと婆さん。
「お前らにはちょいと味付けを変えてやるよ」
揚げ芋を旨々と食べているガキ共。残りの煮っころがしにバター投入。
「こっちの方が旨えっ」
「だろ?じゃがバターってやつだ。焼きじゃがでも同じ味の食っただろ?」
「こっちの方が旨いぞ」
「甘みも足されてるからかもしれんな」
そして毎度のごとく口から出るぐらいじゃがいもを食ったガキ共。
「ロッカ姉達にも食わせたかったよな。魔物討伐にでも行ってるのか?」
「あーーーっ」
ガキ共を迎えに行ってくると言ったから向こうで待ってるかもしれん。
マーギンは自分が歳食ってボケ初めたんじゃなかろうかと思ったのであった。
ー翌朝ー
村人に盛大に見送られてゾロゾロと出発。大勢の村人から騎士様ありがとうございましたっ!と口々に言われ、オルターネンは手を振って答えた。そしてホープは村人達の感謝の声が心に痛く感じていたのだった。
ー王都ー
「旅も楽しかったがよ、こうやって戻って来るとなんかホッとすんぜ」
と、バネッサ。
「そうだな。今日はこのまま解散でいいな?明日そっちに行くわ。預かってる報酬を山分けしないとダメだしな」
「そうだな。私達も明日はゆっくりするつもりだ」
「ハンナはそっちに泊めてやるのか?」
ロッカ達は顔を見合わせる。ハンナリーを泊めると誰かが相ベッドになるのだ。さすがに2ヶ月ちょいの間、テント生活だったので、今日はゆっくりと寝たいと思うのが人の心というもの。
「マーギンの所でいいだろう」
ひでぇ、ロッカの野郎押し付けやがった。ここで嫌だと言ったらハンナリーは悲しむだろう。「しょうがない。うちに泊まれ」と言ったマーギンはソファに寝ることが確定した。
「マーギン、泊まったってもええけど、おいたしたらあかんで」
「するかっ」
アイリスが代わりますよと言ったのに、ハンナリーはええからええからとマーギンの家に泊まる方を選んだ。飯が目的なのだろう。
「マーギン、我々は2日程休む。その後お前の家に向う」
オルターネンは2日休んでから来るらしい。多分サリドンに攻撃魔法を教えるのが目的だろう。
「かしこまりました、ちい隊長」
「やめろっ」
オルターネンはマーギンにちい隊長呼ばわりされ、イラついた腹いせにホープを蹴飛ばし、走れっと命令していた。これが「鮮血のちい隊長」の二つ名を騎士隊に言いふらされる原因となる事はまだ知らない。
解散したあと家で晩飯にする。タジキも疲れているようなのでマーギンが作ることに。
「トルク、ハンナに風呂とトイレの使い方を教えてやってくれ。特にトイレの事をな。パンツ下げたまま出て来たら、そのままの姿で外に放り出すと言っておいてくれ」
マーギンは学習した。ハンナリーもやらかしそうなので、先に手を打っておいたのだ。
そして料理に取り掛かる。毎日元気いっぱいに走り回っているガキ共。タンパク質をたくさん取らせれば筋肉になっていくだろう。
あまり使っていない鶏の胸肉をミンチにして、刻み玉ねぎと共にトマトソースを作る。少し甘みを足してやるかと思いつつ、村でもらったトマトを味見。
「おっ、旨いなこのトマト」
魚粉肥料が効いているのかもしれんな。これは生でも食べなくては。
マヨか塩だけでもいいけど、タイベの白いチーズを薄切りにして、スライストマトの間に挟んでオリーブオイルと塩で味付け。久々にワイン飲んじゃお。ならパンはハードパンのガーリックトーストだな。マーギンはせっせと自分の食べたいものを準備していく。
ハンナもガキ共も風呂から出たようなのでオムレツを焼いて行きますかね。卵白と黄身を分けて、卵白のみ泡立てて黄身と混ぜて、バターを溶かしたフライパンで、よっほっ。うむうむ、上出来である。
「出来たぞ。1人ずつ順番に焼くから喧嘩せずに食べろ。追加はすぐに…」
どんどんっ
「誰か来たっ」
カザフがノックされた扉を開けると星の導き達が…
「リッカちゃんの食堂が混んでて入れなくてな。ここは空いてるか?」
「あのなぁ、うちは食堂じゃねーんだぞっ」
「あっはっは、すまんすまん、大将、今日のオススメはなんだ?」
「オムレツだよっ」
2ヶ月程ずっと一緒だったから、離れてちょっと寂しくなったのか、星の導き達も飯を食いに来たのだった。マーギンはお代わりっ!というみんなの為に延々とオムレツを焼き続けたのは言うまでもない。
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