マーギン=汚物
「マーギン、マーギン、朝だよ起きて。もうご飯出来てるよ」
と、朝まで気絶していたマーギンを起こすトルク。
「ん?もう朝か?って、俺はいつ寝たんだ?」
「バネッサ姉にやられてそのままだったみたいだよ。目の周りが真っ黒になってるから」
え?
と、鏡を出して自分の顔を見ると片目がパンダみたいになっている。あっ… バネッサのシャツの上から強烈な一撃を食らったんだった。
テントの中を見るとまだ幸せそうに寝ているバネッサ。服はちゃんと着ているようで良かった。
が、自分をこんな顔にしやがったくせに幸せそうに寝ている顔にイラッとくる。
「いつまで寝てやがんだ」
と、バネッサの脇腹をくすぐってやる。
「ぎゃーはっはっはっはっ」
早朝に鳴く鶏のようにけたたましい笑い声をあげるバネッサ。
「朝っぱらから何しやがるっ」
ベキッ
マーギンは反対の目に攻撃をくらい、バランス良くパンダになったのだった。
東屋でタジキがベーコンと目玉焼きを魔導鉄板で焼いてくれたようだ。ちと焼きすぎだけど、人が作ってくれた料理に文句を言うつもりはない。ここでは堅焼きの目玉焼きがスタンダードなのだ。
「バネッサ、朝っぱらからうるさかったわよ。昨日の晩もだけど」
「うちのせいじゃねえっ。マーギンの野郎がセクハラしやがんだよっ」
「良かったじゃない」
「なんで良かったになるんだよっ」
シスコにケッと言った後に朝食を食べだした時にゴイルがやってきた。
「悪い、まだ飯食ってたのか」
「良かったら一緒に食べる?タジキが作ってくれたんだよ」
「もう食って来たけど… ご馳走になるわ」
カリっと焼けたベーコンが旨そうに見えたゴイルはマーギンの隣に座った。
「その顔、化粧でもしてんのか?」
「こんな化粧した奴見たことあるか?」
パンダになったマーギンの顔を見たゴイルが笑いながらベーコンと目玉焼きを頬張る。
「誰にやられたんだ?」
「こいつだよコイツ」
と、バネッサを指差す。
「なんだ、仲間に夜這いでもかけたのか?」
「誰がコイツに夜這いなんかするかっ」
「うちの服を脱がせやがったくせに何を言ってやがんだっ」
「お前が勝負に負けて脱いだんだろうがっ。パンツまで脱ごうとしやがったくせに」
「誰がパンツまで脱ぐかっ。脱いだのはシャツだけだっ」
と、本当にバネッサのシャツを脱がした事を知ったみんなはゴミを見る目でマーギンを見る。
「マーギン、子供もいるテントでよくそんな事が出来るわね」
ゴミを見る目から汚物を見る目に変わるシスコ。
「脱ぐなと言ってるのにこいつが脱いだんだよっ。それに脱いだシャツを顔に投げつけられて見てないわっ」
「シャツを投げ付けてなかったらどうしてたんだよっ」
「ガン見するに決まってるだろうが」
と、バネッサにワシャワシャとイヤらしい手付きで答えるマーギン。
「このすけべやろうっ」
またもやバネッサにグーでいかれ、治癒魔法でパンダ顔を治した直後にまた片目パンダにされるマーギン。
「なぁ、シスコ。うちはマーギンと同じテントで寝たりしてるけど、何もされたことないで。見せたろか言うたかて断りよるしな」
「私達もそんな事されたり言われたりしたこともないし、一緒に住んでいたアイリスですらないわよ」
「ほならなんでバネッサだけされるんや?」
「ハンナリー、良く聞きなさい。人の深層心理にはね、〈怖い物見たさ〉、〈臭い物嗅ぎたさ〉というものがあるのよ」
「誰が臭い物だってっんだよっ」
酷い言い草のシスコに怒るバネッサ。
「お前ら本当に仲がいいな。で、雨も止んだし、予定通りドラケ探しに行くか?」
「おう、頼むわ」
と、ゴイルに行くならさっさと行こうぜと言われて出発する。
「この先が目的の沼地なんだが、ここまで湿地になってやがんな」
もうすぐ目的地らしいが大雨で予想以上に下が
「他になんかヤバいのがいるか?」
見知らぬ泥濘んだ場所は得体のしれない物がいるかもしれないのでゴイルに確認するマーギン。
「大ヒルがいるかもしれんな」
「ヒルか…」
「マーギン、ヒルってなんだ?」
と、カザフ達が聞いてくる。
「ナメクジは知ってるだろ?水辺やこういう湿地になった所にはナメクジみたいな奴がいる。で、そいつらは血を吸うんだよ。もし自分に引っ付いていても無理に剥がすなよ。血が止まらなくなる」
湿地にいるならマッドヒルだろうな。ヤマビルと違って吸い付かれるとパラライズのような痺れを伴うから結構厄介なやつだ。一人でいる時に痺れて動けなくなったら、大量のマッドヒルに吸い付かれて死ぬこともあるのだ。
「マーギン、どうする?」
「ま、魔法で対処出来るから大丈夫かな。お前らズボンの裾を靴に縛れ。マッドヒルは裾と靴の隙間から入ってくるから、それをするだけでだいたい防げる」
マッドヒルはこういう温暖な地域に生息する奴だからロッカ達も対処方法を知らないだろう。
マーギンはカザフ達にこうするんだぞと教えながらズボンの裾からマッドヒルが入って来ないように括り付けていく。
「マーギン、うちの靴はブーツみたいになってへんから括られへんねやけど」
「なら、布を巻き付けてやるから足を出せ」
さらしのような布をピーッと割いて包帯状にしてハンナリーの足に巻いてやる。それをしてからズボンの裾を縛って完了。
「ロッカ達は自分で出来るだろ?」
「マーギンさん、私にもして下さい」
と、アイリスも足を出すので靴に裾を括ってやる。
「うちのもやれよ」
と、ハンナリーに対抗するかのように自分にもやれと言ってくるバネッサ。ロッカやシスコはブーツタイプの靴を履いているがバネッサはスピード重視でブーツタイプの靴ではないのだ。
「お前なぁ…」
自分で出来るだろ?と言いかけて、また拗ねられたら面倒なので、足を出せと言い換えた。
そして、バネッサのズボンの裾をベッとたくし上げる。
「あーっ」
「なっ、なんだよっ」
バネッサの裾をたくし上げたらすでにマッドヒルに食い付かれていた。
「お前もう食われてんじゃねーかよっ」
「えっ?」
バネッサはどこだっと言ってふくらはぎを見た。
「気持ち悪りぃっ」
「あっ、バカやめろっ」
バネッサは15cm程のマッドヒルを掴んで引っ張った。
ブシュッー
バネッサが無理やりマッドヒルを引きちぎった事でそこから勢い良く血が噴き出る。
「ちっ お前はさっきの話を聞いてなかったのかよっ」
「あわあわあわあわっ」
マーギンはバネッサの足をガッと掴んで水魔法でバシャバシャっと洗い流していく。ヤマビルと違ってマッドヒルは大きい分、傷口もデカくなるから出血量も多い。しかし血を止める前に傷口を洗い流して痺れ毒も流してしまわないとダメなのだ。
洗い流した後に治癒魔法を掛けていく。
「バネッサ、痺れてないか?」
「なっ、なんともねぇ…」
と、言いかけた時にカクンと崩れ落ちそうになる。
「おっと、やっぱり痺れ毒にやられたか」
マーギンは力の入らないバネッサを抱き抱える。
「なんだよこれ… 力が入んねぇ」
「こいつは無理やり引きちぎると大量の麻酔毒と痺れ毒を出すんだよ」
「麻酔毒?」
「あぁ、痛みも何も感じさせない毒だ。だから噛まれたのも気付けない。それに血を固めない成分も入ってるから血が止まらなくなるんだ。正しい手順で退治すればこうはならないんだけどな」
「どうやるんだ?」
「マッドヒルに火を近付けるだけだ。着火魔法でちょいと炙ってやれば血を吸うのを止めて離れる。そうすれば麻酔毒も痺れ毒も大量には出さない」
と、カザフ達にもし食われた時の対処方を教える。火を使えない時は塩を掛けろと言っておいた。
「マーギン…力が入んねぇのもなんとかしてくれよ…」
マーギンに抱き抱えられたままのバネッサが治してくれと言う。
「パラライズみたいに魔法の効果でそうなってるんじゃないからな、傷口は治せても痺れは治せん。自然回復を待て。数時間で治るだろ」
マーギンはそのままバネッサを背負う。
「どうする?戻るか?」
心配したゴイルが戻ろうか?と聞いてくる。
「こんなトラブルは頻繁に起こるだろうから戻らなくていいよ。いちいち戻ってたらきりがない」
と、マーギンは先に進むことを選んだ。
泥濘んだ土地をグチョッグチョッっと歩いて行く。
「マーギン、私がバネッサを背負っておこうか?お前はカザフ達の面倒を見ないとダメだろう?」
「大丈夫だ。ちゃんと見てるからなんかあったら対処する。ロッカ達は自分自身の事に気を配ってくれ。見知らぬ所だと勝手が違うからな。剣士の手が塞がってると何も出来んだろ?」
「それはそうか。何か気を付けておくことはあるか?」
「泥濘が酷くなって足が抜けなくなりそうなら早めに言ってくれ。完全に嵌ると脱出が困難だ」
「わかった」
シスコやアイリスなら深く嵌っても救出可能だが、ロッカが嵌ると重くて大変だからとは言わない。
そして沼地近くに到着。
「ゴイル達が黒ワニを狩るときにはどうやってんだ?」
「こいつを投げる。完全に顔を出してる時じゃないと無理だけどな」
と、ゴイルは腰に巻いていた縄を見せる。ほう、投げ縄で仕留めるのか。あれ難しいんだよな。
「マーギンはどうするつもりなのだ?」
「釣ろうかと思って」
「は?釣るだと?」
「そう、餌を投げて喰い付かせる。で引っ張ってくるんだよ」
糸付きの矢を射って、刺さったら引っ張るつもりだったが、魔狼の肉が大量にあるので作戦変更。準備をする間にバネッサをロッカに預け、魔狼の肉を切れない糸に括り付けていく。
「そんな細い糸でドラケに敵う訳がないだろうが」
「この糸はかなり丈夫なんだよ。ほら、草刈りを頼んだだろ?あれを使った糸だ」
「本当になんとかなるのか?」
「ま、物は試しだ。やってみてダメなら他の方法を考える」
と、マーギンは答えて、黒ワニを探すのであった。
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