微かに瘴気を放つ肉
また片目パンダになったマーギンは飯を作る前に風呂に入る。洗浄魔法で綺麗になってはいるが、気持ち的に汗を洗い流したいのだ。
「そっちに詰めろよ」
マーギンが風呂に浸かるなりバネッサもやって来た。
「お前なぁ、水着の上にシャツかなんか着てきてくれよ。目のやり場に困るんだよっ」
ビキニ姿のバネッサは強烈だ。
「見んなっ」
下着だと恥ずかしがるくせに、同じぐらいしか隠せてない水着は平気なのが不思議だ。
そしてバネッサにごゆっくりどうぞと吐き捨てて、タジキを連れて解体と調理の手解きをしていく事に。
「カイマンの肉って美味いのか?」
「鶏肉みたいなもんだ。こいつを唐揚げと酢豚みたいに…」
ちょっと待てよ。酢豚ならぬ酢ワニにすると甘酢餡に醤油を使う事になる。ゴイル達が次に食べたくなっても醤油はまだ流通していない。
「予定変更、唐揚げとトマトソース煮及び南蛮漬けにする」
違う料理だが途中までの工程は同じ。取り敢えず全部唐揚げにする下ごしらえだな。
「マーギン、バケモノは食わないのか?」
「カイマンだけで足りるだろ?」
「食べ比べしようぜ。カイマンは魔物じゃないんだろ?」
「そうだな、ならクロワニも解体するか。カイマンより大きくて硬いけどやり方は同じだ。自分でやってみるか?」
「うんっ」
と、タジキ一人で解体をやらせてみることに。
「ここをこうして、ふぬぬぬぬっ」
カイマンよりずっと硬い黒ワニの皮に苦戦するタジキ。ナイフに研ぎ魔法を掛けてもう一度挑戦。
「そうだ、そこから刃先を利用して切れ」
ふんっふんっと顔を真っ赤にしてようやく切れだした黒ワニの皮。
「うわっ、何か嫌な感じがするーっ」
それを近くで見ていたトルクが叫ぶ。
窒息死させたから肉に血が回ってしまったのか?すぐに血抜きしなかったしな。でもそれはカイマンも同じだ。
「タジキ、ちょっと待て」
「えーっ、ようやく切れだしたのに」
トルクの嫌な臭いとかではなくて、嫌な感じと言ったのが気になり、マーギンはタジキを黒ワニから離して確認をする。
こ、これは…
微かに、ほんの微かにではあるが、黒ワニの肉が瘴気を放っている。
「タジキ、トルクが嫌な感じがするといった時は注意しろ。このままだとこの肉は食えん」
「え?腐ってんの?」
「違う。この黒ワニは相当強い黒ワニだったんだ。肉に魔素が溜まっている。このまま食うと毒になる」
「えっ?」
「ロッカ達も呼んで来てくれ。この事を教えるから」
カザフが風呂に入っているロッカ達を呼びに行く。それと同時にゴイルとマーイもやって来た。
「パパイヤはこんなもんで足りるか?」
ゴイルが肩に担いでいた箱にどっちゃりと入ったパパイヤ。1個で良かったのにと今更言い辛い。いや、それよりゴイル達にも聞いておいて貰おう。
「うわっ、すっごーい。こんな大きなドラケ初めて見た〜。お兄の言った通りじゃん。こんなのをあっさり倒せるなんてマーギン凄いねぇ」
マーイが黒ワニに触ろうとする。
「マーイ、黒ワニに触るなっ」
と、怖い顔をしたマーギンにビクッと怯える。
「ご、ごめんなさい…」
「あぁごめん、怒ったわけじゃないんだ。この黒ワニは毒みたいな物を持ってるから念の為に触らないでくれ」
「毒?」
キョトンとするマーイ。
「マーギン、ドラケの肉には毒なんてないぞ」
と、ゴイルが反論。
「毒ではないんだけど、この黒ワニは毒のような物を含んでいるんだよ。ロッカ達が来たらそれがなんなのかを説明する」
カザフに呼ばれたロッカ達が水着のままこちらにやって来た。
「なんだよっ。そんなにうちらの水着姿を見てぇのかよ?」
「違うわバカ。この黒ワニにから嫌な感じがするの判るやついるか?」
と、皆に少し黒ワニに近付けさせる。
「別に何も感じんが…」
「何もねぇよ」
「そうね、なんともないわよ」
ロッカ、バネッサ、シスコは何も感じず。
「なんとなく嫌な感じがすんで」
「そうですね、美味しそうなお肉という感じがしません」
ハンナリーは感じたけど、アイリスのはどっちか分からんな。
この状況からすると、魔力値の高い者の方が瘴気を感じ取れるのかもしれない。勇者パーティメンバーは皆魔力値が高かったから、瘴気を感じ取れない人がいるの知らなかったな。
「ゴイルとマーイは何か感じるか?」
「いや、感じんぞ」
「言われてみればなんとなく嫌な感じがするわ」
マーギンが二人をこそっと鑑定すると、やはりマーイの魔力値が300超えている。ゴイルは人並みだから、これでほぼ確定だな。
「で、うちらを呼んだ理由を話せよ」
「この黒ワニの肉に瘴気が溜まっている。このまま食うと身体に毒なんだよ」
「毒?」
マーギンは魔素と魔力の関係と魔素が濃くなると瘴気と呼ばれ、身体に毒になることを説明した。
「マーギン、ならこいつは食えないってことか?」
と、ガキ共が聞く。
「この程度ならそこまで影響は出ないとは思う。食った後に熱が出る程度だろうな。もっと瘴気の濃い肉を食べると痙攣を起こし、そのまま死ぬか助かっても身体が動かなくなる後遺症が残る事もある」
「怖ぇじゃんかよっ」
「そう。瘴気を持った肉はヤバいんだ。ゴイル、今まで魔物の肉を食った奴が高熱で倒れたり、死んだりした奴はいるか?」
「い、いや聞いた事ねぇぞ。キノコとか食って痺れたり、死んだりした奴はいるけどよ」
「キノコは色々な種類があるからな。魔物肉の瘴気とは原因が違うよ」
もしかしたらタイベには肉に瘴気を持った魔物がいるのかと思ったが、そうではないのかもしれない。たまたまこいつがかなり強い特殊個体ならいいけど、魔物が強くなってる証拠だとしたら…
〈占いではこの先苦難が訪れると出ている〉
マーギンは長老が話してくれた言葉が脳内に巡っていた。
「マーギン、こいつに毒があるのはわかったけどよ、それが判るやつと判らん奴がいるのはまずいんじゃねーのか?」
ゴイルの心配ももっともだ。
「そうだね。簡易の見分け方を教えるわ。これぐらいの瘴気なら肉を触っても大丈夫だし、触るだけでヤバい瘴気を持った魔物は簡単に倒せんだろうからな。これからは見慣れた魔物でも異常に強かったら、倒した後に燃やしてくれ」
マーギンは黒ワニを解体魔法で素材別に別けていく。そして魔結晶を手に取り、皆に見せた。
「これがこの黒ワニの魔結晶だ」
「かなりデカイな」
「大きさよりも色に注目してくれ。大きさは魔物の大きさが関係してくる。しかし色は強さに関係してくるんだ。この魔結晶は見慣れた魔結晶より色が濃いだろ?」
「た、確かに」
「いつもより色の濃い魔結晶を持った魔物の肉は食わないようにしてくれ。毒持ちだ」
「マジかよ…」
と、ゴイルが驚いている。
「なんでそんな事が判るんだよ?」
バネッサはマーギンが誰も知らないような事を皆に教えたのを不思議がる。
「俺が昔いた所は魔物肉はそのまま食えないのが普通だったんだよ。この魔結晶はなんの魔物のやつかわかるか?」
と、勇者パーティ時代の魔狼の魔結晶をバネッサに見せる。
「黒みたいな赤色してやがんな。魔結晶だけでなんの魔物かわかんねぇぞ。大きさ的には魔狼とかと同じようだけどよ」
「そう、こいつは俺が昔居た所の魔狼の魔結晶だ。この前ライオネルで倒した魔狼の魔結晶とぜんぜん色が違うだろ?ライオネルで倒した魔狼の魔結晶と見比べてみてくれ」
と、もう一つ出して皆に見比べさせる。
「ぜんぜん違ぇな。本当に同じ魔狼の魔結晶なのか?」
「強い魔物ほど赤色が濃くなる。で、最終的には黒い魔結晶に見えるぐらいになるんだよ」
「本当かよ?」
「今から魔法でこの魔結晶から魔力を抜いていくから見ててみろ」
マーギンは色の濃い魔結晶からマジックドレインで魔力を抜いていく。
「あっ…」
「こうやって魔力を抜いて行くと同じ色になっただろ?これで俺の言う事が信じられたか?」
「誰も信じてねぇとか言ってねぇだろうがっ」
お前、あの口調は完全に疑ってたよね?
「まぁ、いいわ。ゴイル、村の皆にもいつもの魔結晶と比べて色が濃かったら食わないように伝えておいてくれないか」
「わ、わかった」
「マーギン、黒ワニの肉の瘴気っていうのも今の魔法でなんとかなるのー?」
と、トルクが聞いてくるので、解体した黒ワニの肉にマジックドレインを掛け、瘴気を抜く。
「この魔法はマジックドレインと言ってな、魔力を抜く魔法なんだ」
「僕にも使えるかなぁ?」
「どうだろうな?多分トルクは魔力値が高そうだから適正があれば使えるようになるかもしれんな。まぁ、お前らが成人する時にどんな魔法が使えるようになるかは調べてやる」
「どうして成人する時なの?」
「魔法は便利なんだよ。身体を鍛える前に魔法を覚えるとそれに頼るようになる。もし魔法使いになれても身体がしょぼかったら戦いに不利になる。それに経験が不足していると上手く発動せん魔法とかもあるからな。成人する前にちゃんと身体を鍛えて色々と経験を積んでおけ」
「わかったー」
瘴気を持った魔物肉の説明を終えたので、カイマンと黒ワニの仕込みを始める。ロッカ達には着替えて来いと言っておいた。
タジキにパパイン効果を教えるため、パパイヤ入りと無しを仕込ませる。唐揚げで食べ比べたら違いがわかるだろう。
「タジキ、ここにこうして切り込みを入れろ」
「肉を柔らかくするためか?」
「それもあるし、肉は熱を加えると縮むんだ。繊維を断ち切るように切れ込みを入れてやると変な縮み方をしなくなる。鶏モモステーキとかも同じだ」
「鶏モモステーキ?」
「鶏モモステーキは皮がパリッと焼けた方が美味いだろ?切れ込み無しだと変に縮んで皮が上手く焼けない部分が出てくる。上手く焼けない部分は皮がブニョブニョになる。それが好きなら別に構わんけどな」
それも確かめるというので、鶏モモステーキも作る事に。また口から肉が出るくらい食うんだろなと思いながら追加で仕込みをするのであった。
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