決まってない話で盛り上がる

「未定の話で喧嘩するなよお前ら…」


「マーギン、本当に魔カイコの糸を量産出来るならいい案だと思うわよ。タイベの主力産業になってもおかしくないわ」


「まぁ、魔カイコの生地はゴルドバーンって国からたまに入ってくるぐらいらしいからな」


「よくそんな事を知ってたわね?」


「ロドリゲスから聞いたんだよ。飼い方知ってるならお前やれとかいいやがってな。俺は魔蛾が嫌いなんだよ。気持ち悪いし、厄介だし」


「厄介?」


と、村人の青年が聞いてくる。


「粉飛ばしてくるだろ?俺の知ってる魔蛾はその粉に幻惑作用があったんだ。だからそれを食らうと仲間同士が殺し合いして全滅したりする」


「そんな話は初めて聞いたぞ」


「らしいな。王都のハンター組合の組合長も知らなかったわ。だから俺の知ってる魔蛾とは種類が違うのかもしれん」


「お前の言っている魔蛾の大きさはどれぐらいなんだ?」


「デカイぞ。人よりデカイ」


「ここらにいる魔蛾はこれぐらいだぞ」


ここら辺にいる魔蛾は60cmくらいらしい。


「なら俺知ってる魔蛾とは違うな。シスコ、さっき繭の大きさをこれぐらいと言ったが、もっと小さそうだわ」


「糸の品質も違うのかしら?」


「どうだろうな?魔カイコの糸が高いというのは知ってるけど、品質がどうこう言われても分からんから、廃坑から出たら魔蛾を探してみるか?魔桑木があれば見付けられると思うぞ」


「廃坑を調べた後に何か予定してる事があるのかしら?」


「いや、予定はないぞ。王都に戻る時期もだいたいしか決めてないからな」


「なら、魔カイコを本当に飼えるか試しましょ」


と、いつにもなく乗り気のシスコ。かなりの商機になると踏んだのだろう。


「俺はそれでいいよ。この村の人がやってくれるならね」


「ほ、本当に儲かるのか?」


村人は疑心暗鬼になりながら期待も混じっているようだ。


「うーん、養蚕に成功したらね。ただ、危険も伴うよ。大きい魔蛾が出始めたら戦う事も出てくるだろうし」


「大きいのは強いのか?」


「幻惑の粉を飛ばしてこないやつならそこそこのハンターでなんとかなると思う。けど、幻惑の粉を飛ばすような奴が出てくるとヤバいね。王都の組合にはその記録が残ってないみたいだけど」


「マーギン、魔蛾はどうやって討伐するのだ?」


と、ロッカが聞いてくる。


「粉を飛ばしてくるなら接近戦はヤバいな。弓か魔法の遠距離攻撃が必要なんだ。しかしデカイのは賢くもあるから、矢が飛んで来ると羽で風を起こして矢を防ぐ」


「アイリスのファイアバレットならやれるか?」


「あいつ燃えたら玉砕アタックをするかのようにこっちに向かって飛んで来るんだよ。そして暴れるから火に巻き込まれる」


「なかなか厄介なのだな」


「そう。で、羽の模様とか気持ち悪いだろ?だから俺は魔蛾が嫌いなんだよ」


「マーギンならどう倒すのだ?」


「俺はまぁ、色々と魔法が使えるからな。白蛇をやった時みたいにもやれるし、風と水の複合した攻撃とかかな」


「複合?」


「そう。風を竜巻みたいにしてそこに水の刃を混ぜる。そうすりゃ魔蛾はミンチになるし粉も濡れて飛ばない。羽も胴体も硬くはないからそれで大丈夫だ」


「そんな攻撃魔法を他に出来る奴がいるのか?」


「いないだろうね。魔力量も必要だし、風と水の両適性が高くないと無理だ。複合させた魔法のコントロールも難しいな」


「それでは意味がないな…」


「ねぇ、マーギン。私は風魔法の適性があるのよね?」


と、シスコ。


「そうだな。魔力量は普通だけどな」


「竜巻は出せるかしら?」


「んー、出せなくはないだろうけど、ほんの短時間で魔力が切れるぞ」


「短時間ってどれぐらいかしら?」


「10秒とかじゃない?」


「私が竜巻を出して、そこにアイリスのカエンホウシャかファイアバレットを混ぜれば倒せないかしら?」


「二人の魔法を複合するのか… 出来るかもしれんな。しかし、連携の練習が必要だし、練習するにしても、恐らくシスコは一回発動させたら魔力切れで立てなくなる。練習する機会も少ないし、本番で立てなくなったら不味いから実戦で使うのは無理だね」


「使えたとしても最終手段ってことね」


「そうなるな。しかし最終手段にするには心もとない攻撃だな。その攻撃で魔蛾が死ななかったら、火だるまになった魔蛾にアタックされて死ぬ」


なら、ダメねとシスコが考えこむ。で、次はバネッサだ。


「うちのクナイも羽の風で跳ね返されると思うか?」


「うーん、クナイかぁ。どうだろうな?俺も魔蛾に投げたことないからな」


「それとよ、うちのクナイをシスコがアシストしてくれりゃ、スピードも威力も上がるんじゃねーか?」


「クナイは風の抵抗を受けにくいから、そこまで大幅に威力が増すかどうか分からんぞ」


「分かんねぇって事は可能性があるってことだな?」


「そうだな。興味があるなら練習してみろよ」


「だってよシスコ、明日練習しようぜ」


「明日は廃坑を調査するんでしょ」


「あ、そうか。ならそれが終わってからだな」


まだ養蚕をやるとも決まってないのに次々に話が進んでいく。仮に魔カイコの養蚕が始まったら、自分達で魔桑木の管理をするつもりなのだろうか? それをやりたいなら別にいいけどね。


「マーギン、僕の矢を曲げる魔法とかは使えそう?」


トルクも自分の能力が使えるか聞いてくる。


「どうだろうな。可能性はあるぞ」


「マーギンが黒ワニに使った魔法って何?」


「スタンの事か?」


「ううん、ロッカ姉が黒ワニと格闘している時になんかしてたよね?」


トルクが言いたいのは、念動力で黒ワニの動きを阻害した奴の事だ。


「あぁ、あれか。あれはトルクが自然と使っている念動力ってやつの大技だな。俺は見えざる手と呼んでる」


「見えざる手?」


「そう。大きな手が黒ワニを掴んだという感じだ。あの魔法は特殊でな、魔力もたくさん使うし、イメージを保つのも難しい。素早く動いている相手とかにも無理だ。もっと強い敵だとレジストされる。特に自分より強い相手なら魔力を失うだけで効果を発しない。だから教えるつもりはないぞ。俺もほとんど使わないしな」


「そうなんだ。僕にももっと出来る事が増えたらいいのにな」


「前にも言ったけどな、身体と経験を鍛えるのが先だ。魔法は便利だったり、強力だったりするけど、基本は身体と経験だ。魔法の事はまだ気にするな」


「うん、わかった。だったらアイリスも鍛えないとダメだね」


「そうだな。一人で木に登り降り出来ないのはまずいからな。帰ったら大隊長にでも鍛えてもらうわ」


えっ?という顔をするアイリス。


「お前、王都に帰ったら特訓な」


「酷いですっ」


「酷くない。見慣れた魔物も強くなってきたら、ロッカ達でもお前を守りながら戦うのは危なくなってくるからな」


「えーーっ」


「えー、じゃない。ボアとかに噛まれたいのか?」


「いっ、嫌です」


「だろ?ちゃんと鍛えろ」


こうして、王都に戻ったらアイリスは地獄の体力トレーニングをさせられる事が決定したのだった。


村にテントを張り、ご飯は作り置きの物を食べる。多分ろくな物を食べてないであろう村人の前で肉三昧とかする訳にはいかないのだ。


「マーギン、明日廃坑でどんな事をするんだ?」


「うーん、多分奥の方までは入らないと思うぞ」


「危ないからか?」


「それもあるけどな、多分臭いが酷いと思うぞ」


「臭い?」


「そう。コウモリが大量にいるなら下はその糞尿だらけだ。それにワー族が魔物を倒したと言ってただろ?」


「うん」


「もうその死体が腐ってると思う。廃坑に通気口がいくつか掘られているならマシかもしれんけどな。臭いがあまりなかったらスライムが大量発生しているかもしれん。水が溜まっている所には近付くなよ」


「他にも気を付けておくことはあるー?」


「俺から離れるな。それぐらいだな」


「マーギン、廃坑にでっかいロックワームいるかな?」


「ロックワームはいると思うけど、どこまで育ってるかは分からんなぁ。廃坑だと鉱石もあんまり残ってなさそうだから、餌が足らなくて育ってない可能性もある」


「どうやって見付けるんだ?」


「ロックワームがいりゃ壁とか床とかに穴があいている。その穴の大きさでどれぐらいのロックワームがいるかは判断が付く」


「なるほど」


「ただ、そいつをほじくり出すのがなぁ…」


「昔の大きなのはどうやってやっつけたんだ?」


「あんときゃ、でっかい穴があいてたからな。そこを降りて行ったらいたんだ。ラッキーちゃラッキーだな。普通はたまたま天井から落ちてくるとかが多い。廃坑の中にずっといりゃそのチャンスもあるだろうけど、短時間だとそれには期待出来んぞ」


「黒ワニみたいに釣れないかな?」


と、トルク。


「釣る?」


「例えば床に穴があいてたら、そこにいるかもしれないんだよね?」


「そうだな」


「で、廃坑だからロックワームの餌が少ないんでしょ?鉄を食べるなら、鉄を餌にしたら釣れないかな?お腹空いてると思うんだー」


なるほど…


「面白いなその作戦。鉄持ってくりゃ良かったな」


「廃坑で取れないかな?」


「あー、どうだろうな。鉱石のカスとかは落ちてるだろうから、それを集めてみるか」


「どうやって集めるの?」


「お前らが集めるなら磁石を作ってやるわ」


と、ガキ共を寝かせた後に、魔結晶を使った電磁石みたいな物を作っていくのであった。




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