分別されるロッカ

翌朝、廃坑に向かった。


マーギンはガキ共とアイリスに魔力を使った電磁石みたいな物を引っ張らせることに。アイリスには両足首にベルトを付けて紐で括り付け、ガキ共には腰から1つだけ括った。


「なんですかこれ?」


ガキ共には説明済だがアイリスには説明していない。


「体力トレーニングの一種だ。これを引きずってあるけ」


魔力磁石の大きさは手のひら程度。


「こんなのを引きずって歩いてトレーニングになるんですか?」


「余裕だろ?」


「はい。これぐらいなら」


「歩けなくなったらタイベにいる間、俺のテントに寝に来るの禁止な」


「えーっ」


「歩ければ問題ない。えーっとか言うな」


「ちゃんと歩ければ毎晩寝に行ってもいいんですね?」


「毎晩は来るな。お前は星の導きの一員なんだからな」


「えーっ」


「ちゃんと歩けば済む話だ。いちいち、えーっと言うな。今後えーっと言ったら飯も食わさんからな」


「えー… わかりました…」


危うく即座にえーっと言いかけたアイリスはギリ留まったのであった。



「ロッカ、お前ら吸血コウモリを見たことがあるか?」


「コウモリはあるが、吸血コウモリかどうかまでは知らんぞ」


「見た目は普通のコウモリとあまり変わらん。違いはこっちに向かって飛んで来るのと、吸血コウモリにはキバがある。今回討伐するのは吸血コウモリだけだ。吸血コウモリそのものは毒持ちじゃないけど、バイキンだらけだったり、病気を持ってたりするから噛まれるなよ」


「見分けがつきにくいなら普通のコウモリだろうと狩ればいいんじゃねーのか?」


と、バネッサが全部狩れよと言ってくる。


「普通のコウモリは蚊とか嫌な虫を食ってるんだよ。コウモリを狩り尽くすとそういう虫が増えるかもしれん。まぁ、廃坑以外にもコウモリはいるからそんなに心配する必要はないかもしれんけど。なるべく吸血コウモリだけやるようにする。俺が冷やして落とすから、見分けが付くようなら吸血コウモリだけを殺ってくれ」


「実物見せて教えろよ」


「わかってる。あと下手したら坑道が崩れる可能性も否定出来ないから俺が斥候をやる。俺より前に出ないでくれ」


「わかったよ」


どことなく素直なバネッサ。てっきり、うちがやってやんぜっとか言うと思ってたのに。



そして廃坑の入口からライトの魔法で照らしながら入って行った。


「マーギン、あんまり臭くないねー」


「だな。風が流れている感じはないから、通気口が有るんじゃなしにスライムが大量発生してるかもしれん。皆も水溜りに気を付けてくれ、水溜りはスライムの可能性が高い」


スライムと聞いてビクッとするバネッサ。水に包まれたのがトラウマになっているようだ。


ロッカ達にもロックワームの穴を探すように伝えたので、地面や壁を見ながらゆっくりと進んで行く。


「崩落防止の木がボロボロだな」


ロッカが天井を見てそう言う。


坑道は木の屋根や壁で崩れないようにしてあったみたいだが、すでに腐っているのだろう。


「そうだな。おっと、多分、この先にコウモリの溜まり場がある」


「どこだ?」


「前に少し開けた所があるだろ?あそこから木の補強がなくなってるから、天井が高くなってると思う。冷気を出してコウモリを落とすけど、なかにはそれを避けて飛んでくるやつがいるかもしれん。慌てずに対処してくれ」


「見分けが付かなくても斬るのか?」


「向かって来るやつは間違えてもいいから斬ってくれ。躊躇して噛まれるより全然いい」


マーギンは明かり魔法を皆のところにだけ灯しておいて、暗闇の中に消えていく。明かりに驚いたコウモリが散らばらないようにするためだ。


ドサドサドサドサ…


マーギンがいるであろう所から何かが落ちる音が続いた後にパッと明るくなる。


「終わったぞー。まだ生きてるから見に来てくれ」


マーギンが皆を呼んだので移動する。


「こいつらが吸血コウモリだ。普通のが混じってるかもと思ったけど、他の奴はいなかったわ」


マーギンは皆にそう説明した後に魔力弾で全てをチュドドドと殺していった。


「魔法で殺すなら燃やした方が早いんじゃなかったのか?」

 

と、カザフが聞く。


「こういう場所で火魔法は使わない方がいいんだよ。多分大丈夫だとは思うけど、ガスが溜まってたら爆発するからな。ガスが無くても細かい粉が大量に飛んでたらそれが爆発することもある」


「粉なら何でも爆発するのか?」


「どうだろうな?俺も聞いた話だからな。小麦粉とかでも爆発するらしいぞ」


「へぇー、今度やってみようぜ」


「なんでだよ、危ないだろうが」


男の子は燃えたり爆発したりするものが好きなのは世界が変わっても同じなんだなとマーギンは思う。自分もそうだったからだ。


そして手袋をして吸血コウモリを持って、他のコウモリには無い牙とかを見せてレクチャー終了。


「ロッカ、ロックワームを探すつもりだけど、あんまり奥までは行くのやめとこう。狭い場所でなんか出てもロングソードだと対応出来ないからな。それと、崩れたら生き埋めになる。パラパラと土が落ちて来るからヤバそうだ」


「ロックワームは入口付近にはいなさそうか?」


「まだロックワームの穴はなかったしな。もう少しだけ奥に入って聞き耳立ててみるか?」


「うむ、そうだな。しかし、本当にヤバそうなら言ってくれ。すぐに退避する」


「了解。じゃもう少し進むぞ」


と、代わり映えしない坑道を進んでいく。



「アイリス、遅れてるぞ。もっと早く歩け」


ロッカが歩くのがどんどん遅くなってきたアイリスに遅いと注意する。


「お、重いんですっ。初めは軽かったのに」


「何が重いのだ?」


アイリスは引きずっていた魔力磁石を指差した。


「そんな大きな物だったか?」


「いつの間にか大きくなっていたんですっ」


アイリスの魔力磁石は鉄鉱石のカスをたくさん纏わりつかせて鉄球のようになっている。まるで足かせに鉄球を付けられた囚人のようだ。


「マーギンっ いっぱいくっついて来たぜっ」


「砂鉄ならそれぐらいあれば足りるんだけどな、鉄鉱石のカスだからまだ足らんと思うぞ」


「マーギン、鉄鉱石のカスを集めて何をするのだ?」


アイリスにも付けられた玉を見てロッカがなんの為に?と聞いてきた。


「トルクが廃坑にいるロックワームなら食べる物が少なくてお腹空かせてるだろうから、鉄で釣れるんじゃないかと言ったんだよ。面白いだろ?」


「ロックワームって釣れるのか?」


「どうだろうな?でも可能性はあると俺も思うから、やってみる価値があると思うんだよね。で、ガキ共とアイリスに鉄の元になるものを集めさせてるって訳だ」


「そういう事だったのか」


「そう。アイリスのトレーニングも兼ねてるから内緒にしてたけどな」


「わかった。ならば私が最後尾からアイリスが遅れたらつついてやろう」


「つっ、つつかないで下さい」


「アイリスが最後尾で皆が気が付かないうちに置いて行かれる方がいいか?」


「嫌ですっ」


「ならつつかれんように皆と同じペースで歩け」


「えー… 分かりました」


今回もギリセーフでえーっを留まったアイリスは両足をズリリッ ズリリッと引きずりながら歩く。もちろんしょっちゅうロッカに剣の鞘でつつかれていた。



「よぉ、マーギン。穴ってあんなやつか?」


しばらく進んでもロックワームの痕跡を見付けられなかったので、引き返そうかとなった時にバネッサが何かを見付けたようだ。


「どこだ?」


「あっちの岩陰だ」


バネッサが示す方向に確かめに行くと、天井と床に穴があいていた。


「よくこんな所に穴があったの見付けたな。多分これはロックワームがあけた穴だ。天井から落ちて来て、また潜ったみたいだな」


暗視魔法ナイトスコープを使ったら、薄暗くて見落とすような時に役立つと言ったのお前だろ?」


明かり魔法だと岩で影になって見えなかった場所を暗視魔法ナイトスコープで見てたのか。


「でかしたバネッサ」


「はんっ、なんかいいもん落っこちてねぇか見てただけだ」


と、悪態を付きながらも褒められてちょっと嬉しそうな顔をする。


「よし、もしかしたら鉄が足りないかもしれないが、ここで穴釣りをしてみるか」


マーギンはまるでワカサギ釣りをするかのように言い、坩堝るつぼを出して、魔導磁石から鉄鉱石のクズを落として溶かしていった。


「それで鉄になるのか?」


「いや、これはちゃんとした工程じゃないぞ。剣とかに加工するわけじゃないから適当でいいんだよ」


溶けた物を少しずつ冷やしてから、錬金魔法で糸を括り付けられるようにする。念の為、3倍の糸を3本束ねて強化しておいた。


「じゃ、穴にこいつを入れてみるからな」


マーギンは餌の鉄鉱塊を穴の中にスルスルと落とし込んで行くと途中で止まった。


「どうした?」


「穴が途中で曲がってるみたいだな。ま、本当に食いにくるならこれでいいか。飯食いながら持とうぜ」


と、作り置きのサンドイッチを皆に配る。


「マーギン、釣れると思うか?」


ロッカがソワソワしている。


「どうだろうな。釣れたとしてもサイズがどれぐらいあるかもあるしな」


「確か5mくらいないとダメなんだったな?」


「そう。あの穴のサイズと同じぐらいならギリギリってとこかなぁ。まぁ、こういうのは運もあるからな。魔鉄持ちの奴が釣れるように祈っておいてくれ」


……

………


「暇ね…」


シスコがポソっと呟く。飯を食い終わった後、何もすることがないまま時間が過ぎているのだ。こんな所で寝る訳にもいかないのでじーーっと待つだけの時間は暇で仕方がない。ここでバネッサとシスコの投げクナイの練習をするわけにもいかないしな。


「ねぇ、マーギン。テントの中でバネッサを裸で襲った時はなんのゲームをやっていたのかしら?」


裸で襲ったとか言うな。人聞きの悪い。


「五目並べって奴だ。暇つぶしにやるか?」


「どんなゲーム?」


マーギンはマス目を描いた紙とコインを出して説明する。


「凄く単純じゃない?」


「まぁ、やってみりゃ分かる。お前らで勝ち抜き戦とかやってみろよ」


第一回五目並べ大会は総当たり戦。勝った回数の多い人が優勝だ。


「シスコっ、うちと勝負しやがれっ」


「いいわよ。何を賭けるのかしら?」


「なっ、なんで賭けになんだよっ」


「あら、あなたはやったことあるんでしょ?私は初心者なのにチャンスだと思うけど?」


「なっ、ならうちのいいもん賭けてやんぜっ。お前は何を賭けんだよっ」


「そうねぇ、私が持ってるもので何か欲しい物があれば何でもいいわよ」


「よーしっ、その言葉忘れんなよっ」


そしてシスコはバネッサに先行を譲り、勝負開始。


「あら、真ん中に置かないのかしら?」


「へんっ、人の事を気にすより、自分の事を気にしやがれっ」


バネッサはマーギンを真似て、変な所に初手を置いた。バネッサよ、角に置いても意味はないぞ。


そして…


「あーーーっ 汚たねぇぞてめえっ」


「あなたが私の手を見てないからでしょ?」


バネッサは先行有利を自ら捨て、シスコが淡々と5つ置いただけで負けた。


「くっそーーーっ。ほらよっ」


バネッサはポケットから石を出してシスコに渡す。それをゴミを見るような目で見る。


「なっ、なんだよその目はっ。タイベに来て見付けた一番珍しい石なんだからなっ」


「そう。まぁ、貰っといてあげるわ。それより、もう少し頭に栄養をあげなさい。胸にばっかり栄養をあげるからバカになるのよ」


「なんだとてめえっ」


「はい、次はロッカと勝負しなさい」


もうお前では相手にならんと言う態度のシスコ。


そしてバネッサとロッカの勝負は先行を取ったバネッサが勝った。ロッカよ、お前も脳筋だったか…


一通り勝負が終わり、全勝はシスコとトルク。次にハンナリー、その次はアイリスだ。ロッカはバネッサ&カザフ、タジキ組に分別されている。マーギンはトルクに負けたトラウマから参戦していなかった。


そしてシスコとトルクの勝負は白熱し、シスコが優勝。


「シスコ姉強いねぇ」


「あら、トルクも強かったわよ。今度何か賭けてやりましょう」


「うん♪」


脳筋組は五目並べから早並べ大会へと変貌しているなか、切れない糸がするるると穴に引き込まれ始めていたのだった。

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