本音
マーギン達は村に戻って、崩落してしまった廃坑の事を報告する。
「ほ、崩落したじゃとっ」
「もういつ崩れてもおかしくない状態だったよ。危うく俺達も巻き込まれるところだった」
自分達が崩落の引き金を引いた事は言わない。あの事は誰も見ていないのだ。
「で、ではもう鉱山として再開発は…」
シスコにボロカスに言われても爺さん達はまだ鉱山に未練があったのだろう。
「もし再開発の話が本当に進んでいたら、爺さんたちが生き埋めになったか、閉じ込められて死んでいた可能性がある。一度廃坑になった鉱山の坑道を金かけて補強するとも思えないしね。それより、魔物の巣が無くなったと思ってくれた方がいいよ」
と、マーギンは良いことをしたかのように伝えたのであった。そして翌日に魔桑木の場所に案内してもらう約束をした。
ーロッカ達のテントー
「なぁ、ロッカ。魔鉄を手に入れて何をするつもりなんだよ?」
今日はハンナリーがマーギン達のテントに行っているので、このテントは星の導き達だけだ。
「なっ、なぜそんな事を聞くのだっ」
「それ、売るつもりじゃねーんだろ?」
「わ、分前なら払うぞ」
「別に金を払えなんて言ってねぇだろ。なんで欲しかったのか聞いてんだよ」
「べべべべ別に欲しかっただけだ」
どもるロッカ。
「おっちゃんの所にはマーギンがくれた魔鉄がまだあるじゃねーかよ。ロッカの剣も新しく魔鉄のやつになったのにもう必要ねぇじゃん」
「別に欲しくなるのに理由なんてどうでも良いではないかっ」
「いいから教えろよ。また拗ねるぞ」
拗ねて迷惑を掛けた奴の言い草とは思えない脅し方をするバネッサ。そういう事をするから反感を買うのだ。
「バネッサ、しつこいわよ」
「だってよぉ〜、気になるじゃねーかよ」
「ロッカも言いたくないこともあるのよ。ほら、魔鉄でトレーニング用バーベルとか作ったりしてもっとムキムキになりたいとか言いたくないでしょ?」
「誰がムキムキだっ。魔鉄でバーベルなんぞ作るかっ」
ムキムキと言われて怒るロッカ。
「あら、違ったの?じゃあ、何をするつもりだったのかしら?」
バネッサにしつこいと言いながらも、実はシスコも気になっていたのだ。
「シスコ、お前まで聞くのか…」
「はい、私も知りたいです」
アイリスも参加する。そして3人から子犬がオヤツをねだるような目で見つめられるロッカ。
「わ、笑うから言いたくない」
「笑わないわよ。ねー?」
と、シスコが同意を皆に求めるとウンウンと頷き、また見つめる。
「絶対に笑うなよ」
「ウンウン」×3
「いいか、絶対にだぞ」
ここまで言われると、もはや笑えとのフリではなかろうかと思うシスコ。
3人が尻尾をブンブンと振ってマテをしてロッカを見つめる。そしてロッカは諦めたように話しだした。
「はぁ〜、これはなぁ、もし私に子供が出来てその子供が剣を欲しがったら、その素材にしたいと思ったのだ。まぁ、私には無理だろうから、その時はロックの子供にでもやればいいと思ったのだっ。どうだっ、これで満足したかっ」
そう言って3人をキッと睨んだ。
「ロッカ…」
シスコが呟く。
「笑いたければ笑えっ」
「笑わないわよ。それよりロッカがちゃんと乙女していてよかったわ」
マーギンなら、誰に産ますんだ?とかデリカシーに欠けた事を言いかねないが、シスコはちょっとホッとしたような顔をしていた。
「何が良かったのだ?」
「ロッカがそういう事を考えていたのが分かって良かったと思ったの」
「なぜだ?」
「ほら、マーギンも言っていたけど、私達は女じゃない?いくつまでハンター出来るのかなって思ったの。ロッカがこのままずっとハンターをすると言っても多分私は付き合えない。バネッサはどうするか分からないけどね」
「まさか、この旅が終わったら抜けるのか?」
「そんなすぐにじゃないわよ。仮にあと3年ハンターをしたら、ロッカは25歳、私達は23歳。結婚して子供を持ちたいならそれぐらいまでが限界かなって。もしロッカが先に抜けたら私も続けるのは無理。バネッサが抜けても無理。だけど、自分が25歳を過ぎて続けるのも無理。だからロッカが子供が欲しいと分かって嬉しかったの」
「そんな事を考えていたのか?」
「考えないようにしていただけじゃないかな。この楽しい時間がいつ終わるのかとか考えたくないじゃない」
シスコは珍しく本音で語る。
「シスコは結婚する予定があるのか?」
「無いわよ。でも、相手を見付けられないままだと、無理やり結婚させられるかもしれない」
「お前、それが嫌で家を飛び出したんじゃねーのかよ?」
「そうよ。でも父と上手くいってなかったとはいえ、捨てる事は出来ないわ。自分で結婚相手を見つけられなかったら私の負けね。その時は諦めるしかないもの」
「何だよそれ…」
「あなたは子供時代不遇だった分、今は自由があるわ。結婚するもよし、ハンターを続けるのもよし。今となっては少し羨ましいわよ」
「別に飛び出したんだから、家なんてどうでもいいだろうがよ。羨ましいとか言ってねぇで、好きにすりゃいいじゃねーか」
「それが出来たらこんな話はしないわよ」
「みっ、皆さんあと3年しかハンターをしないんですかっ」
まだ成人したてのアイリスがあわあわする。成人したといっても、満年齢13歳のアイリスの人生は先の方が長い。
「あなたは大丈夫よ。私達がハンターを辞めても、マーギンがしょうがねぇなぁとか言って飼ってくれるわよ」
飼うとか酷い言い草のシスコ。
「うちはどうすんだよっ」
「バネッサもマーギンが飼ってくれるわよ」
「なんでうちが飼われなきゃなんねーんだよっ」
「ほら、マーギンって動物好きそうじゃない。ハナコも可愛がってたし。野良猫と捨て犬ぐらいなんとかしてくれるわよ」
酷い言い草のシスコになんだとてめえっといつもの喧嘩が始まるのだった。
ーマーギン達のテントー
「なんや、えらい向こうのテントはしゃいでんな」
「ったく、村の中で騒ぐなってんだ。ほら、あんな声を聞いてたら耳が腐るぞ。早く寝ろ」
マーギンはそう言って皆を寝かせるのであった。
ー翌朝ー
「お前ら引っ掻き傷だらけじゃねーかよ」
相当酷い喧嘩をしたようで、シスコとバネッサは引っ掻き傷だらけだった。二人の顔にペタペタと触るように治療していくマーギン。
「喧嘩とか下らん事で治療魔法使わせるなよ。ロッカもこんなになるまで放置するな。人の村の中だぞここは」
「す、すまん。まぁ、時々こうしてガス抜きをしたほうが良い事もあるかと思ったのだ」
ロッカは本音で話をしてぶつかり合った2人を好きにさせてやろうと思って止めなかったのだ。
「喧嘩の原因は?」
「い、言いたくない」
自分に子供が出来た時の為に魔鉄が欲しかったと皆に話したのがきっかけだとはマーギンに知られたくないロッカは口をつぐんだのであった。
マーギンも喧嘩の原因を知ってどうなることでもないかと思い直し、村人の所に行き、魔桑木の所に案内してもらった。
「一本だけか」
案内された場所には大きくはあるが、魔桑木が1本だけ。これだとあまり魔蛾も寄って来なさそうだ。魔蛾が集まるのは魔桑木が群生している場所なのだ。
「どれぐらいの頻度で魔蛾を見る?」
「時々です」
そうだろうな。
本当に養蚕するなら魔桑木の林を育てる所から始めなくてはならない。随分と気の長い話になる。
「どうしたのかしら?」
「いやな、魔カイコの養蚕を始めるなら、魔桑木の林を作る所から始めないとダメだな。もう少し群生してるのかと思ってたんだよ。で、その周りに魔桑木を増やしていけばいいかと思ったんだけど、これはイチからやらないとダメだ。まともにやったら数年単位でも無理だ。10年以上は掛かる」
「まともにということはまともじゃない方法もあるのかしら?」
「うーん、有るには有るけどな。ライオネルで討伐した魔狼の魔結晶が20ぐらい残ってるだろ?」
「えぇ、そうね」
「あれ全部使ってもいいか?売れば600万Gくらいになるだろ?」
「それを使えばなんとかなるのかしら?」
「まぁな。それでも林になるのは数年掛かるぞ」
「うーん、私の取り分は全部使ってもいいけど…」
「うちも別にいいぜ」
「私も魔鉄を手に入れたから構わん」
「私も構いませんよ」
と、星の導き達は全員OKを出した。
「了解だ。カザフ、お前らとハンナで魔桑木の枝をこれぐらいのサイズで取ってきてくれ。全部で20本な。切ったら下に落としてくれればいいい」
身軽な4人に魔桑木の枝を切ってもらった。
「この辺りを魔桑木の林にするが問題はないか?」
と、村人の青年に聞く。
「別にいいけど」
マーギンは魔桑木の枝を地面に挿していく。そして木の間に魔狼の魔結晶を埋め、全体に水を出して濡らした。
「これで育つのかしら?」
「まだだ。今から地面に魔法陣を描く」
マーギンは魔桑木の枝を地面に挿した範囲に魔力を使った魔法陣を描いていく。結構時間が掛かるのだ。
「タジキ、俺はまだ掛かるから皆の飯を作ってくれ。俺にはおにぎりとか手に持って食える物を頼む」
タジキに飯を作らせている間もマーギンは魔法陣を描き続ける。
「はい、マーギンの分」
「おっ、トルクありがとうな」
「マーギンは魔法陣を描いてるの?」
「そうだぞ」
「何も見えないよ?」
「これは描いている本人にしか見えないからな」
「僕も出来るようになる?」
「そうだな… 多分出来るようになる。けど、みっちり勉強して覚えないとダメな事が多いから、本当に興味がないと面倒臭いぞ」
「教えて欲しいって言ったら教えてくれる?」
「将来ハンターと魔道具の回路師とどっちになりたい?両方一度に覚えるのは大変だし、俺もその時間が取れんかもしれん」
「うーん、まだわかんない。でも先にハンターかな」
「そうか。ならハンターになって余裕が出てくるようなら教えてやるよ」
「うん」
おにぎりを食べ終えて、マーギンは夕方近くまで掛かって魔法陣を描きあげた。他の皆は待ってるのが退屈だからとハンナリーに軽くラリパッパを掛けてもらって踊って愉しんでやがった。まぁ、手伝って貰うこともないから構わないけど。
「完成?」
終わった様子のマーギンにシスコが聞きに来た。どうやらシスコは踊らずにマーギンのやっていることを見ていたようだ。
「あぁ。今から魔法陣を起動させる」
マーギンは魔法陣に魔力をゆっくりと注いでいくと、地面に刺さった魔桑木が少し伸びていく。その様子を見ながら腰丈になる程度まで育てたのだった。
「はぁ、疲れた」
自分を鑑定しても魔力値はエラー表示のままだ。かなり魔力を使ったはずだけど俺の魔力量は底なしだな。
「もう終わりかしら?」
「そう、これで数年で林になると思う」
「魔法って凄いわね。これならもっと一気に育てられないのかしら?」
「それをやると土が死ぬからな。そのまま枯れて終わりだ。埋めた魔結晶がかなり栄養の代わりになってくれたはずだけど、土にもかなり負担を掛けた。これが限界だと思うぞ」
「へぇ、魔法の知識だけじゃなしに、そういう知識も必要なのね」
「まぁな。魔桑木は魔木だから魔結晶を肥料代わりに使えたけど、普通の木なら土の栄養だけを一気に使うからあまり使えない魔法だ」
「果物の木とか育てるのに便利だろうなとか思ったんだけど、それならダメね」
「まぁ、使えるとしたら、挿し木で増える木を根付かせるくらいまでだな。あんまり使い勝手の良い魔法じゃない」
この魔法は米の品種改良をする時にミスティが開発したものだ。初めはなぜ育っている最中に枯れてしまうのか原因がわからなかったのだ。
「魔桑木が魔カイコの餌になるには3年くらい掛かると思う。それまでは今までと同じ生活になるけど大丈夫か?」
と、良く意味が分かってなさそうな村の青年に聞く。
「本当に3年後にはなんとかなるのか?」
「秋にもう一度様子を見に来る。その時に順調に育ってたら多分大丈夫だ」
と、いうことで魔カイコの養蚕の足掛かりはこれで終わり。今晩は村に泊まって、明日から領都を目指そうということになったのだった。
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