スーっとする草

マーギン達が朝食を食べ終えた後にゴイルとマーイが象のハナコと共に迎えに来てくれた。今日はこの村の南側、海の近くへ案内をして貰うのだ。


ガキ共はハナコに乗せてもらって大はしゃぎする。暴れていると落っこちるぞ。


海の側に向かいながらゴイルがマーギンに話し掛ける。


「あのクズ真珠を本当に買い取ってくれんのか?」

 

厄介な草といい、捨てているクズ真珠といい、本当にそんな物が金になるのか信じられないゴイル。


「化粧品に加工してどれぐらいの売値になるか分からないから、まだ買取金額ははっきりとさせられないけどね。買取金額が安くなるかもしれないけど、集めておいてくれないかな?」


「まぁ、捨てているもんだから別にいいけどよ」


「バレットフラワーの栽培はどうする?」


「あれか。あれは止めとくわ。上手く栽培出来たとしても村に魔物が寄ってくるかもしれんし、万が一のことがあるかもしれんだろ?それに柵をしておいてもハナコが食いに行きそうだ」


なるほど。


「了解。じゃあ、王都で栽培出来るか試してみるわ」


「王都で栽培出来るのか?」


「あの草を使った糸を作った奴が植物の研究者なんだよ。防刃服が売れたら資金が貯まるだろうから、温室とか作って実験すると思うんだよね。他にも薬の材料になりそうな植物があれば持ち帰ろうと思ってる」


と、マーギンはヘラルドの事と雪の華の事を話した。もしかしたら南国特有の材料があるかもしれないのだ。


「薬か… 苦くてもいいか?」


「なんかある?」


「滋養強壮と子作りに効く薬があるぞ」


「へぇ、子作りに効くなら貴族に売れそうだね」


「その代わりめちゃくちゃ苦いぞ」


「苦い物でもなんとか飲める方法があるから後で教えてよ」


「構わんぞ。他には噛むとスーっとする奴とかだな」


「ハッカか?」


「ハッカかが何かは知らんが、スーっとする草だ。その辺にも生えてるぞ。ほら、これだ」


と、ゴイルが教えてくれたのを摘んで噛んでみる。


「あ、ミントだねこれ」


「そんな名前があるのか?」


「本当にミントかどうかはわからないけど、これなら酒にも使えるぞ。他の使い方としては風呂に入れたらスーッとして気持ちがいいんだよ。本当に涼しくなる訳じゃないけど、涼しく感じるんだ」


「へぇ、こんなもんに使い道があるんだな。飲み過ぎや食い過ぎで気持ち悪い時に噛むぐらいしか使ってなかったな」


「これも栽培する?多分そんなにお金にならないけど」


「いや、もう面倒臭ぇからいいわ。お前が作ってくれと言った米みたいに何かのついでになるようなものならいいけどよ」


と言うのでそこそこの数のミントの株を土ごと取って収納。これもゼーミンに育てさせよう。それと、今晩の酒用と風呂用にも確保しておいた。


そんな事をしながら海辺の集落に到着。ゴイルがクズ真珠が金になるかもしれないと伝えると歓迎してくれた。


「ジュースどうぞ」


と、出してくれたジュースがめっちゃ旨い。


「これなんのジュース。めっちゃ旨いんだけど」


「これはサモワンのジュースです。生で食べてみますか?」


と、出してくれた果物は大きなライチみたいなものだ。皮を剥くとツルンとした透明に近い実が出てくる。


「旨っ!」


口に入れて噛むと溢れ出す果汁。キュッとした歯触りも面白い。ライチよりずっと美味しい。


「この果実は手に入りやすいの?」


「たくさんありますよ。もぎたてじゃないと美味しくないですけどね」


収穫した日に食べないと赤い皮が黒く変色して味も落ちてしまうらしい。それなら買い付けて王都で売るのは無理だな。


マジックバッグに入れて帰るからと、たくさん分けて貰った。代わりに手持ちのリンゴをあげると喜んでくれる。お互い無いものねだりだな。


「クズ真珠はどれぐらい集まりそう?」


「村の皆に頼んでおけば1週間でこの袋ぐらいは貯まると思います」


と、金貨100枚ほど入る革袋を見せてくれる。


「今の所、買取金額はわからないけど、集めておいてくれないかな?」


「構いませんよ。いつ頃取りにきます?」


「ごめん、まだ当分先になるかな。秋にもう一度来るつもりなんだけど」


「マーギン、ちょっといいかしら?」


「なにシスコ?」


「クズ真珠を化粧品に混ぜる含有量を試さないとダメだけど、前に使った感じだと少し混ぜるだけで効果があると思うの。その革袋一つに付き1万Gぐらい払えると思うわよ」


「そうなの?じゃあ、この袋一つで小金貨1枚でどうかな?」


「えっ?ゴミがそんなお金になるんですか?」


「みたいだね」


そう伝えると、頑張って集めますと鼻息が荒くなったので、買取り上限はなしとも伝えておいた。シスコの絶対に売れるからという言葉を信じて。



そして海に案内されると漁をする為の船の船着き場がある。ちゃんとした港になってるんだなと感心するマーギン。


「ゴイル、この村と流通を始めたらこの港を使わせてくれるかな?」


「ん?別に構わんと思うぞ。前にも言ってたが荷物を海路で運ぶつもりか?」


「領都まで陸路より海路の方が早くない?」


「ここから領都の港までは岩場とかあるぞ。それを避けるなら一旦沖まで出ないとダメだ」


「船が通るの難しそう?」


「通れなくはないがな」


「なら大丈夫かな。操船技術に長けた奴を雇う予定にしているんだよ」


「なら陸路より早いだろうな。ここの奴らに言っとくわ」


と、承諾してもらったので、海賊達に流通をしてもらおう。貨物船みたいな大型船は無理だけど、そこそこ大きな船も大丈夫そうだしな。



ご飯食べて行きなさいと言われて、海鮮物のバーベキューをご馳走になる。青や原色ピンクの魚でもハンナリーが小躍りして喜んだのは言うまでもない。


これで用件は終わり、ゴイル達の集落に戻った。


「晴れたら暑っちいな」


とバネッサが舌を出してはぁはぁしながら胸元をパタパタとすると、ゴイル達はそうか?と言う。ゴイル達には普通でも王都で暮らしている者にとっては暑いのだ。


「よし、ミント風呂にするか」


「さっき言ってたスーっとする草の風呂か?」


「そう。ゴイル達も入りに来なよ。気に入ったら自分達でもやればいいしさ」


ゴイルとマーイに水着を取りに帰らせて、周辺でスーっとする草を探して追加する。よく見たら本当にどこにでも生えてるわこいつ。


ややぬるめの湯にしてミントの葉を投入。


皆で水着に着替えてじゃぼっとな。


「マーギン、いつもと変わんねーぞ?」


と、カザフが言うのでスーっとする草を追加投入してモミモミさせてみる。


「おーっ、なんか冷たくなってきたぜ」


「本当だな。湯が冷たく感じるわ」


ロッカ達もこれは良いなと顔にもパシャパシャと掛けたりしている。そしてゴイルとマーイも来て、いいなこれと喜んだ。


「へへっ、もっと冷たくしてやろうぜ」


とガキ共が葉っぱをモミモミし続ける。そこにバネッサが参戦し、競争するかのようにモミモミする。やめれ。


「もういいぞ。やり過ぎだお前ら。目までスースーしてきただろうが」


メントール成分が揮発し始めたのか目が痛い。


「なにすんだよっ …… 痛っぇぇぇぇっ」


「大袈裟だなお前はよっ」


どうやらバネッサがイタズラでカザフの水着の中にスースーする草を突っ込んだようだ。カザフはタジキとトルクを道連れにするために二人にも突っ込んだようだ。


痛ぇぇっ と叫んだカザフ達は風呂から出て大事な所を押さえて走り回る。


馬鹿だなこいつら…


しかし、マーギンも大事な所がヒリヒリするぐらいスースーしてきたので風呂から出る。他の皆も寒くなってきたと言って風呂から出た。


「マーギン、風呂から出てもスッキリするんだな。良いこと教えてもらったぜ」


「まぁ、これは涼しく感じるだけで、実際には涼しくはなってないからな。湯当たりする前に風呂からでろよ」


「俺たちゃ入るとしても水風呂がほとんどだから大丈夫だ」


そんな話をしながら飯にする。


ミント入の酒なら脂っこい料理がいいな。ガキ共は肉と言うだろうから、ステーキでいいか。


厚切りにした牛肉を牛脂をたっぷり溶かしたものに絡めて焼いていく。それを見たガキ共は肉ーっ!肉ーっとはしゃぐ。毎日のように肉料理を食わしているだろうが。


焼けて来た肉を鉄板の上でチャッチャッと切り分ける。後はお好みで火を通してくれたまえ。味付けは塩胡椒とガーリックのみ。モヒートを飲みながらだと醤油よりこっちの方が合うだろう。


皆がガツガツ食うので次からはタジキに焼かせていき、マーギンは牛脂から出た脂でガーリックライスを作っていく。


「いくらでも食べられるぞこれ」


「短い米は茹でるんじゃなしに、炊くとべしゃべしゃにならないからな。長い米で作っても旨いぞ」 


ゴイルは炒めたガーリックライスをバクバク食っては飲む。他の皆もモヒートを飲んでは肉を頬張る。


「このお酒、美味しいわね」


「シスコが好きそうな味だからな。バネッサにはもう少し甘めにしてやろうか?」


「へへっ、そうしてくれ」


バネッサのモヒートにガムシロップを足し、ロッカにはラム酒を足して濃い目に調整する。後は自分でやりたまえ。


「私には何も追加してくれないのかしら?」


バネッサとロッカにだけ手を加えたので私には?と聞くシスコ。


「ならライムを絞ってやるよ」


と、酸味を好むシスコにはライムを追加投入。


「あっ、いいわねこれ」


「マーギン、俺たちにも飲ませてくれよ」


「アルコール抜きだぞ」


ガキ共にはジュースを出してやっていたがミントの飲み物を試したいようなので、アルコール抜きの甘めで作ってやる。


「こんな味になんのかよ」


「脂っこい肉を食べても口の中がスッキリするだろ?」


「これ飲んだらいくらでも食えるぜっ」


また口から肉が出るぞ。


そして悪乗りしたカザフがミントをモミモミして追加投入。


「げっ 苦ぇ…」


やり過ぎた馬鹿者。


「それ、全部飲めよ」


と、マーギンに言われて、ノンアルコールモヒートミント強を肉で流し込むカザフなのであった。


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