勝手に唐揚げにレモン
完成した料理が盛り沢山。皆で食べ比べてどれが美味しいか感想を聞いていく。
「カイマンも黒ワニも旨えっ」
カザフは肉なら何でも良さそうだ。
「ロッカ姉、どれが美味しいと思う?」
まずロッカに聞くタジキ。
「そうだな、肉の旨さは黒ワニの方が上だ。肉の味が濃くて旨い。唐揚げだと、切り込みもパパイヤも無しの方が噛み応えがあって好きだな。南蛮漬けはパパイヤが入っても甘さが邪魔しないな。唐揚げに甘さは不要だ」
トマトソース煮はどちらでも良さそうだ。
「ロッカ、パパイヤ入りのトマトソース煮に唐辛子を加えてみろよ」
「辛くするのか?」
「チリトマトってやつだな」
と、唐辛子を加えさせる。
「むっ、旨いぞこれ」
「だろ?ロッカはこういう味付けが好きなんじゃないかと思ったわ」
唐辛子を加える事でパパイヤの甘み、トマトの酸味と唐辛子の辛味が渾然一体となるのだ。俺もこの味付けが好きだ。
子供舌の奴らは唐辛子入りはダメなようだ。
「甘い唐揚げも旨ぇじゃねーかよ。南蛮漬けは不味ぃぞ」
バネッサは酢の物がお気に召さないようだ。恐らく孤児のような生活をしていた時に傷みかけた物が酸っぱかったのだろう。
「あら、南蛮漬け美味しいじゃない。パパイヤ入の南蛮漬けが一番美味しいわよ」
と、シスコは酢の物好き派のようだ。ゴミ箱を漁ったような経験はないだろうからな。
「唐揚げにもレモン掛けるわよ」
とシスコが勝手に唐揚げにレモンを掛けた。
「あーーっ、何しやがんだてめーっ。全部酸っぱくなるじゃねーかよっ。掛けるなら自分の分だけ掛けやがれっ」
「だって美味しいじゃない」
シスコが禁断の勝手に唐揚げにレモンをやりやがった。今のはシスコが悪い。
「バネッサ、お前用に唐揚げ揚げてやるから喧嘩すんな。どれが食いたいんだ?」
「黒ワニのパパイヤ」
マーギンはもう一度揚げ油の用意をしてバネッサ用に揚げてやる。他の皆はレモンが掛かっていてもいなくてもどちらでも良いみたいだ。
「揚げてくれんのは嬉しいけどよぉ、他の味付けもあんのか?」
「ん?甘辛にしてやろうか?」
「辛いのはいらねぇ」
「辛くはないぞ」
「甘辛って言ったじゃねーかよ」
「まぁ、そうなんだけどな。試しに作ってやるから、気にいらないなら塩胡椒だけで食え」
マーギンは醤油と砂糖を1対1で混ぜ、少し味噌を加えてタレを作り、フライパンで少し焦げる手前まで煮詰める。そのタレに揚げた唐揚げを絡めてペペッと胡麻を振り掛けて完成。
「ほら、食ってみろ。嫌なら残りは塩胡椒だけにすればいい。熱いからいきなり頬張るなよ」
バネッサはフォークを刺してあちっと言いながら食べ、そのまま次にパクついたのでお気に召したようだ。残りも甘辛にしてしまおう。
「おっぱいお化け、俺にもそれを寄越せよ」
いつもとは逆にカザフがバネッサにたかる。
「これはうちんだっ」
皿を抱え込んで隠すバネッサ。
「いいから寄越せってんだよっ」
「ちっ、しょうがねーな。ほら口を開けろ」
「そうやって食わせないつもりだろうが」
「いいから口を開けろってんだ」
と、バネッサが言うのでカザフは口を開ける。そこへバネッサがポイとアチアチ甘辛タレの付いた唐揚げを放り込んだ。
「おっ、ちゃんと食わしてくれ… あっちぃぃぃッ」
「がっつくからそんな目に合うんだよっ」
口を押さえて走り回るカザフ。それを見てうわはははははっと勝ち誇ったように笑うバネッサ。
「バネッサのやつ、いつもの調子に戻ったな」
カザフとギャーギャー騒ぐバネッサを見てシスコにそう言ったロッカ。
「そうね」
それだけ答えたシスコはレモン掛けの唐揚げを食べて飲むのだった。
ゴイルとマーイに今日の料理の作り方を復習させお開きに。そしてなぜか今夜もハンナリーがシスコに連れ去られ、バネッサはこちらのテントに。
「マーギン、勝負だっ」
「えーっ、もう端っこもべしょべしょになってないから勝負する必要ないだろ?」
「いいから勝負しやがれっ」
「じゃあ、頭を使う勝負にするか?」
「何で頭を使う勝負になんだよっ」
「あ、バネッサは頭を使った勝負だと勝てないから嫌か。なら他に…」
「勝てねえってなんだよっ。頭を使った勝負でも勝てるわっ」
本当にチョロい。明日からチョロッサと呼んでやろうか。
マーギンは紙にマス目を描いていき、銅貨と銀貨を出した。
勝負は五目並べだ。
「いいか、ルールを説明する」
マーギンは五目並べのルールを説明し、俺と勝負をしたければガキ共を倒してからにしろとバネッサに条件を付けた。これでガキ共としばらく遊ぶだろ。
ーロッカ達のテントー
ハンナリーはシスコに専門的な知識を叩き込まれ頭がショートしてすぐに寝てしまった。アイリスも就寝済だ。
「あーーっ てんめぇっ そこは次にうちが銅貨を置こうと思ってた場所だろうがーーっ」
マーギン達のテントからバネッサの大きな声が聞こえて来る。
「バネッサのやつ、今日も楽しそうだな」
バネッサと子供達の騒ぐ声を聞いてロッカが笑う。
「そうね。本当に騒がしいわよ」
「元気になって良かったじゃないか」
「手間が掛かるったりゃありゃしないのよ。もっと素直にマーギンに構って欲しいと言えばいいのに」
「なぁ、シスコ。バネッサはマーギンに惚れているのか?ここに戻ってくる時も本当は麻痺が解けてたのに、ベッタリとくっついたままだったろ?」
「さぁ?どうかしらね。けど…」
「けど、なんだ?」
「惚れた腫れたみないな男と女の感じじゃないんじゃないかしら?私は飼い主と野良猫みたいな感じじゃないかと思うわよ」
「飼い主と猫?」
「そう。捨てられた野良猫が優しい人に餌をもらったり可愛がったりされて懐いた。そこに他の野良猫がやって来て、今まで自分に優しくしてくれていた人が後から来た猫ばかり可愛がるようになって拗ねた、みたいな感じかしら」
ケモミミを気にしているハンナを野良猫呼ばわりしてやるなと呆れるロッカ。
「バネッサはマーギンを飼い主みたいに思ってんのか?」
しかし、バネッサを野良猫扱いしたことには疑問には思わない。
「本当の所は分からないわよ。でも、バネッサは母親の顔も知らない、父親もいなくなったのが12歳か13歳ぐらいの時だったかしら?居なくなる前も飲んだくれのクズな父親だったから、今まで誰かにちゃんと可愛がって貰った事がなかったんじゃないかしら?私達は親と上手くいってなかったとはいえ、まともな父親も母親もいるでしょ?」
「そうだな」
「私も小さな頃はちゃんと親に可愛がってもらっていたわ。ロッカもわだかまりが解けて、自分が可愛がって貰っていたのを思い出したのでしょ?」
「バネッサにはその経験がないってことか… そう言えばうちの親父にもベッタリと甘えていたな」
「そういうこと。マーギンもバネッサの事をよく構うでしょ?それが嬉しいのよきっと」
「マーギンがバネッサに惚れているとかはないか?」
「バネッサの事を気に入ってるのは確かなんじゃない?マーギンはきっと手の掛かる子が好きなのよ」
「拗ねたバネッサには面倒臭がっていたじゃないか」
「でもずっとバネッサの事は気に掛けているでしょ?今日もバネッサの為だけに唐揚げ作ってあげていたし」
「まさか、全部の唐揚げにレモンを掛けたのはわざとか?」
「バネッサにマーギンはちゃんと構ってくれている事を分からせただけよ」
ロッカはシスコはいつもなんだかんだと言っているが、バネッサの事を心配してたんだと微笑ましくなったのであった。
ーマーギン達のテントー
「だから、そこはうちが次に置こうと思ってた場所だろうがよっ」
「そんなの知るかっ。はい、おっぱいの負け〜」
五目並べの強さはタジキ<バネッサ<カザフ<<<越えられない壁<トルクの順番だ。
トルク以外は3人ともどっこいどっこい。3人の戦法はとりあえず一直線に5つ並べようとする。始めた当初は先攻を取ったらそのまま5つ並べて勝ちとか、五目並べの意味がない勝負だったのだ。
「マーギンっ うちと勝負しやがれっ」
「お前が俺の相手になるわけがないだろうが」
「うちが先攻でやりやがれっ」
「それでも相手にならんぞ」
「マーギンが負けたら脱げよっ」
「お前が負けたらまた脱ぐのか?」
「脱がねぇっ。そんかわり明日の朝飯をうちが作ってやるよ」
「えーっ」
「えーっとか言うなっっっ!」
バネッサの作る飯とかゴミみたいなもんじゃなかろうかと、嫌な顔をするマーギン。
「そんなに食いたきゃねぇなら負けやがれっ」
マーギンの嫌そうな顔を見てバネッサがそう言ったあと、勝負が始まる、
先攻はバネッサ。初手を真ん中に銀貨を置き、その次にマーギンは変な場所に銅貨を置く。
「何でそんな所に置くんだよ?」
「人の手は気にするな。さっさと次を置け」
バネッサは初手の隣に銀貨を置く。マーギンはその近くに置いた。バネッサが3つ並んだ時にマーギンは止める。
「ちっ」
何でそこに置くんだよという目で見るバネッサ。3つ並んだら止めるのは当たり前だろうが。
「おりゃ、リーチだっ」
当然それを止めるマーギン。
「あーーっ」
あーーっとか何を言っているのだこいつは?
「くそっ、やり直しじゃねーかよ」
と、また一直線に並べようとする。そして3つ並んだ時にマーギンが止めて34の形になる。
「はい、俺の勝ち」
「は?まだ5つ並んでねぇだろうが」
「もうお前に勝ち目がなくなったんだよ」
「最後までやらなきゃ分かんねーだろっ」
「ならこのまま続けてやるけどさ」
バネッサが止められた反対側に銀貨置いて4つ並んだ。
「へへっ、次でうちの勝ちだ」
「ほい、これで俺の勝ち」
「あーーーーっ いつの間にっ」
俺は五目並べでこいつには一生負けないだろう。
「朝飯は別に作らなくていいぞ」
「うるせえっ もう一回だっ」
そして何度やろうが勝てなかったバネッサがムッキーーと暴れる。
「バネッサ姉、僕にもマーギンと勝負させて」
「ケッ」
バネッサの代理でトルク参戦。
「手加減してやらんぞ」
「うん♪」
そして
うそん……
「やった!僕の勝ちーーっ」
本気でやったのに初心者の子供に負けたマーギン。
「マーギン、負けたんだから服を脱いでね」
「え?」
マーギンはその次の勝負にも負け、トルクにパンツ姿にさせられた。
「ぎゃーはっはっはっ。ガキに負けてパンイチとか笑わせやがんぜっ」
身包みを剥がされたマーギンを見て大笑いするバネッサ。
「お前に負けた訳じゃねーだろうがよっ」
と、大笑いするバネッサにゲンコツを喰らわしてやろうと立ち上がろうとしたマーギンは脱いだスボンに足が引っ掛った。
ドサっ
パンイチのマーギンがバネッサの上に覆い被さるような体勢になってしまった。
「なっ、なっ、なっ、何しようとしてやがんだっ」
ゴスっ
真っ赤になったバネッサはマーギンの顔に思いっきり頭突きを食らわせたのだった。
ー翌朝ー
「おっ、バネッサが作ってるのか?」
ロッカ達が起きてくるとバネッサが朝食の用意をしている。
「うっせぇ、勝負に負けたんだよっ」
作っているのはいつもマーギンかタジキが作るようなもの。ベーコンと目玉焼きだ。タジキ達に見守られながら作りあげたバネッサ。
「トルク、マーギンを呼んで来いよ」
と、バネッサに言われてトルクがマーギンを連れて来た。
「その顔はどうした?」
マーギンの目はバネッサの頭突きを食らって腫れていた。
「こいつにやられたんだよっ」
「なぜだ?」
「あのねー、マーギンが裸になってバネッサ姉に抱き着いたの」
こら、トルク。誤解を招くような説明をするな。
「は?マーギン、お前まさかバネッサを襲おうとしたのか?」
「違うっ」
「マーギン、裸で押し倒すなんて、もしかしてバネッサに惚れたのかしら?」
これは惚れてるのではなく、腫れているなのだ。
「そんな訳あるかっ」
プリプリと怒ったマーギンはシスコに怒鳴って返し、朝食を食べだす。目玉焼きの黄身が好みの半熟だったので、「タジキ、旨いぞ」と褒めたのであった。
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