拗ねる

南国とはいえ、雨に打たれ続けていると寒くなってくる。それは村人も同じようでしばらく飲んだ後に宴は終わりとなり解散した。


「マーギン、寒いっ」


ガキ共が寒いと言うので、即席で風呂を作ることに。


土魔法で湯船を作りお湯を溜める。


「お前らだけずりぃぞっ。うちらのも作れっ」


「お前、外で風呂に入るつもりか?丸見えになんぞ」


バネッサがズルいと言ってくるが丸見えの風呂に入るつもりなのか?


「水着着てくるからもっと大きく作ってくれよ。ロッカ達も寒いって言ってんだぞ」


水着か。それなら大丈夫か。


マーギンは風呂を作り直す。大きめの円形タイプの湯船だ。ガキ共にも水着に着替えさせて風呂に浸かる。女性陣も来るならフル◯ンってのも宜しくないからな。


「温ったけぇぇ」


「おー、雨の中の風呂も乙なもんだな」


ガキ共と浸かってると女性陣も水着に着替えて入ってきた。もちろんマーギンも水着を着ている。


「ゔぅぅぅ〜、生き返るような感じだな」


ロッカはおっさんみたいな声を出す。水着なのに色っぽくはない。それとバネッサの方には目をやれない。思わず見入ってしまいそうなのだ。せめてシャツを着てきてくれ。


皆がふーっとお湯を楽しんでいると、マーイがタオルをたくさん持ってこっちにやってきた。


「なにこれ?」


「簡易のお風呂。雨に濡れて寒ったからね。タオルとか気を使ってくれなくてよかったのに」


「私も水着持ってくるっ」


マーイはタオルをテントの中に放り込み急いで戻って行った。そしてビキニを着て走ってくる。


なんかこう、泳ぐ場所でない所の水着ってエロく見えるのはなぜだろう?見てるこっちが恥ずかしいわ。


「わぁっ、あったかーい。マーギンは魔法でこんなのも作れるの?」


「これぐらいは簡単な形だからな」


「でもすっごいね。お風呂に浸かるの久しぶり」


こうして湯船に喜ぶマーイを見ていると、さっきまで降れっ降れっと踊っていた人とは思えないな。


「家に湯船はないのか?」


「いつもシャワーだけよ。水風呂はたまに入るけどね」


この村ではお湯を沸かして入ることは殆どないらしい。


そしてゴイルもやってきた。二人追加になったことで湯船は満員御礼だ。


「ゴイル、儀式ってもっとこう神秘的でスローな感じかと思ってたけど、激しいんだね」


「おう、水の神様は賑やかなのが好きなんだ。雨が少なくて良い時はもっと大人しい儀式だぞ。今日のはたくさん降らせて欲しいからあんな感じだ」 


なるほど、激しさ=魔力の込め方が違うって感じなのかもな。


風呂に浸かりながらちょっと飲もうかとなり、レモンチューハイを希望者に出していく。子供達には甘くした炭酸水、


「ぶはーっ 風呂に浸かりながら飲む酒は美味いな」


カザフ達もぷはーとか言ってやがる。


「だね。雨がもう少し小降りになってくれるといいんだけど」


「儀式をした日の雨はこれが朝まで続く。これで田んぼに水が溜まるんだ。1ヶ月後ぐらいに田植えだな」


田植えは1ヶ月後で、明日から苗代作りを始めるらしい。


「他の米を作る余裕はある?」


「他の米?」


「そう。もち米っていうんだけどね、他の米より粘り気が強いんだよ。籾種は持ってるんだけど」


「どれぐらいの量が必要なんだ?」


「田んぼ1枚分くらい」


「なら構わんぞ。1枚増やしとくわ」


代金は小金貨3枚でいいとのこと。これで苗代、田植、水の管理から稲刈、天日干しして籾にまでしておいてくれるとのこと。安いよなぁ。


身体も温まったのでそろそろ風呂も終わり。ゴイルとマーイは飯食いに来いよと言ってくれだが、儀式の宴会飯らしいので断った。また口噛み酒を飲まされるかもしれんのだ。二人は遠慮しなくて良いのにといいながら家に帰って行った。マーギン達は持ってきてくれたタオルで拭き、拭き終わったタオルを集めて洗浄魔法を掛けておく。借りた時より美しくってやつだ。


「ロッカ、お前ら晩飯は何を食うつもりだ?」


「適当に食うから気を使ってくれなくていいぞ」


「わかった」


テントの中で火を使えないのに何を食うんだろうか?干し肉とかかな?



ーマーギンのテントー


「マーギン、たこ焼きってのが食べたいぞ」


ガキ共が肉ではなくたこ焼きを所望する。


「ならたこ焼きにするか」


「めっちゃ楽しみや。うちがクルクルしたんで」


さも当然ようにこっちのテントの中にいるハンナリー。まぁ、いいけどさ。


タジキに作り方を教えつつたこ焼きの準備。先に手本を見せると次はやってみたいというので任せておこう。


ガキ共とハンナリーがキャッキャ言いながらたこ焼きを焼いていく。


 

ーロッカ達のテントー


「あいつら何食ってんだろうな?」


バネッサが干し肉を齧りながらキャッキャとうるさいマーギン達のテントの事をロッカに聞く。


「さぁな、出発前から飯は別で良いのかと何回も確認されて構わんと返事をしたからな。あっちは気にするな」


「あいつらが食ってるの遠征の時の飯じゃねーってんだ」


ケッ、と面白くなさそうにバネッサが悪態を付く。


「しょうがないわよ。調理用の魔道具まで持ち歩くとか普通考え付かないでしょ」


シスコも干し肉をいやいや食べながらバネッサの愚痴に答える。星の導き達はマジックバッグを使い慣れていないので、調理用魔道具を持ってくるという発想がなかったのだ。テントの中では火を使えないので、雨が降るとこうなるというのが今まで当たり前だったのだ。


「あっちに行って来てもいいですか?」


マーギンのテントの方を見てソワソワしていたアイリスがマーギンのテントに行こうとする。


「ダメだ。お前もくどいほどマーギンに大丈夫かと聞かれていただろうが」


「でも…」


楽しそうなマーギン達のテントに比べてロッカ達のテントの中は少しずつ雰囲気が悪くなって行く。


その時、


「シスコお姉ちゃん達、これ食べる?僕たちが焼いたんだけど」


トルクがちょっとグチャっとなったたこ焼きを持ってきた。


「トルク、私達に分けてくれるの?」


「マーギンがバネッサの機嫌が悪くなるだろうから持っていけだって」


「わぁ、ありがとうっ。いい匂いね」


「また次に焼けたら持ってくるから喧嘩しないで食べてね」


と、トルクが鉄板1回分のたこ焼きを持ってきてくれた。


「ケッ、なんでうちの機嫌が悪くなるってんだよっ。いるかよそんなもんっ」


図星のバネッサは喜ばずに拗ねた。


「ほふほふほふっ おひいでふよこれ」


早速ぱくつくアイリス。ロッカとシスコも食べ出したが、一度拗ねたバネッサは口にしない。


「バネッサは食べないのか?よくわからん食べ物だが旨いぞ」


「うちは乞食じゃねぇんだ。恵んでもらったものなんかいらねえってんだっ」


どんどん拗ねるバネッサは意地になってその後もたこ焼きを口にしなかった。


「バネッサ、何をそんなにカリカリしているのだ?ここに来るまでにもマーギンが作ってくれた飯を何度も食ってただろうか」


ロッカはバネッサがイライラしている事に段々とイラついて来る。


「うるせえっ。食いたい奴が勝手に食えばいいって言ってんだろうがっ。うちはいらねえっ」


「あー、本当にこのタコ焼きっていうの美味しいわぁ。んー、外はカリカリで中はトロッとしてて」


シスコはバネッサに当て付けるように美味しそうにタコ焼きを食べる。


「ふんっ」


バネッサはシスコの厭味ったらしい食べ方に対抗せずにふて寝をした。


(なぁ、シスコ。バネッサの奴どうしたんだ?)

(さぁ、どうしたのかしらね。何か気に食わないんでしょ)


と、ヒソヒソ話をしたロッカとシスコ。そしてシスコはチラッとマーギン達の声がするテントの方に視線をやり、やれやれとため息を付いた。


それからあと2回タコ焼きが運ばれて来たのをロッカとシスコとアイリスで平らげたのであった。

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