そういう事は気付くのね
元鉱夫の村を出発して領都を目指す。
領都まで街道があるのであまり移動に気を張らなくて済む。街道からいくつも細い道が分岐しているので、あちこちに集落があるんだろうな。
「ロッカ、今晩寝る場所どうする?街道沿いで野営するか、それともどこかの村の中でテントを張らせてもらうか?」
「そうだな、村に寄るか。その方が気兼ねなく寝られる」
と言うので広い畑のある村に向かった。あまり小さな村だとめっちゃ警戒されるか、ワラワラ寄って来て話に付き合わされるのだ。
村に入って何処かにテントを張らせてもらえないか聞く。
「皆さんがハンターならファイティングモールは倒せませんか?」
テントを張るのは構わないが、その代わりファイティングモールの討伐をしてくれないかと聞いてくる。
「この前、ハンター組合に依頼の出ていたファイティングモールの討伐は100万Gの報酬でやったんだぞ。ここの村にテントを張るだけで100万Gの価値あんのか?」
「この村にはそんな費用は用意出来ないから困っているのです。倒せるなら何卒っ 何卒ぉぉっ」
この村人は討伐報酬の相場をわかってて言って来たのか。
「ここの村の名産はなんだ?」
「各種野菜とサトウキビです」
「ならサトウキビをいくつかもらおうかな。まだ絞ってないのあるだろ?」
「そ、そんなんでいいのですか?」
どうやらダメ元でお願いしてきたようだが、マーギンがサトウキビで受けると言った事に驚いていた。
「マーギン、お前はライオネルでは安値で受けてはダメだと言っていたではないか。ファイティングモール討伐に私達はかなり苦労したのだぞ」
ロッカが自分達に言った事と違うではないかと言う。
「だからこれは俺が一人で受ける。サトウキビの分前はやらんからな」
「そんな事を言っているのではないっ」
「俺は受けたくない時は受けないと断れるからな。ロッカ達はそれが出来ないだろうから断らせたんだよ。それと目的は他にある」
「何が目的なんだ?」
「ロッカやバネッサが一人でファイティングモールを倒す方法を教えておく。多分、王都近辺でもファイティングモールが出始めるからな」
「かなりすばしっこいのだぞ。バネッサでも接近戦を苦労したのだからな」
「知ってるよ」
と、マーギンは笑った。
「俺はシスコの矢で仕留められると思ってたんだよ。それで無理なら接近戦でやるしかなくなる。シスコが仕留められない奴を他の弓使いが仕留められるとは思えないからな。星の導きが接近戦での仕留め方を覚えておいたら、他の奴らにも教えてやれるだろ?」
「やり方があるならマーギンが教えればいいではないか」
「王都のハンターが俺に言われてやると思うか?餌にされるかと疑うに決まってんだろ」
と、笑ったマーギンはファイティングモールの穴を探しに行ったのだった。
そして待ち作戦は面倒なので、ロッカ達がやった大ミミズで誘き寄せ作戦を使わせて貰う。
ー日没後ー
「おっ、来たから行って来るわ」
大ミミズを使った誘き寄せ作戦は素晴らしい。大モグラ討伐は待つのが一番面倒なのだ。
「うちも行く」
「また尻をやられるかもしれんぞ」
「遠くから見てたらお前が何をするかわかんねぇかもしんねぇだろ」
と、バネッサが付いて来た。マーギンはバネッサの短剣を1本借りる。これで仕留めるのが一番分かりやすいだろう。
二人で大モグラにそっと近付くとサッと穴の中に引っ込んでしまった。
「逃げられたぞ」
「大丈夫だ。穴の中でこっちの様子を伺っている。お前もある程度気配を探れるだろ?土の中に意識を集中してみろ」
バネッサはマーギンに言われたとおり、土の中に意識を集中して気配を探る。
「ケツの傷が
かっこいいような悪いようなセリフを吐くバネッサ。どうやら大モグラの気配を掴んだようだ。
「バネッサはここでじっとしとけ」
マーギンは逃げた穴を覗き込むようにする。
ボコっ バシッ
マーギンは大モグラの尻叩き攻撃をわざと受けてうしろを向く。そしてモグラが次々と穴をあけていき、バネッサが追い込まれた時と同じ状況を作った。次に大モグラが逃げた穴の方を向いた瞬間、
ドスっ
シパっ
「はい、終わり」
「なっ、なんだよそのやり方はよっ」
「お前、何回か尻叩き攻撃受けたならこいつの習性に気付けよ。こいつはうしろからしか攻撃して来ない。逃げたのを追ったら必ずうしろから攻撃してくる。それが分かってりゃうしろにいても蹴り上げることぐらい出来るだろ」
マーギンはうしろから飛び出したモグラを踵で蹴り上げて、逃げ場のない空中に浮かせて斬ったのだ。
「あんな簡単に…」
「戦う魔物の習性を知ってれば簡単に倒せる事もある。おっと、パラライズ!」
ドサッ
ー離れて見守るロッカ達ー
「マーギンがバネッサと同じようにやられているわよ」
ナイトスコープを覗き込んでいたシスコがそう言うと、ロッカが見せてくれとナイトスコープを手にした。
「あっ…」
ちょうどロッカが見た時にマーギンは踵で大モグラを蹴り上げて斬った瞬間だった。
「どうしたの?」
「あんな簡単に… 見てくるっ」
ロッカは討伐が終わったマーギンの元へ駆け寄った。他の皆も続く。
「マーギンっ」
「終わったぞ」
ロッカの呼びかけに答えたマーギンは明かり魔法で照らした。
「ゲッ、でっかいカラスが死んでるっ」
カザフがマーギンの足元に倒れている物を見てそう叫ぶ。
「これはカラスじゃないぞ。ナナイロフクロウだ。モグラじゃなしにバネッサを狙って来やがった。モグラより旨そうだったんだろうな」
そう言うとバネッサは胸を両手で隠す。
「てっきりうちにパラライズを掛けたのかと思ったんだからなっ」
「あのなぁ、お前らが大モグラの討伐を受けた時にナナイロフクロウに気を付けろと言っておいただろ。お前一人なら連れ去られてたんだからな。この足を見てみろ」
マーギンに言われて皆がナナイロフクロウの足を見る。
「すっげーデカイ爪だなコイツ」
「だろ?バネッサぐらいなら掴んで飛べる。こんな爪にガツッと掴まれたら脱出不可能だ。恐らく掴まれた肩とかも砕けるから、何処かに運ばれて抵抗出来ないまま食われる」
そう言うとバネッサの顔からサーっと血の気が引く。
「マーギン、こいつはまだ殺してないのか?」
「そう。痺れさせているだけ。ナナイロフクロウって剥製にしたら高値で売れるはずなんだ」
「確かに珍しいが、こんな黒い羽の魔物が売れるのか?」
「こいつは羽の色を変えると言っただろ?通常は黒や茶色、もしくは緑と茶色が混ざった羽色をしている。これだと高くは売れないな」
「今は黒ではないか」
「そう。だから綺麗な羽の色に変えてから殺る」
「は?」
「シスコとハンナ、何色がいい?」
「えっ?私に聞くの?」
「うちにも?」
「そう。こいつはお前らにやる。好きな色を選べ」
「マーギン、どういうことかしら?」
「うちも意味が分からんねけど」
「王都に店を構える予定にしてるだろ?こいつを剥製にして看板代わりにすればいい。フクロウは幸運を呼ぶとも言われているからな」
「ハンナは分かるけど、どうして私に聞くのかしら?」
「シスコはハンナを手伝ってやるつもりなんだろ?流通メインだったらハンナと海賊でなんとかなると思ってたけど、王都に店を構えるならこいつだけじゃ無理だからな。しっかり面倒見てやれ」
「えっ?えっ?」
わけが分からないハンナリー。
「どうしてそう思ったのかしら?」
「クズ真珠の買取価格を教えてくれただろ?お前が自分事として売値や仕入れ値とか考えてくれてたんだなと思ったんだ。俺は化粧品とかの値段とか知らんからな。分かるのは食料品と魔導具ぐらいだ。それに魔カイコの養蚕が成功したら、糸や生地、服を扱うかもしれん。お前の頭の中にはもうそれが試算されてんじゃないのか?」
「はぁ〜、あなたそういう事は気付くのね」
「今から色々と準備を始めて、王都の店をオープン出来るのは3年後とかになる。それまでの準備はハンナがやればいい。全部の体制が整う頃にはハンター稼業も一区切り付く。その時にハンターを続けるなら続ければいいし、引退するならその店をハンナとやればいい。まぁ、これは俺の勝手な考えだから、後は自分で好きに決めてくれ。で、フクロウはどうする?別にいらないか?」
「マーギン…」
シスコは少し目に涙を溜めてマーギンを見つめた。
「なっ、なんだよ。余計なお世話だったか?」
「ううん、ありがとう」
シスコは素直にお礼を言ったのだった。
そしてシスコとハンナはナナイロフクロウをピンクにして欲しいと言ったので、マーギンはピンク色の大きな宝石を2つ出した。
「今からフクロウの色が変わるからな」
ナナイロフクロウの両目の前でピンクの宝石に明かりを通して照らす。
サーーーーっ
ナナイロフクロウの羽がまるでピンクの宝石のように変わっていく。
バチィィィツ
マーギンは色の変わったナナイロフクロウに電撃を食らわせて仕留めた。
「ほい、完了。これで無傷だ。後は剥製職人に剥製にしてもらえ。その金は自分達で払えよ」
皆からどんな感じになるか立たせてみようとなり、起き上がらせる。
「まるで宝石で出来たフクロウみたいね」
「ホンマや、めっちゃ綺麗やん」
シスコとハンナは気に入ってくれたようだ。皆もなんて美しいフクロウだと褒めている。
しかしマーギンはピンクになったナナイロフクロウを見て、グーグーと鳴くガンモみたいだなと思っていたのであった。
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