晴れろぉぉぉっ
ー翌日ー
「ロッカ、ガキ共とハンナを預けていいか?」
「ん?別行動をするのか?」
「俺はこの村の長老に聞きたい話があるんだよ。一緒に来てもいいけど年寄の話はガキ共には退屈だろ?」
「何の話を聞くのだ?」
「タイベの昔話というか歴史だな。お前らも興味あるか?」
「いや無い」
「だろ?雨も降ってるし、散策も出来んだろうからな。ここまでずっと移動を繰り返してたんだから一日ゆっくりとしててくれ。飯関係はタジキに食材を渡してあるからなんか作らせて感想を言ってやってくれると助かる」
「わかった。時間が掛かるのか?」
「どうだろうね?すぐに終わるかもしれないし、長くなるかもしれない。年寄の話は読めんよ」
「わかった。ならば我々はここでゆっくりとしていよう」
そしてゴイルがマーギンを迎えに来てくれたので長老の婆さんの所へと行ったのだった。
ー長老の家ー
「連れて来ました」
敬語を使うゴイル。こういう村では長老は偉いのだろう。
台座に祀られるように座っている小さい婆さん。置物みたいだ。
「ゴイルよ、お主は下がれ」
「しかし…」
「お主にはつまらん話じゃろうて。この国の歴史を長々と聞きたいのか?」
「い、いえ… 悪いなマーギン。俺は退散するけどかまわねぇか?」
「いいよ。俺に付き合わせるのも悪いし」
「明日はドラケのいる場所を案内してやるからな。雨が降ったから見付けやすいと思うぞ」
「わかった。終わったら自分で戻るから気にしないで。明日宜しくね」
おう、と返事をしたゴイルは長老の家を出て行ったのであった。
「初めまして長老様。俺はマーギンと言います」
まずは挨拶から始めるマーギン。
「ふむ、お主は使徒様か?」
何だ使徒様って?
「使徒様とは?」
「神の使いの方を使徒様と呼ぶ。月の女神ムー様の使徒様ではあるまいか?」
「いや、神様と会ったことなんてないですよ。もしかしてこの髪を見てそう思われたのなら勘違いです。自分が生まれた国はこの髪色と目の色をした人が大半ですので」
「そうなのか… いやこれは失礼した。ゴイルからこの国の昔話を聞きたいと聞いているが何が知りたいのじゃ?」
「ゴイルから神様の話を聞きまして、ちょっと気になる事があったんです」
「気になること?」
「はい。昔の言葉で〈シャー〉という言葉は敬うとか帰依するとかそんな意味だと聞きました。これは合ってますか?」
「ふむ、ずいぶんと古い言葉を知っておるのじゃな。そう、この地は今ではタイベと呼ばれておるが、その昔はシャーラームーと呼ばれておった。太陽の創造神ラーと月の女神ムーを祀る国という意味じゃ」
やっぱりここはシャーラムだったのか。
「そうでしたか。信仰深い国だったんですね」
「ちと長い昔話になるが聞いて行くか?」
「はい。是非」
マーギンがそう答えると長老は昔話を始めたのだった。
ー過去のシャーラムー
シャーラムは雨続きで日照不足に陥り不作が続いていた。人々は太陽の神ラーに晴れて欲しいと祈り続け、雨が止むのを願った。しかし、雨は降り止まず、洪水が発生し病気がまん延していた。
「太陽神ラー様、何卒っ 何卒、お顔をお見せくださいっ」
人々は一心不乱に祈り続ける。その時に太陽のような明るい金髪の幼い少女がこの国に現れたのだった。
この地にはいない透き通るような白い肌に金色の髪。初めて見るその姿に人々は晴れて欲しいとの願いを叶える為に神が降臨したのだと思った。
「ラー様…」
皆が一斉にラー様、ラー様とその少女にひれ伏す。
「な、何じゃ貴様らは?私は少し食料を分けてはもらえぬかと思って…」
「ラー様っ ラー様っ 何卒っ 何卒っぉぉぉ」
拝み倒される少女。
「誰がラー様じゃっ。私の名前はミスティと言うのじゃ。誰と勘違いしておる?私はただ少し食料を分けてはもらえぬかと…」
「お供えでございますかっ。みな、家にある食料を持ち寄れっ」
それぞれが家に戻り、なけなしの食料を持って来た。
「こ、こんなにはいらん。少しだけで良いのじゃ」
それでも食料を押し付け、何卒っ何卒ぉぉぉと拝み倒されたミスティは仕方なく人々の話を聞くのであった。
話を聞いたミスティはしばらくここに滞在して雨を止ませる魔法を考案することに。しかし、いくら工夫しても天気を操る魔法は膨大な魔力を必要とした。
「皆のもの、良いか」
「はっ」
「今から晴れ乞いの儀式を行う。集まれるだけ人を集めよ」
ミスティは一人の魔力では不可能でも大勢の人から魔力を集めれば大規模魔法陣を起動させる事が可能だと判断し、天候を操る魔法陣を作りあげた。
ただ、大量の魔力を必要とする他の大規模魔法陣でも人を集めた魔力で起動することが世に知られると悪用される恐れがある為、宗教の儀式としてカモフラージュする事にしたのであった。
しかし、いざ儀式を始めようとしたミスティには宗教的な儀式の知識がなく、どうやればカモフラージュ出来るか思い付かない。そして今は神と勘違いされている状態なので人々に宗教的な儀式のことを聞くわけにもいかないのだ。
ええーい、ままよ。
…
……
………
「晴れろぉぉぉーーーっ」
ミスティは叫んだ。
えっ?と驚く人々。てっきり
目を丸くした人達から見つめ続けられるミスティ。
「なっ、何を見ているのじゃっ。私の後に続かんかっ」
これは不味いとは思ったが、今更引っ込みがつかなくなったミスティは皆にも続けと怒鳴った。
「はっ、晴れろぉ…」
小声で晴れろとボソボソという人々。なんか一気にこの少女が胡散臭くなってきたのだ。
「声が小さいっ。晴れろーーーっ」
「は、晴れろぉぉ」
「もっともっとぉ 晴れろーーっ」
「晴れろーー」
「お前らの願いはそんなものかっ。もっと腹の底から声を出せっ。晴れろーーーっ」
「晴れろぉぉー」
なんか自己啓発セミナーみたいになっていく晴れ乞いの儀式。ミスティはこの状況を押し切る為に、もっともっとぉぉと皆を鼓舞していく。そしてそれはだんだんと激しさを増し…
「晴っれろ ほら晴っれっろ」
「晴っれろ 晴っれろっ」
ミスティはその場でぐるぐると周り、晴っれろと踊りだした。それを見た人々も回って晴っれろっ♪と踊るように祈りだす。それがだんだんと強い願いとトランス状態を生み出し、人々は魔法陣に魔力を注ぐ形になっていく。
そして魔法陣が起動する魔力が溜まった時に雨雲に隙間が空き、一筋の陽の光がミスティを照らした。
「うむ、成功じゃ。これからも雨が降り続いて困った時は同じようにやれば良い」
「ラー様っ ラー様っ」
皆はラー様に感謝の祈りを捧げる。そして雨が止んで安堵したのと、トランス状態から開放され、かつ魔力切れになった人々はその場で気を失って倒れた。その隙にミスティは少しの食料をもらって逃げたのであった。
ー長老の家ー
「太陽神ラー様の使徒様は、雨が降り続いた地に現れ、人々と共に晴れ乞いの儀式を行い、見事救ってくれたのじゃ」
「へぇ、一番初めに使徒様が来たのは太陽神ラーを祀る村だったんだ」
マーギンは今の話を聞いて使徒様がミスティであった事には気付いてはいない。長老の話では村を救ったのが神自らではなく、男性の使徒様になっていたからだ。長い年月の間に少し話が変わっていたのだ。
その後、風の神を祀る村、土の神を祀る村、水の神を祀る村でも同じような事が起こったのだそうだ。
「月の神様の所は何もなかったの?」
「ムー様の所は使徒様が二人現れたのじゃ。ラー様の使徒様とムー様の使徒様。魔物に脅かされていたムー様を祀る村に、二人で仲良く現れたじゃ」
「で、そこでは何をしてくれたの?」
「作物を食い荒らす魔物を退治し、聖なる食べ物を分け与えてくれたのじゃ」
「へー、ムー様って月の女神なんだよね?豊穣の神様みたいな事をしたんだ」
「ムー様は生と死を司る神様と言われておる。邪悪な魔物には死を、信仰深い清らかな者には生を与えて下さるのじゃ」
「聖なる食べ物が皆を救ったとかそんな感じ?」
「そうじゃな。お二人の使徒様は度々ムー様を祀る村に現れておったようじゃ。そして毎回ムー様の使徒様はラー様の使徒様に甲斐甲斐しく料理を作り、それを皆にも分け与えたそうじゃ」
「へぇ、ムー様の使徒様って良い奥さんみたいだね」
「そうじゃな。しかし、ムー様を祀る民はシュベタインの者がこの地に来た時にムー様を祀る神殿を守ろうとして滅ぼされてしまったのじゃ」
「神殿なんかあったんだね」
過去の話とはいえ、今関わりのある人達の祖先がこの地の民を滅ぼしたとか聞くのは嫌だな。
「ラー様を祀る神殿はまだあるのだぞ」
「まだ残ってるの?」
「ミャウ族という者たちがその地を守り続けておる。他の民は入れぬのでどのような物かは知らぬがな」
先住民達の歴史はだいたいわかった。事実かどうかはわからないけど、この話を元に文化形成されているのだろう。
「あと、魔王の事とか知ってる?」
「ムー様の使徒様が現れた頃と同じ年代の話じゃな。言い伝えではラー様、ムー様の使徒様が魔王を倒してくれたのではないかと言われておる」
「使徒様が?」
「さよう。魔王が倒された後に愚かにも次は人間同士で争い、シャーラームー以外の国は滅び去った。そしてそれを嘆いたのか人間に愛想が尽きたのか、使徒様は二度と人の前に姿を現さなくなってしまったのじゃ。これが約4000年程昔の話じゃな。そして生き延びた者達がまた村を作り、街を作り、国を作り、そして争いを繰り返したのじゃ。これが落ち着いたのが約500年前。そしてシャーラームーがその者達の侵略を受けたのが約300年前と言われておる」
約500年前っていうのはオルターネンに聞いた建国の時期と合致するが、今聞いた歴史は史実と神話が混じってるんだろうか?それに使徒様が魔王討伐したことになってはいるが、言い伝えだとしても魔王は討伐された事になっている。それに、一度文明が滅びたのは人間同士の争いが原因か。あの後何があったんだろう…
マーギンはラーを祀る村に行けば、もっと正確に伝承が残っているのかもしれないと思ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます